お姫さまと王子さまのハッピーエンド

棘蜥蜴

第1話

「あなたなんて大っ嫌いだ!!」

その声が響き渡って、我は目を覚ました。

これは一体何事じゃ?

我は白猫クリス。

ここは西の島国の王宮、その姫の部屋。

我は日当たりのいい窓際で昼寝をしていたところじゃった。

声のした方へ近づけば、そこにいたのは我が主人とその婚約者。

我が主人はその宝石のように大きな青い目からポロポロと大粒の涙をこぼし、その婚約者は自分の喉に手を当て荒い呼吸を響かせていた。

我が主人は名をメアリーという。

その婚約者はキキョウ。

メアリーは西の島国の王様の一人娘。

キキョウは東の大国の数ある王子の1人。

状況から見て先の大声は確実にキキョウから放たれたものじゃろう。

我から見る限り、2人は仲睦まじい様子だったが何があったのというのか。

「なぜ……なぜ、そんなことを言うのですか……?」

メアリーが泣きながら問うた。

「っ!そういうところが!ずっと、最初から!嫌いだったんですよ!」

キキョウは罵詈雑言を吐きながらも泣きそうじゃ。

「あんなに、優しくしてくれたのも全部嘘だったと言うのですか!」

「ええそうですよ、なんてったって俺は!悪魔憑きなんですから!」

なんじゃと!

悪魔憑きとは、生まれつき魔になる素質を持つ者の総称。

見分け方は簡単じゃ。ただ鏡にうつらない、ただそれだけ。

確かにキキョウは鏡を異常なほど避けておった。

自分の顔が嫌いだと言っておったが………まさか悪魔憑きとは。

悪魔憑きはどこにいっても蔑まれる。

しかし、仮にもキキョウは大国の王子。

醜聞を嫌って伏せられていたのじゃろう。

権力があれば行く先々で鏡を避けることも可能じゃ。

「それでもいいんです!愛があればきっと乗り越えられます!」

メアリーは悲痛に叫ぶ。

そうか、何かがあって悪魔憑きということがバレたキキョウが消えようとしそれを引き止めようとしたメアリーに対して放ったのがあの大っ嫌いだ!なわけじゃ。

「愛?そんなものどこにもないですよ。俺の名をどう書くか知っていますか!?高“貴”なる“凶”兆で貴凶ですよ!?俺は誰からも愛されない!たかが鏡にうつらないだけで!あなたなんて、鏡の姫なんて、嫌いに、憎いに決まってるじゃないですか!」

貴凶?なんと酷い名を……。

鏡の姫と呼ばれた聖女は、メアリーは何も言えず立ち尽くしていた。

「ここにきたのだって、ただの厄介払いだ!」

端正な顔をグシャリと歪めて絶叫する。

まずい。悪魔憑きが魔に堕ちる時は精神が不安定な時じゃ。このままではキキョウは……!

「…………半分、嘘です。今言ったことの半分は本心じゃない!違いますか!」

涙を拭いメアリーはキキョウの方へと歩いていく。

「来ないでください……。」

キキョウは怯み、後ずさる。

「どこにもないと信じたいだけ。本当は愛されたいんでしょう?わたしのことだってそう。あなたの優しい

あの瞳をわたしは嘘だと思いません!」

涙が一筋、キキョウの頬を伝う。

キキョウは静かに泣いていた。

メアリーがついに愛する婚約者の元へ辿り着く。

涙を拭って笑いかける。

「ここにはあなたを凶兆だと思う人なんていません。みんなあなたはとても素敵な人だと思っています。だから、安心して?ひどい名前なんて捨ててしまって?あなたはただのキキョウ。それでいいでしょう?」

メアリーは立派なお姫さまじゃった。

運命の王子さまを自分で助けられる強い子じゃった。

うう。我も猫なのに泣きそうじゃー!

「メアリー、愛してます。」

「わたしも、愛してる。」

うんうん。いい話じゃ。

と、これが2人の物語の始まりじゃ。

御伽噺のお姫さまと王子さまは の話はまだまだ続く。また気分が乗ったら聞かせてやろう。

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お姫さまと王子さまのハッピーエンド 棘蜥蜴 @togetokge

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