第24話「ボタン係の静かな役割」
エレベーターに乗るとき、ちょっとしたルールのようなものがある。特に決まりがあるわけではないけれど、自然とできあがっている暗黙の了解。それは「最初に乗った人がボタン係になる」ということ。
私はなぜか、その「ボタン係」になることが多い。先に乗って、扉の横に立ち、後から乗ってくる人たちに目的階を聞かれる。時には目が合っただけで、「お願いします」とでも言うように、階数ボタンの前に立つことになる。ごく自然な流れだ。誰もが無言のうちにその役割を委ね、私はそれを引き受ける。
面倒かと聞かれれば、まったくそんなことはない。むしろ私は、この小さな役割が好きだ。ボタンを押すたびに、見知らぬ誰かの「目的地」に協力しているような気がする。仕事で疲れた顔の人や、子どもを抱えたお母さん、スーツ姿の若者。それぞれの階、それぞれの生活に向かってエレベーターは静かに動いていく。
たった数秒のこと。会話もほとんどない。でも、この短くも静かな共同体に、自分の存在がちゃんとあると感じられるのだ。エレベーターが目的の階に着き、「ありがとうございます」と小さく声をかけられることもある。そんなとき、ほんの少しだけ温かい気持ちになる。
役目を終えて自分の階に降りると、また次の誰かがボタン係になるのだろう。この静かなリレーのようなやり取りが、今日もどこかで続いている。
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