第27話 仕組まれたパーティー

『ルチアノとロゼッテのマナーの練習のため、身内だけでパーティーを開きましょう』


 デルフィーナから、そんな内容の招待状が部屋に届けられた。

 もちろん、ザカリア様にも。

 断るのもおかしいし、なにより、全員で食事なんて珍しい。

 

「ごちそうかな? 贅沢してもいいの?」


 王宮に来て、すっかり質素倹約が身に付いてしまったルチアノ。

 

「え、ええ……。たまには、いいと思うの」


 ――ちょっとルチアノに言い聞かせすぎたかもしれない。

 

 それに、ルチアノとロゼッテが仲良くするのは悪いことじゃない。

 ロゼッテも最近では、ルチアノになついているし、二人でいる時は楽しそうだ。

 子供同士の関係に水を差したくないという思いもあって、晩餐会を引き受けた。


「セレーネ様の青いドレス、とても素敵ですね」

「ザカリア様が領地から取り寄せたドレスの生地。とても素晴らしいと、仕立て屋が褒めていらっしゃいましたよ」


 ザカリア様の領地から一緒にやってきた侍女たちは、パーティーと聞いて、はしゃいでいた。

 向こうでは、華やかなパーティーがなかったから、侍女たちが盛り上がるのも無理はない。

 でも――


「ザカリア様。申し訳ないですわ。私のドレスは、持っているドレスでよろしかったのに……」

「後見人は?」

「ザカリア様です」

「そういうことだ」


 ――どういうことなの……?


 そう思ったけど、ザカリア様があまりに堂々とした態度だったため、聞けなかった。

 ルチアノは、刺繍されたベストを興味深そうに眺めていた。

 そういえば、ルチアノが豪華な刺繍入りのベストを着るのは初めてだ。

 ザカリア様のパーティー用の盛装姿も初めて見た。

 紋章入りのボタンを面倒そうに留めながら、憂鬱そうな顔をしていても――


「セレーネ? どうした?」

「いえ、なにもっ……」


 侍女たちは、私をにこにこしながら、見つめていた。


「セレーネ様は、ザカリア様に見惚れていたんですよね」

「わかりますよぉ~! 普段着とは違う盛装のギャップ! つい、ときめいてしまう女心!」


 ひそひそと耳打ちしてくる侍女たち――ザカリア様のほうは、気づいていないのに、なんて勘のいい侍女たちだろう。


「セレーネ様も海の妖精みたいに美しいですよ!」

「ザカリア様と並ぶと、とてもお似合いで、うっとりしてしまいます」


 それを聞いたルチアノが、にっこり微笑んだ。


「うん。お母様とザカリア様の結婚式みたいだね!」

「ルチアノ!」


 慌てて、ルチアノの口を塞いだ。


 ――気まずい。


 そう思ったのは私だけだったのか、ザカリア様は何事もなかったように、私の手をとった。


「セレーネ。俺がエスコートしよう」

「で、でも……」

「ルチアノの勉強もかねて。レディをエスコートできないと、困るだろう?」

「え、ええ……」


 変に意識する私がおかしい。

 ザカリア様は親切でエスコートを申し出てくれているのだから、ここは素直にお礼を言うだけでいいはず。


「ザカリア様。ありがとうございます」


 微笑むと、なぜか、次はザカリア様が動揺していた。


「いや……」

「お母様、綺麗だよね」


 ルチアノがにこにことした顔で、笑いながら言ったかと思うと、どこか遠くを見るような目をした。


「――うん。お母様のほうが綺麗だよ」


 なにかを見たであろうルチアノの言葉に、私は気がついた。

 もしかして、内々のパーティーではないのでは、と。


「たくさんの人が大広間に集まってきてる」


 ルチアノの目には、今日のパーティー会場が見えるのだろう。

 デルフィーナは、私に恥をかかせるつもりで、このパーティーを開いたのだ。


――いいえ、デルフィーナの狙いは、私だけではない。


 質素なドレスを着た私たち親子を笑い者にするつもりだったのだ。


「セレーネ様! 笑顔ですよ、笑顔!」

「怖い顔になってます!」


 侍女たちが部屋を出る時、声をかけてくれた。


「ザカリア様とセレーネ様が並んでいたら、国王陛下夫妻だって、敵いません!」

「ぼくは!?」

「ルチアノ様も」


 ついでのように足されたからか、ルチアノは頬を膨らませていた。


「そうね。負けないわ」


 信頼できる侍女たちを王宮に連れてきて、正解だったと思った。

 大広間に入ると、七年前と変わらない世界が広がっていた。

 懐かしく感じる。


「セレーネ様よ!」

「お隣にいるのって、ザカリア王弟殿下ではなくて?」

「美男美女で素敵ねぇ」

「こう言ってはなんだけど、国王陛下夫妻が霞んでしまうわね」


 遠慮のない言葉の数々に、デルフィーナの権力が弱まっているのを感じた。

 私は昔と同じように微笑んで挨拶をする。


「お久しぶりですね。皆様、お元気でいらしたようで嬉しく思いますわ」


 懐かしい顔ぶれが揃っていた。

 私とルチアノが参加すると聞いて、お妃候補時代に、私と仲の良かった令嬢たちが集まってくれたようだ。


「セレーネ様がお帰りになられるのを待っていましたわ」

「七年前からお変わりなく、美しくて羨ましいですわ。わたくしなど、子供を産んでから、体型が変わってしまって」


 彼女たちは、すでに令嬢ではなく、嫁いで夫人になっていた。


「ちょっと! あなたたち! まずは、王妃であるわたくしに挨拶するべきじゃなくて?」


 不機嫌そうな顔をしたデルフィーナが、ロゼッテを連れて近寄ってきた。

 ロゼッテは、ビクビクして怯えている。


「ロゼッテ王女? どうかなさったの?」

「ロゼッテに近寄らないでちょうだい! セレーネがこの子を殺したいと思っているから、怯えているのでしょ!」

「そんなこと考えていないわ」

「ロゼッテは心を読めるのよ。ねえ? ロゼッテ、セレーネがあなたを殺そうとしているのよね」


『王女を殺そうとしている』


 根拠のない言葉なのに、その言葉は噂話のひとつとして、広がっていく。

 デルフィーナの狙いはこれだったのだとわかった。

 私を全員の前で、王女を殺そうとしている恐ろしい女だと、印象付けるためにパーティーを開いたのだ。

 七年前と同じ、私の評判を落とそうとしていた。

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