第7話 何かの隙間に今日も活きている矢印
矢印って、ホンマに便利です。たった一本の線と、その前に少し向きをつけさえすれば、それだけで、必要な情報が伝えられるのですから。
しかし、矢印がなくても、そこに矢印がしっかりと隠れている場合もあります。
そんな物体の一例を、挙げてみましょう。
あ、そういえば、いつぞや国会あたりに行ったお土産らしい湯飲みを拝見したことがありました。その湯飲み、日本の歴代首相が描かれていましてね、そりゃあまあ壮観さもありましたよ、それなりに。
で、ね、その湯飲みに描かれた似顔絵の皆さんの間。そこには、ちゃんと矢印が隠れているのですよね。この人の次はこの人、その人の次がまたあの人でこの人になって、さらにその人。そんな感じで、ね。
昔の人の中には軍服の人もいれば大礼服というすさまじい服の人もいらっしゃるけど、普通の背広姿の人も存外います。立て襟のワイシャツの人も昔は結構いらっしゃるね。吉田茂さんとか。まあ、歴代首相というくくりにしたらなんだかんだでおじいさんかおじさんたちばっかりだからね。禿頭も白髪頭も多数。軍靴の替え歌で禿頭を揶揄された方もいらっしゃるよ。見よ東条の禿頭、なんてね。もちろん、東条英機氏も描かれています。そりゃまあ、そうでしょ。
さてさて、矢印が隠れているのは物理的にはお茶を飲むための湯飲みばかりでないことは言うまでもありません。いろいろな本に出て来る歴代首相の表の隙間にはしっかりと、その矢印が、隠れています。
前回も申しましたが、それは日本の首相だけでなく、歴代天皇、歴代将軍などなどの一覧表にも、しっかり、矢印は根を下ろしているのです。
あ、そうそう!
歴代首相はまだしも、歴代天皇ともなれば万世一系というだけあって、家系図の要素も入ってきますね。基本思想面でのアカではなくてもあかの他人がバトンを引き継ぐ内閣総理大臣とは、そこが違うところ。徳川幕府や足利幕府、それに北条執権の歴代も、それに近いところ、ありますね。
生ごみの塊(ナマゴミノカタマリ?!)もとい中臣鎌足(なかとみのかまたり)を祖先に持つ摂関家藤原氏もまた同じ。これ下っていけば、近衛文麿公爵に至りますぞ。逆に近衛閣下からさかのぼれば、あの平等院の親ビン藤原頼通や満月おじさん藤原道長にもさかのぼれるという、世にもすごい系図。
だけど、そんな大層な五摂家や天皇家の系図なんかでなくても、同じこと。
およそ人というものは先祖が本人を0乗とみなせば血族は1代ごとに乗数が1追加されて増えていきます。本人は2の0乗で1,親は2の1乗で1、祖父母は2の2条で4、曽祖父母は2の3乗で8、とね。こんな感じで、1世代さかのぼるごとに血族の数はどんどん増えていきます。考えてみれば、これは人間だけに限らず猫様にしても一緒よ。哺乳類は、少なくとも、こういう計算になるでよ。
で、ですな。
家系図なんかなくても、否、作れば作ったで、その家系図の間にはしっかりと上に向けて、もし自分が結婚して子供や孫でもいれば下にも向けて、矢印がしっかり入ってくるのです。その矢印の数が、新旧問わず民法で言う「親等」ってことになるのですよ。共通の先祖までたどって、そこから降りていくと何親等かかわかるぞって仕組(からくり)。伯父や叔母は3親等、いとこは4親等。この4親等から婚姻は可能となります(現在の法令では)。
だけど、この矢印になじまない関係性というのも、この家系図にはいやでも出て参ります。それは、何でしょう。
なんでも矢印にすればいいってものではない。そんな関係があるのです。
次回は、そこから。
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