『俺達のグレートなキャンプ27 独身キャンパー達の恋バナ相談』
海山純平
第27話 独身キャンパー達の恋バナ相談・アドバイス
俺達のグレートなキャンプ27 独身キャンパー達の恋バナ相談
煙の立ち上る焚き火を囲んで、三人の若者が腰を下ろしていた。夕暮れ時の山々が赤く染まり、空気が少しずつ冷え始めていた。
「おっし!今日の『俺達のグレートなキャンプ』の企画は…」石川が両手を広げて宣言した。「独身キャンパー達の恋バナ相談だ!」
富山は即座に顔をしかめた。「はぁ?また変なこと言い出した。普通にバーベキューして星見て寝るってダメなの?」
千葉は目を輝かせて、「おお!面白そう!」と、いつものように石川の突飛な企画に乗り気だった。
「今回のキャンプ場は、河原沿いの人気スポット。周りには他のキャンパーもいるからな。我々だけで盛り上がるのもいいけど、たまには周りを巻き込んでみようぜ!」石川は周囲のテントを見渡しながら言った。
確かに、彼らの周りには十数張りのテントが並び、それぞれでキャンプを楽しむ人々の姿が見えた。中には一人でキャンプを楽しむ人、カップルで来ている人、家族連れもいた。
石川は立ち上がると、両手をメガホン代わりにして叫んだ。「みなさーん!聞こえてますかー?今夜は特別企画!『独身キャンパー達の恋バナ相談会』を開催しまーす!恋愛の悩みがある方、ぜひ我々のテントに集まってくださーい!」
富山は慌てて石川の腕を引っ張った。「おい、何やってんだよ!恥ずかしいって!」
「いいじゃん、盛り上がるよ!」石川は意に介さず、周囲に向かって手を振り続ける。
予想外にも、石川の呼びかけに応じて、徐々に人が集まり始めた。
まず最初に近づいてきたのは、一人でキャンプをしていた30代半ばくらいの男性だった。
「あの…参加してもいいですか?」少し緊張した様子で男性が声をかけてきた。
「おお!もちろん!どうぞどうぞ!」石川が熱烈に歓迎した。「お名前は?」
「山田と言います。32歳です。」
「山田さん、どうぞ焚き火の周りにお座りください。僕は石川、こっちが千葉、そして富山です。」
山田さんが腰を下ろすと、続いて二人組の女性も近づいてきた。
「私たちも参加していい?」
「もちろん!どんどん来てください!」石川は笑顔で二人を迎えた。
二人は鈴木さん(28歳)と佐藤さん(27歳)、会社の同僚で一緒にキャンプに来ていると自己紹介した。
さらに、一人でキャンプをしていた高橋さん(35歳・システムエンジニア)も加わり、気がつけば焚き火を囲んで七人の輪ができていた。
「さあ、みなさん!恋バナ相談会へようこそ!」石川が中央に立って宣言した。「ルールは簡単!恋愛の悩みを話して、みんなでアドバイスし合う。そして最高のアドバイスをした人には、我々特製の『恋愛の神』バッジを授与します!」
富山はため息をつきながら小声で呟いた。「そんなバッジ、作ってないけどな…」
「じゃあ、トップバッターは…」石川は周囲を見回した。「山田さん!どんな恋の悩みがありますか?」
山田さんは少し恥ずかしそうに話し始めた。「実は…私、趣味のランニング中によく見かける女性がいるんです。いつも同じ公園を走っていて、タイミングが合うと挨拶するくらいの関係なんですが…」
「おお、それは運命的な出会いじゃないですか!」千葉が食いついた。
「でも、それ以上に関係が進まなくて…」山田さんは困ったように頭をかいた。「何か話しかけるきっかけが欲しいんですが」
「ランニングコースで出会うっていいですね!」石川が目を輝かせた。「じゃあ、作戦は簡単!まず、その女性が走っているときにわざと転んでみるのはどうですか?」
「え?」山田さんは驚いた表情になった。
「そう!『痛い痛い』って演技して、彼女が来たら『足がつった』とか言って。そしたら手を貸してくれるかも!そこから会話に発展させるんです!」
富山は呆れて石川の背中を叩いた。「そんな恥ずかしいこと、普通の人はできないって!」
鈴木さんが手を挙げた。「私は、単純に『いつも見かけますね』から始めて、『よかったら一緒に走りませんか?』って誘ってみるのはどうかなと思います」
「それいいですね!」千葉が賛同した。「自然体で行くのが一番じゃないですか」
「でも、いきなり誘うのは勇気がいるなぁ…」山田さんは悩んでいた。
「じゃあ、まずはSNSでつながる作戦はどうですか?」高橋さんが提案した。「『ランナー仲間をSNSで募集してます』みたいなポスターを作って、ランニングコースに貼っておく。QRコードで自分のSNSに飛べるようにしておけば、興味を持った人は連絡してくるかも」
「おお!それ斬新!」石川が感心した。
山田さんは少し表情が明るくなった。「それなら、ちょっとハードル低めでいけそうです…!」
次に、佐藤さんが自分の悩みを話し始めた。「私は、会社の先輩に好意があるんですが、その先輩…なんというか、ちょっと変わった趣味があって…」
「変わった趣味?」全員の目が佐藤さんに集まった。
「はい…城マニアなんです。休日はいつも全国の城跡を巡っていて、部屋には城の模型がずらりと…」
「城マニア!」石川が興奮して叫んだ。「それ超クールじゃないですか!」
佐藤さんは目を丸くした。「え?そう思いますか?」
「もちろん!」石川は立ち上がった。「城って日本の歴史そのものじゃないですか。山城、平城、水城、天守閣…それぞれに特徴があって、戦略的な意味もあって…」
「あの、石川も城マニアなの?」富山が不思議そうに聞いた。
「いや、全然」石川があっさり答えた。「でも、相手の趣味に興味を持つことは大事でしょ?」
佐藤さんは少し困ったように続けた。「でも、先輩の趣味があまりにも濃すぎて…『この石垣のカーブ美しいでしょ?』とか一時間くらい語られると、ちょっと…」
千葉が笑いながら言った。「それは確かに大変そうですね。でも、相手の趣味に完全に共感する必要はないんですよ。『すごいですね、そんなに詳しいなんて』って感心するだけでも、相手は嬉しいと思います」
「そうそう」石川が頷いた。「それに、城巡りなら二人でのデートにも最適じゃないですか。『今度城見に連れてってください』って言えば、絶対喜ぶと思いますよ」
「それはいいかもしれません…」佐藤さんは少し希望を持った表情になった。
「あと、城マニアの人って歴史好きな人が多いから、例えば時代劇の映画とか、歴史ドラマの話題を振ってみるのもいいかも」鈴木さんが提案した。
「なるほど…」佐藤さんは真剣に聞き入っていた。
「じゃあ次は…」石川が周りを見回した。「高橋さん!何か恋愛の悩みありますか?」
高橋さんは少し照れながら話し始めた。「実は…私、ちょっと変わった恋愛対象があって…」
「おお?」全員が興味津々になった。
「好きになるのは…必ず料理上手な人なんです。でも最近気になる方は、料理が苦手みたいで…」
「それって変わってるかな?」千葉が首をかしげた。「料理上手な人が好きなのは普通じゃない?」
「いや、その…」高橋さんは言いにくそうにしていた。「料理そのものが…好きというか…」
「え?」一同が不思議そうな顔をした。
「つまり…私、その人が作った料理を食べるのが好きというより、料理している姿を見るのが好きなんです。エプロン姿とか…包丁を持つ手元とか…」
一瞬の沈黙の後、石川が「なるほど!料理フェチですね!」と大声で言った。
高橋さんは真っ赤になって、「フェチというか…」と小さな声で言った。
「いや、素敵じゃないですか!」石川は熱く語った。「人それぞれ、好きになるポイントってありますよ。僕なんか、キャンプ道具を上手に使う女性に弱いんですから」
「それ、今初めて聞いたけど」富山がツッコんだ。
「でも、料理が苦手な人を好きになったのは困りますよね」千葉が話を戻した。「でも、そこは一緒に料理を楽しむチャンスでもありますよ!『一緒に料理しませんか?』って誘ってみたら?」
「それいいですね!」鈴木さんも賛同した。「料理教室に二人で通うとか」
「でも…相手の人に『料理している姿が好き』って言ったら、変に思われますよね…」高橋さんは不安そうだった。
「いや、それは言わなくていいんじゃないですか」富山が冷静にアドバイスした。「最初は『一緒に料理するの楽しそう』とか『新しいレシピ試してみたい』とか、普通に誘えばいいと思います」
高橋さんは少し安心した表情を見せた。「なるほど…そうですね」
「さあ、次は…」石川が言いかけたとき、キャンプ場の入り口から新しい参加者がやってきた。背が高く、少し緊張した様子の40代くらいの男性だった。
「あの…恋バナ相談会と聞いて…」
「おお!いらっしゃい!」石川が新参者を熱烈に歓迎した。「お名前は?」
「田中です。45歳です」
「田中さん、どうぞこちらへ!」石川は田中さんを焚き火の周りに招き入れた。「何か恋愛の悩みがありますか?」
田中さんは少し恥ずかしそうに話し始めた。「実は私…女性と話すのが極度に苦手で…」
「緊張しちゃうタイプですか?」千葉が優しく聞いた。
「いや、それだけじゃなくて…」田中さんは言いにくそうにしていた。「私、趣味が…『地下鉄の駅の写真を撮ること』なんです」
「へえ!」石川が興味を示した。「それは珍しい趣味ですね!」
「はい…全国の地下鉄の駅を巡って、天井や床のデザイン、駅名標、路線図などを撮影するのが趣味で…今までに500駅以上撮ってきました」
「すごい!」千葉が感心した。
「でも、それを女性に話すと『変わってるね』って引かれてしまって…」田中さんは肩を落とした。
「なるほど…」石川は腕を組んで考え込んだ。「でも、その趣味、実はかなりクールだと思いますよ!建築やデザインの観点から見れば、地下鉄の駅って芸術作品みたいなものじゃないですか」
「そうそう!」千葉も同調した。「特に海外の駅とか、すごく装飾が美しいところありますよね」
「それに、その趣味を隠す必要はないと思います」富山が真剣な表情で言った。「大事なのは、どう伝えるかですよ。『地下鉄オタクなんです』じゃなくて、『公共空間のデザインや建築に興味があって、特に地下鉄の駅の美しさを写真に収めるのが趣味なんです』って言えば、印象全然違いますよ」
田中さんの顔が明るくなった。「そういう言い方…確かにいいかもしれません」
「それに、写真を撮るのが趣味というのは、デートにも活かせますよ!」鈴木さんが提案した。「例えば、『今度一緒に写真スポット巡りしませんか?』とか」
「そうだ!」石川が突然立ち上がった。「田中さん、写真集作ってるんですよね?それ、展示会とかしたことあります?」
「いえ、そこまでは…」
「それなら、小さな写真展を開いてみるのはどうですか?カフェとかでミニ展示会。そこで出会いがあるかもしれませんよ!同じ趣味を持つ人と出会える可能性も高いし」
「写真展…」田中さんは考え込んだ。「確かに、一度やってみたいとは思ってました」
「それいいですね!」山田さんも賛同した。「趣味を隠すより、堂々と見せる方が魅力的だと思います」
話が盛り上がってきたところで、石川は自分の番だと宣言した。「さあ、僕も恋の悩み相談していいですか?」
「おお、珍しい」富山は少し意外そうな表情を浮かべた。「石川に悩みなんてあったんだ」
「実はね…」石川は真面目な顔になった。「会社の隣のビルで働いてる女性がいるんだ。エレベーターでよく会うんだけど、いつも本を読んでて。前に見たら『キャンプ場ガイド』を読んでたから、話しかけたいんだけどなかなかタイミングが…」
「へえ、石川も意外と普通の悩みを抱えてるんだね」富山はちょっと驚いた様子だった。
「それなら簡単じゃないですか!」田中さんが意外にも積極的に発言した。「『その本いいですよね。私もキャンプ好きなんです』って言えばいいんじゃないですか?」
「でもそれ、ありきたりじゃない?」石川が悩んだ。「もっとインパクトのある出会い方がいいなぁ…」
千葉が笑った。「石川らしいね。でも、時には普通のアプローチが一番効果的だよ。わざとらしさのない自然な会話から始めるのが良いと思うな」
「そうですね」鈴木さんも同意した。「『この前、〇〇キャンプ場に行ったんですが、とても良かったですよ』とか、具体的な情報を伝えると会話が続きやすいかも」
「それに」佐藤さんが加えた。「エレベーターって限られた時間しかないから、長々と話せないじゃないですか。だから、『よかったら、オススメのキャンプ場教えてください』って名刺渡すとか…」
「名刺渡すのちょっと強引じゃない?」富山がツッコんだ。
「確かに…」石川は考え込んだ。「でも、何かアクションを起こさないとね…」
高橋さんが静かに発言した。「私は、まず挨拶から始めるのがいいと思います。数回顔を合わせて挨拶を交わすうちに、自然と会話のきっかけが生まれるんじゃないでしょうか」
「それ、王道だけど一番確実かも」千葉が頷いた。
「そうだな…」石川は少し落ち着いた様子で言った。「たまには普通のアプローチも悪くないかもしれない」
焚き火を囲む輪は、いつしか和やかな雰囲気に包まれていた。最初は緊張していた参加者たちも、今では打ち解けて笑顔で会話を楽しんでいた。
そこへ、一人の女性が近づいてきた。
「すみません、参加してもいいですか?」
全員が振り向くと、30代前半くらいの女性が立っていた。
「もちろん!どうぞどうぞ!」石川が笑顔で招き入れた。「お名前は?」
「渡辺です。31歳です」
「渡辺さん、どうぞ!」石川は渡辺さんに場所を作った。「今ちょうど、みんなの恋愛相談をしてるところです」
「あの…実は私、とても変わった趣味があって…」渡辺さんは少し恥ずかしそうに言った。
「おお!どんな趣味ですか?」石川が食いついた。
「私…花火師なんです」
「えっ?」全員が驚いた表情になった。
「はい、祭りとかで打ち上げる花火を作る仕事をしています。でも、それが原因で恋愛が上手くいかなくて…」
「なんで?」千葉が不思議そうに聞いた。「花火師ってすごくカッコいい仕事じゃないですか!」
「ありがとうございます」渡辺さんは少し照れた。「でも、『火薬を扱ってる』って言うと、怖がられることも多くて…それに、夏は特に忙しくて、デートの予定もよくキャンセルすることになってしまって…」
「なるほど…」富山が考え込んだ。「確かに、一般的な9時5時の仕事とは違いますもんね」
「でも、それこそ渡辺さんの魅力じゃないですか!」田中さんが珍しく熱く語り始めた。「私なんか、そんな素敵なお仕事している人と知り合いたいです」
「そうだよ!」石川も同調した。「大事なのは、自分の仕事や趣味に誇りを持つことです。渡辺さんの花火に対する情熱を語れば、きっと理解してくれる相手に出会えますよ」
「それに、忙しい時期が限られているなら、そういう生活リズムを理解できるパートナーを見つけることが大切かもしれませんね」千葉が提案した。
「そうですね…」渡辺さんは少し考え込んだ。「私の仕事を理解してくれる人…」
「あと、花火師って聞くと、『花火大会に招待してくれるの?』って期待されることも多そう」鈴木さんが言った。
渡辺さんは笑った。「それはよくあります。でも、実は私たちも忙しくて、自分の打ち上げた花火をゆっくり見る余裕がないんですよ」
「それなら、『花火を一緒に見る』デートではなく、『花火を作る過程を見せる』デートはどうですか?」高橋さんが提案した。「もちろん、安全に配慮した上で」
「それ、いいアイデアですね!」渡辺さんの表情が明るくなった。「実際、作業場を見せられる範囲はあるんです」
「そうそう!自分の世界に相手を招き入れるのは、信頼関係を築く上でとても重要だと思います」山田さんも加わった。
夜も更けて、焚き火を囲む恋バナ相談会は大いに盛り上がった。初めは他人だった参加者たちも、今では打ち解けて笑いながら会話を楽しんでいた。
「みなさん、今日はありがとうございました!」石川が立ち上がって宣言した。「今日の『俺達のグレートなキャンプ』恋バナ相談会、大成功だったと思います!」
「うん、意外と楽しかった」富山も珍しく笑顔で認めた。
「それじゃあ、今日の『恋愛の神』バッジの受賞者を発表します!」石川が言うと、富山が「だから、そんなバッジ作ってないって」と小声で言った。
「今日の受賞者は…」石川はドラムロールのマネをしながら、「みなさん全員です!」
「えぇ…」富山は呆れたが、他の参加者たちは笑いながら拍手した。
「今日の一番の学びは何だったと思いますか?」石川が全員に問いかけた。
「自分の趣味や好きなことを隠さず、堂々と伝えることの大切さかな」千葉が答えた。
「そして、それを理解してくれる相手を見つけることですね」田中さんが付け加えた。
「そうそう!」石川が大きく頷いた。「どんなに変わった趣味や性癖があっても、それを受け入れてくれる相手はきっといる。大事なのは、自分に自信を持って、素直に伝えることなんだよね」
「石川、たまには良いこと言うじゃん」富山が少し驚いた表情で言った。
「でしょ?」石川はドヤ顔で胸を張った。「明日の『俺達のグレートなキャンプ』の企画は…」
「もう次考えてるの?」富山はため息をついた。
「明日は『キャンプ場でミニ相撲大会』だ!」
「はぁ?」富山は呆れ返った。
周りの参加者たちは笑いながら、「それも面白そう!」「参加していい?」と口々に言った。
夜空には満点の星が輝き、焚き火の炎がゆらゆらと揺れていた。思いがけず集まった独身キャンパーたちの輪は、この夜限りの不思議な縁を楽しんでいた。
そして、誰もが心の中で思っていた。
「明日の相撲大会も、案外楽しいかもしれない…」
『俺達のグレートなキャンプ27 独身キャンパー達の恋バナ相談』 海山純平 @umiyama117
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