吸血姫の血を継ぐ少女(Une fille qui hérite du sang d'une princesse vampire)

ほしのしまのにゃんこ

プロローグ



何が起きているのかわからなかった。


燃えさかる火の海で倒れているのは、紛れもなく私の両親で、ここは自宅ではない。



いったい、ここはどこなのか?


何故、私達は自宅にいないの?



「な、に?お父さん、お母さんどうしたの?早く起きて逃げなきゃ!」


混乱する頭の中、かろうじて声だけは出る。


身体を動かそうにも恐怖からか強張っていて、それでもなんとか動かそうとする。



火が出ているのにあまり熱くなくて、煙があるはずなのにそれさえ見えない。


普通ならば、火事ならば二酸化炭素で息苦しくなるはずなのにそれさえない。



なんなの、これは?


完全にパニック状態になる頭の中で、誰かの囁き声が聞こえてきた。



【お前は生きてはいけないんだよ、間違えた子供だからね。】


間違えた?


何が?


ってか、誰よ!


囁いてくる声に苛立ちを募らせる。



【これは完全なる火ではない。だが、選択をさせてあげよう、お前の決めた事で両親は助かる。その代わりお前は死ぬんだよ】


そのあとに私の名前が出る。


なんで、私の名前を?


その時、ピクリとお母さんの身体が動くのが見えた。



「お母さん大丈夫?今、行くから!待ってて!」


嬉しさから歩み寄ろうとした時、ゆっくりと顔をあげたお母さんと視線が重なる。



「ごめんね、本当にごめんなさい。」


微かに聞こえてくる声に動きが止まる。


「どうして謝るの?ねぇ、お母さん?」


「もっと早く話せばよかった。でも怖かったし、それにありえないって信じていたから。だけど私達がお願いすれば良かったの。受け入れてしまえば良かったのに、それさえ怖くて。」


なんの話をしているの?



お母さんの次にお父さんの身体もピクリと動いて、ゆっくりと顔をあげた。


「私達は間違ってしまった。あの時からすべて始まっていたのに、ずっと隠していたんだ。お母さんが話していたような事が起きるとはどうしても思えなくてな。しかし、もう無理かもしれない。止められないんだな、許してな?」


お母さんって、もしかしておばあちゃん?


知らない、私は、そんな話を聞いていない!



【さあ、どうする?】


両親は何か知っている!


こんな普通ではない状況なのに話しかけてくるなんて。



【お前が目覚めては厄介なんだよ!もう選択は止めた。両親と一緒に死ねたら本望だろう?】


ふいに強い力で背中を押されて、両親のいる場所まで飛ばされて、二人の間に挟むように倒れ込む。



【ふふふ、お前がいなくなれば、皆喜ぶ。】


ぞわりと鳥肌がたち思わず振り返る。


視線の先には、銀色の髪が足首付近まで伸び、茶色混じった着物と赤黒く染まった帯を着る綺麗な女性が立っているのが見えた。


にいーと大きく笑う顔は歪み、目の色が血のように赤く、唇も同じ色をしている。


人間じゃない!


その事に気がつくと恐怖から身体が震えだした。


【可哀想にね、何も知らないで死ぬだなんて。だけど、お前は両親と同じようなやり方では死なない。だから。】


手の爪先が少しずつ伸びていき槍へと変わる。


それが、私へ向けられるとわかった途端、倒れていたはずの両親が覆いかぶさってくる。



【チっ。】


舌打ちする女性は躊躇いもなく、私達向けて腕を大きく振り翳す。



「いやーーーーー!!!」


目の前に広がる光景に大声で叫んだ。



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