第40話「前髪ハンター」
髪型を気にするのは女子だけ、なんて言葉は、もう遠い昔の話だ。
今や男子だって、いや、むしろ男子こそが「前髪命」な時代である。
特に高校生や大学生くらいの男の子たちは、スマホのカメラを「携帯用の鏡」として使いこなしている。
通学途中のホーム、コンビニのガラス、自販機の反射。
あらゆる“映り込み”を逃さずチェックするその姿は、まるで前髪を獲物とするハンターだ。
画面をジッと見つめ、真剣な顔で前髪をチョンチョン……。
「よし、今なら誰も見ていない」と思ったかのように、ササッと整えて去っていく。
すまない、私は見ていた。
その一連の流れをしっかり目撃し、なぜか共感してしまったのだ。
そう、前髪は命。女子も男子も、そこは同じだと思う。
朝、0.5ミリ単位で角度を調整して「今日の私は完璧」と出発しても、
外に出た瞬間、風がビューッ。湿気でフニャッ。自転車でバサッ。
一瞬で努力が崩れ去るときの、あの絶望。
「私の30分、返して?」と空を見上げた経験、誰にでもあるはずだ。
それでも、やっぱり人は今日も前髪を整える。
なぜなら、髪型って「自分らしさ」そのものだから。
ほんの数本の毛先で、その日の気分が変わる。
だからスマホを片手に、真顔で前髪を整える男子がいたら、
私は心の中でそっとエールを送りたい「わかる、あなたの気持ち」と。
そして私もまた、早めに会社へ着いて、トイレの鏡の前で前髪をチェックする。
この数分の儀式が終わらないと、一日が始まらないのだ。
そんな私に、同僚が笑いながら言う。
「あれ?妖怪アンテナたってるよ」
「ぎゃあ!?なおしたのに!?」
……前髪を直したとしても、癖っ毛の私は、いつも通り前髪の妖怪アンテナをたたせるのだった。
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