第41話 大臣たちの思惑 ※ザカリア

 ルチアノたちを迎えに来たが、すでに王宮へ戻った後だった。

 心配になり、セレーネに内緒で俺だけ来たのだが、床の上に倒れている兄上を発見した。


「兄上!?」


 兄上が床に倒れていることに、侍従たちは気づいていたのか、淡々とした様子で俺に言った。


「陛下になにかあれば、連絡を寄越すよう大臣たちに言われておりましたので、もうじきいらっしゃいます」

「なぜ、大臣たちが? 呼ぶのは医者だろう!」

「ご自分で毒をお飲みになったらしく、もう手遅れかと」

「兄上はまだ息がある。医者を!」


 侍従は渋っていたが、医者を呼びに行った。

 俺たちを毒殺しようとした時と、同じ毒なら解毒剤がある。

 緊急時に飲むため、持ち歩いていた解毒剤を兄上の口に注ぐ。


「ザカリア様、陛下を寝室へ運んでもよろしいでしょうか」

「ああ、頼む」


 俺の護衛のために付いてきたジュストの部下たちだったが、まさか兄上の体を運ばせることになるとは、思ってもみなかった。

 しばらくすると、侍従が言った通り、大臣たちがやってきた。


「ザカリア様。なぜ、離宮に?」

「王宮へお戻りください。昼食がまだでしょう」


 大臣たちはまるで、こうなることがわかっていたのか、動じている様子はない。


「お前たち、兄上を暗殺するつもりだったのか?」

「とんでもない。我々は陛下に変わったことがあれば、連絡するようにと、侍従に伝えてあっただけで、暗殺など滅相もございません」

「濡れ衣です」


 それにしては用意周到過ぎる。

 心を読もうとしたが、やめた。

 大臣たちはタヌキだ。

 心を偽ることくらい、どうとでもできる。

 俺自身が力を使い、疑心暗鬼に陥るはめになるかもしれない。


「陛下のことは、我々におまかせください。そして、ザカリア様は王宮にいたということにしましょう」

「どういう意味だ」

「ここにザカリア様がいたと、他の者に知れると、暗殺を疑われます。民が不安に思っては困る」

「新しい王の補佐をするザカリア様に、暗い噂があってはいけないのです」


 ルチアノという代わりの王が存在し、俺という王の予備が手に入り、兄上が邪魔になった――そういうことなのか。

 大臣たちは恨みもあるだろう。

 だが――


「兄上をなにもできない王になるよう仕向けたのは、お前たちだ。俺はお前たちの傀儡になるつもりはない」


 ジュストの部下たちが戻り、俺の護衛につく。

 大臣たちは丸腰だ。

 さすがのタヌキたちも怯む。


「セレーネが王の子を産み、俺が後見人になることはお前たちにとって、計算外だったはずだ。王宮の外で育った王子はどれだけぶりだ?」


 大臣たちが王を操り、宮廷を動かしてきた。

 そのために与えられた責務に従順な王妃が必要であり、なにもかも他人任せな王でなければならなかった。

 

「デルフィーナが王妃になっても、妃候補の教育を受けていた。だから、セレーネの代わりに王妃になることを止めなかった。そうだろう?」


 目に見えて、大臣たちは動揺していた。

 ジュストの部下たちが出入り口をふさぎ、大臣たちを逃げられないようにした。

 そこで、ようやく大臣たちは認めた。


「……ご明察の通りでございます」

「しかし、王家を守るため、そうするしかなかったのです。力を持つ子が継承するため、王に相応しいと思えない王が誕生する。そうなれば、国が滅びてしまう……」

「お前たちがいいと思って育てた王が、国を滅ぼしかけたのだが?」


 宮廷の権力をデルフィーナに奪われ、王の子の力を使われ、大臣たちまでも罰する。

 誰も止められなかった。


「兄の代で終わりにする。力に関係なく、王に相応しい者が即位するべきだ」


 兄上の元へ医者が到着した。

 大臣たちに逆らえなかった侍従が、安堵した様子で俺に一礼すると去っていった。


「ザカリア様は、我々を監視していらっしゃったのですな」


 セレーネやルチアノの身辺と、自分の周りを王宮の者に任せなかったことを言っているのだろう。

 もちろん、大臣たちにも監視の目はつけていた。

 だが、さすがタヌキ。

 おかしな動きもなく、なにも見つからなかった。 


「探したが、デルフィーナが使ったはずの毒薬の瓶が見つからなかった。ふたたび、使うため、誰かが毒薬の瓶を回収した可能性があると考えていた」


 それは一つの可能性であり、絶対にそうなると思っていたわけではない。

 だが、毒薬の瓶を手に入れることができるのは、宮廷内で権力を持ち、裏で動ける人間のみ。

 そうなると、限られてくる。


「我々を罰しますか」

「残念だが、証拠はない。兄上のワインに誰が毒を入れたのかも」

「気づいていらっしゃるのでしょう」


 俺はワインのボトルを眺めた。

 セレーネと兄上が結婚した年のワインだ。

 だが、あえて、それは口にしない。


「今回の件は、お前たちのいいように発表しろ。だが、俺がすべて知っているということを忘れるな」


 貸し一つならぬ、弱味を握られた大臣たちは頭を垂れた。


「俺がいる限り、ルチアノをお前たちの傀儡にするつもりはない」


 そう告げると、大臣たちに背を向けた。

 王家に干渉してきた大臣たちの時代が終わり、新しい時代が来る――いや、そういう時代を作るのだ。

 セレーネたちとともに。

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