第4話「雨の日の、好きと嫌いのあいだ」
雨の日は、好きじゃない。だけど、嫌いでもない。
曖昧で、はっきりしないこの感情を、私はずっと持ち続けている。
傘をさしているのに、風にあおられて頬が濡れる。せっかく整えた髪は、湿気にやられてうねり、ぺたんとしてしまう。低気圧のせいか、どこか頭が重くて、体がだるく感じることもある。駅に着いて傘を畳むとき、どうしてもスマートにいかなくてイライラする。そしてなにより、気を抜くと靴の中に水が入り、一日中不快な思いをする羽目になる。
こんなふうに列挙してみると、やっぱり私は雨が好きじゃないのだと思う。
だけど、それでも「嫌い」と言い切れないのは、雨には雨の美しさがあるからだ。
窓の外に落ちる雨音は、どこか心を落ち着けてくれる。ポツ、ポツ、ザアーッと変化する音のリズムは、まるで自然が奏でる即興の音楽のようだ。
街を歩けば、濡れたアスファルトに雲や建物が映り込んでいて、いつもとは違う世界に見える。水たまりの中に逆さまの空があるなんて、晴れた日には考えもしないことだ。
葉っぱにちょこんと乗った水の粒。光に当たってキラリと光るその姿は、小さな宝石のようで、ふと足を止めて見とれてしまう。蜘蛛の巣に連なる雨粒は、まるで繊細なネックレスのようで、自然の造形美に感動させられる。
そして、子どものころから変わらず好きなのが、カタツムリに出会えること。
普段はどこに隠れているのか分からないのに、雨が降るとひょっこり現れて、のんびりと歩いている。その姿を見るたびに、少しだけ嬉しい気持ちになる。
たぶん私は、雨の「現実」と「風景」のあいだで揺れているのだと思う。濡れて不快な日常と、美しく静かな非日常。そのどちらもが雨の顔で、私はその両方を知っているから、好きにはなりきれず、嫌いにもなれない。
結局のところ、私は今日も傘をさしながら、ちょっと憂うつな顔をして歩く。でも時折、水たまりの中に浮かんだ空や、葉の上の小さな宝石に目を奪われて、ほんの少しだけ雨の日が好きになる。
そんな小さな好きと嫌いのせめぎ合いが、雨の日の楽しみなのかもしれない。
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