祀られる彼女

@kodamas

第1話 碧との出会い


この世界には決められたレールを歩むことを強いられている人間が一定するいる。


水谷祐一もそんな一人だった。


「将来はここを継いで欲しい。」


そう言われ親からも地域の住民からも実家の神社を継ぐことを小さな頃から望まれていた。

一時はそのレールを拒み逃げ出したいと考えることもあったが、いよいよ進路を考えねばならなくなった時には神社を継ぐことが一番安泰なのでは…と思うようになっていた。

親に憧れたからとか地域の役に立てるから等といった崇高な理由はない。至ってシンプルにやりたいことが見つからなかったのである。結局はレールの上だったかと思ったが、友人たちからは「就職先が決まっているようなものだ」と羨しがられていた。


大学には同じ悩みを持つ同期がたくさんいた。

「隣空いてる?」


「あぁ、空いてるぞ。」


「サンキュ。俺赤城っていうんだ。よろしく。」


「俺は水谷。こちらこそよろしく。」


「よろしく、よろしく。んで水谷って実家は神社?」


「あぁそうだよ。岡山の山側の方にある田舎の神社だよ。そっちは?」


「俺も俺も。こっちは東北の田舎。初めて東京にきたお上りさんよ。やっぱ神社子弟ばっかだなw」


「まぁそうだろな。レールの上よ。」

「だな。」


一人っ子だから、長男だからと各々の事情で来る者が大半で、一般人は稀な存在だった。


大学の4年間はあっという間だった。

赤城の言った「これが遊べる最後の4年だな」という言葉にほかの友人全員で納得したものだ。

卒業後は次にいつ会えるかも分からない。一般の大学と違い卒業生は全国各地に散らばる。田舎であるほど人手がなく休みも碌に取れない。

この4年という時間はそんなレールを歩む者たちとって最後の休憩所なのである。

卒業式の日に約束した「またいつか」という言葉にこれほど強い力を感じたのは後にも先にもこの時だけだった。


卒業後はそのまま実家の神社に入ることとなった。大きな神社に奉職することも考えたが、父の体も老化で衰え近々引退したいという意向もあり、戻ってきたわけである。


「親父、ここはこうでいいのか?」


基本的には自分が業務を行い父がチェックを行う。小さい頃から見ていた光景だけに仕事を覚えることは早かった。


「応、ええ ええ。十分や。今日も一日お疲れさまや。それじゃあ明日の朝もよろしく頼むな。」

「はいよ。」


そうして一日が終わっていく。それの繰り返しだった。田舎は変化が緩やかだ。4年間東京で過ごし一層感じる。本日も何も変わりなく一日が過ぎていった。


しかしこの日は違った。

朝一番には本殿の掃除から始める。

現在朝の5時、日の未だ昇らず少し肌寒い気温だがそれは朝から起きている者にしか感じる事の出来ない特権である。


「フフフ~ン、フ~ン」


適当なリズムで鼻歌を歌い、そんな心地よさを感じつつも目的地につき、鍵を回した。

中へ入り準備を始める。後ろからバタンという扉が閉まる音が明かり一つ無い真っ暗建物内に響いた。

道具を取り出し階段を上る。


カランと道具を落とした音が響いた。


「は?」


おかしい。


頭が理解を拒んでいる。寝起きがどうとかは関係ない。いや、もしかしたらまだ寝ているのかもしれない。そんな事が脳によぎりつつもその一点を見ていた。


人が座っている。子供だ。

小学校高学年又は入りたての中学生程の小さな姿であったが、暗闇にはっきりと浮かび上がる白磁の肌、緑がかった黒髪にはどこからの光だろうかきらきらテラテラと反射している。

じっと見つめる黒い瞳にははっきりと自分を映し出していた。

神秘的、蠱惑的、煽情的、様々な感情が湧き出してくる。がその根底には本能的な恐怖があった。


人がいたのに閉めてしまったことへの罪悪感から?

小さな少女が突然現れたから?


違う。そんな洋画のびっくりホラーで感じる恐怖では無い。

一級の美術品には美しさの他に、恐ろしさ・不気味さを持っているがそれに似た感覚があった。

人間とは一線を画す人工的かつ自然的な恐怖。芯に迫った原初の感情がそこにはあった。


あぁ…、これが「神」か…。


そう感じるのに言葉がいらない。説明できない存在がそこに座してあった。


「は…、え…ぁ…?」


鳩豆顔とはきっとこんな顔のことをいうのだろう。ぽっかり空いた口が閉まらない。

そんな様子を暫く見ていた彼女はクスクスと笑い出した。


「酒ぇ…くれんかぁ…。祐一やぁ。」


にまにまという表現が似合う顔でそう言ってきた。

その鈴が鳴るかのような声にはっと我に返り


「何処からはいってきたんだい?てかどうして俺の名前…」


きっと人の女の子だと思いたかったのだろう質問を投げかけた。少女はにまにました顔を続けつつ、


「ずっと、ずぅぅぅぅっと昔からここに居るぞぉ。お主の祖父の祖父のもっと昔の先  祖の頃からなぁ。じゃから主のことを知っとってもおかしい事はなかろう?祐一ぃ。」


「は…?何言って…。」


「ククククク、訳も分からんという顔じゃなぁ祐一ぃ。主はここに祀られとうもんも知らんのかぁ?」


声を押し殺すような笑い声をあげながら目を細める彼女を前に未だ自身の冷静さは帰ってこない。


「祀られてるものって…、蛇神だとは聞いてるが。」


「そうじゃ、そしてそれが答えでもあるぞ。わしが祭神の…、そうじゃなぁ”碧”と名乗ろうかのぉ。」


「あ、碧…?」


「クフフ、そうじゃ。呼び名があった方が呼びやすかろぅ。それよりぃもぉ。」


するりと立ち上がりこちらの方に近づいた。その唐突な動きに反応出来ず、あっさりと尻もちをついた。碧に抱き着かれた際に後ろから引っ張られたようだ。

碧は足の間から体をくねらせ、


「はよぅ酒をくれんかぁ?クフフ。」


と耳元で囁いてきた。甘露のような声に体を強張らているとクスクスと笑い首元に顔を埋めた。


「すぅぅぅ…。クフフ、ええ匂いやねぇ。美味しそうな匂いやぁ。レェロォ…緊張で少し汗ばんどうねぇ。酒の肴にしてまおかぁ。」


ニマニマ顔に戻り首筋をチロチロと舐められる。その未知の感覚にもっと体が硬くなるのを感じた。


「わ、分かった。酒を準備するから離れてくれっ!」


慌てて体を離そうとする。碧は残念そうに体を離し再び座した。

急いで酒を準備して渡そうとすると、碧は案の上の三方の方に向き「そこへ」と指さした。


「神様へのお供えもんはそっちやろぉ。はよぉ。はよぉ。」


こうしてみると言葉は見た目相応に見える。笑いを我慢しながらも三方の上に瓶子を乗せた。碧の方振り返るとその手には供えたはずの瓶子がにぎらている。

こちらの驚く様子に気づき、またニマニマした顔に戻り酒を煽っている。きっと肴にされているんだろう。


そんなことをしているといつもの時間を大きく過ぎていることに気が付いた。

急いで準備をする必要がある。


「えっと…碧さま? すみませんが準備があるのでどいてもらえると」


「そうじゃった。そうじゃった。すまんのぉ、忘れとったわい。それでは励めよぉ。また後で会いに来るでな。」


また来るんかい…。

神という存在は案外暇なのかもしれない。そんなことを考えているとその姿が見えなくなっていることに気が付いた。

あの人、本当に人じゃないんだ。それが分かって一人ぶるりと震えるのだった。



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記念すべき初投稿!!

ドンドンパフパフ!!


暇を極めた結果書く側になったこだまです。

稚拙かつ不定期ですがご覧いただけたら幸いです。

最後に…ロリババアって良いよね!!

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