声劇台本 八百万記シリーズ
田島ラナイ
第1話
八百万紀 世界設定資料集 この世界観が基になりやす
1. 世界の地理と主要国家
大和国:東西に海を臨み中央に霊峰「天御嶽(あまみたけ)」を配する大陸の中心王国。古都「霊京(れいきょう)」には皇居があり、皇族は太陽神の末裔とされる。全国に神社が点在し、武士・陰陽師の名門が政治と祭祀を担う。稲作と茶の文化が盛んで、四季の祭礼や田楽踊りなど伝統文化が色濃く残る。
霧津連邦:南方の温暖な島々からなる連邦国家。常に霧に包まれた多島海に、護法の竜神を祀る熱帯の古都「龍都(りゅうと)」を盟主都市として小国群が連合している。漁業と交易を生業とし、海と水の精霊信仰が厚い。各島は独自の方言や衣装を持ち、色彩豊かな祭礼と舞踊が文化の特徴である。遠洋航海に長け、香料や薬草など南海産物の交易で栄える。
九天帝国:西方大陸を支配する広大な帝国。天空の星辰にちなみ「九天」を号とし、剣と魔法に長けた騎士団と術士団が国政を担う。首都「天輪宮(てんりんきゅう)」は岩山の上にそびえ、龍や雷神を象徴とする宮殿・天空寺院を擁する。軍事国家として好戦的で、周辺諸国に度々侵攻して領土を広げてきた。鍛冶技術が極めて発達し、鋼鉄の武具と城郭を築いている。
凍牙国:極北の厳寒地帯を領する諸族連合。鋭い牙の形をした「凍牙山脈(とうがさんみゃく)」と氷原が広がり、首都「氷鎮(ひょうちん)」は氷岩で造られた要塞都市である。狩猟民族が主で、豪雪にも耐える文化を持つ。山岳の霊獣や雪女を神聖視し、氷の儀式が重んじられる。焼畑農耕は乏しく、冬季の霊獣狩りを生業とする勇士たちが名高い。
2. 歴史的背景(神話時代~現在)
創世神話:天地開闢の遠古、太陽の女神と月の神が現れ、光と闇の理を成したという伝説が残る。大地には山神・龍神などが宿り、風神や雷神が自然を司ったとされる。初期の世界では神々が山野を開拓し、人間が現れる前から八百万の怪異が跋扈していたと伝えられる。
神代英雄伝:やがて人間が現れると、天叢雲(あまのむらくも)の霊剣を手にした英雄たちが邪悪な龍や鬼を討ち鎮めたという。八雲山の高僧・剣豪「八幡(やわた)」の伝説では、幽冥の扉を閉ざして世界を守ったと語られる。各地で天啓を受けた神官や巫女が神域を築き、世界に秩序を与えた時代であった。
大和建国期:神託を受けた初代天皇が即位し、各地の豪族を統合して大和国を興した。律令制を整備し、皇族と氏族が八百万の神々と先祖霊を祭りながら国を治めた。陰陽師が暦と祈祷を司り、仏典も伝来して寺院が建設された。九天帝国・霧津連邦・凍牙国など他国とも交易や文化交流を始め、技術と思想が飛躍的に発展した。
群雄割拠の時代:諸国で大名・豪族が勢力を拡大し、領地争いと内乱が相次いだ。大和では皇位継承を巡る争いがあり、九天帝国は度々領土を求めて侵攻した。武士たちは陰陽術を戦術に取り入れ、忍びや山伏らが情報戦や暗殺を行う混沌の世であった。凍牙国でも部族間の紛争が続き、霧津連邦では海賊や台風による災厄に悩まされた。
近世~現在:数十年前、各国連合は「妖怪大戦」と呼ばれる大規模な妖異災禍を防ぎ、以降は表向き安定期に入った。現在は名目上の平和が続くものの、内外に緊張が残る。帝都や連邦首都では学問と陰陽研究が進み、陰陽道の新技術が研鑽されている。人々は祭りや神楽で伝統を守りつつ、諸国の陰陽師や神官が交流会議を開き協力を図る時代となっている。
3. 妖異・神・霊的存在の種類と階層
天上の大神:太陽・月・風・雷などを司る高位神。日神(太陽神)や月神は八百万の頂点に立ち、通常は人界に干渉しないが、神託や夢を通じて巫女・陰陽師に意志を伝えるとされる。彼らは天岩戸伝承の如く神聖視され、神殿でのみ礼拝される。
山海の神霊(地祇):山神・川神・海神・田の神など、各地の自然・地形を守護する神々。巨木や清流に宿り、農耕や狩猟の安全を司る。山岳にこもる修験者は彼らと交信し、地元の祭りでは神輿がこれらの霊を象徴する。
自然精霊・依り代:木霊(こだま)や川の精、稲荷の使いである狐火(きつねび)など、自然現象や生物に宿る小霊。山野に棲み、善意を見せる者には加護を与えるが、不敬には祟りをもたらす。風の精霊が突然暴風雨を呼ぶなど、自然現象の背後には精霊の意志があると信じられている。
妖怪・魔物:獣や物が化けた存在(九尾の狐、河童、天狗、鬼、座敷童子など)。好奇心旺盛なものもいれば、人間を襲う乱暴者もいる。多くは秘術・妖術を使い、村里に災いをもたらすことがある一方、人間と取引して利益をもたらす場合もある。大妖怪は古の封印から目覚めて各地を荒らすことがあり、陰陽師・武士が立ち向かう相手となる。
幽鬼・怨霊:恨みや未練を残してこの世をさまよう亡霊。戦死者や事故死者の怨念が化した存在で、武将の祟りや無念な恋の亡霊などがいる。夜道で白骨化して出没するとも伝えられる。怨霊は怒りに燃えているため強力で、放置すれば大災厄を招くので、石碑による封印や鎮魂の儀式が村落単位で行われる。
4. 宗教と信仰体系
社殿前にある手水舎(てみずしゃ)。龍の口から流れる清水で手や口を清め、穢れを祓ってから拝殿に向かう。こうした清めの行為は信徒にとって日常的な礼拝の一部である。
神道(皇国神祀):天皇を神格化し、八百万の神々を祀る国家宗教。国内の神社では太陽神や山川の神に捧げ物をし、神職が世襲制で祭祀を執り行う。初詣や節句祭り、神楽(かぐら)や田楽(でんがく)の行事を通じて神聖を感じる。皇族・貴族は神道儀礼に精通し、古典的な祝詞(のりと)や舞楽を神事に用いる。
仏教:古来、東方(大陸方面)から伝来した外来宗教。輪廻転生や慈悲を説き、各地に寺院が建立された。真言密教や浄土系など多様な宗派が興り、高僧は武家・貴族に崇敬される。寺院は僧兵を抱え学問所も兼ね、和漢の経典を伝えた。仏像や経典、写経などを通じて庶民にも浸透し、仏式葬儀や供養が行われる。
陰陽道・修験道:陰陽五行に基づく魔術的宗教で、陰陽師が暦や方術(占いや結界)を司る。陰陽師は宮中・藩に仕えて吉凶を占い、妖怪封じや呪術で国家を護る。修験者(山伏)は山岳修行で神通力を磨き、滝行や祈祷で加護をもたらす。これらは仏教とも習合し、高野山・比叡山の修験僧は武士への祈祷師でもある。
民間信仰・祖霊崇拝:農村や漁村では土地の神、水神、稲荷神、道祖神などへの信仰が盛ん。氏神や氏子制度に従い村ごとの神社で祭礼を行う。祖先の霊を祀る祭壇や墓前参りも一般的で、盆や彼岸、節分の追儺(ついな)など先祖供養と厄払いの行事が生活に根付く。
5. 霊力や呪術、武芸・技術の理論と体系
霊力と陰陽術:すべての物に宿る霊気(霊力)を扱う技術。陰陽師は天地万物を構成する陰陽五行の理論を学び、霊力を五色や方位に分けて術式を用いる。式神(しきがみ)を結びつけて妖怪を退治し、九字護身法や祝詞(のりと)で霊気を操作する。暦学に基づき日月星辰の動きから吉凶を占い、呪文と祭具で結界を張る。
祓い・呪いの技法:穢れを祓う浄化儀礼と、逆に呪いを掛ける呪術が存在する。清めの塩やお香、神酒で邪気を祓い、御札(おふだ)や魔除けの符で悪霊を封じる。対して呪符や血文字で怨霊を呼び寄せる黒呪術も流布し、陰陽師同士の呪縛合戦で用いられることがある。大きな怨霊には「御霊鎮め」の儀式や防護壁の結界術が必要とされる。
武芸と霊剣:剣術・弓術などの武芸には霊力を込める流派が多い。特に「妖刀」と呼ばれる霊的な刀剣は、鬼や怨霊を斬る力があると伝えられ、名刀として恐れられる。戦闘では袈裟斬りで妖気を断つ技や、陰陽剣法のように舞いながら刀を振るう秘剣もある。武士や陰陽師は霊剣を受け継ぎ、戦場での御霊対策に用いる。
修験・山岳神通:山伏は入峰修行により奇跡を起こす神通力を得るとされ、呪文(真言)を唱えながら滝に打たれて霊気を高める。加持祈祷(かじきとう)で病や災厄を癒し、山々に宿る龍神・大樹神の力を借りる。また、修験者が持つ験杖(げんじょう)や錫杖(しゃくじょう)も霊力を帯びた聖具である。
秘術と魔道具:古の禁呪や霊力を封じた宝具が伝わり、呪符を染み込ませた墨で文字を綴った「呪札(まじなふだ)」や、魔鏡(まきょう)などで妖気を映し出す。魑魅魍魎を閉じ込めた常世箱や、薬草を錬成して霊力を高める「霊薬」も研究されている。これらの魔導具は陰陽師・山伏・禅僧などが少数保持し、戦乱や災厄に備える。
6. 言語、文化、衣装、建築様式
朱塗りの大鳥居が天に聳える神社。社殿は木造で漆喰塗りの二重屋根を持ち、社務所や神楽殿が配置される。伝統的な建築は神聖視され、新建材を用いた城下町の建物とは対照的に古雅な風格を保つ。
言語・文芸:大和語と呼ばれる共通語が主要な言語で、上流階級は雅語や古語を用いる。文書には漢字交じりの和文が使われ、和歌・漢詩・物語文学が貴族・武士の間で栄える。書道や絵巻物、屏風絵の制作も盛んで、文化的教養とされる。
衣装・服飾:上級武士や貴族は衣冠束帯(いかんそくたい)や烏帽子姿で、漆や金糸で装飾した豪奢な装束を纏う。僧侶は袈裟・緋袴(ひばかま)といった僧衣を着用する。庶民は木綿や麻の着物をまとい、地域や身分によって着物の柄・帯・髪飾りが異なる。神事では巫女が白装束、守護者は兜甲冑(かぶとくぬぎ)を着て舞う。
建築:神社は木造の拝殿・本殿を備え、朱塗りの鳥居や石灯籠が参道に並ぶ。寺院は多重塔や薬師如来像を擁し、仏殿や鐘楼を持つ。城郭は土塁と石垣、天守閣を備え、武家屋敷や町家は土壁・格子窓が特徴的である。庭園には枯山水や池泉回遊式があり、竹林や松林が配され、季節ごとに花木が彩る。
文化・芸能:茶道・花道・香道などの芸道が発達し、武家のたしなみとされる。貴族や町人は詩歌・俳句を詠み、茶会で和歌合や連歌会が催される。武芸では剣術・弓術の道場や相撲が興行され、伝統芸能では能楽・狂言・神楽が庶民にも親しまれる。祭りでは歌舞や山車、御輿(みこし)の渡御が行われ、収穫祭や盆踊りが地域共同体の結束を象徴する。
7. 各国間の関係(外交・戦争・同盟など)
大和国–霧津連邦:文化的・宗教的に近く、長年にわたる盟友関係。交易船が往来し、皇族と連邦の港主の婚姻も行われた。飢饉や災害時には物資を融通し合い、合同祭礼で神威を分かち合う。互いに軍事的脅威とは見なしておらず、穏健な交易同盟が維持されている。
大和国–九天帝国:旧知の宿敵同士で、度重なる国境紛争の末、現在は膠着状態。大和は九天との海上交易を続ける一方、両国とも警戒を怠らず外交摩擦が絶えない。九天は寒冷地資源を求めて北進し、大和は霊峰防衛のため辺境を固めている。
九天帝国–凍牙国:九天は北方の富鉱を狙い、凍牙国との関係は険悪。九天の使節は氷霜の部族と商談するが、凍牙側は九天の干渉を嫌い、武力を示しつつ独立を誇る。国境地帯では両軍の小競り合いがしばしばあり、緊張が続いている。
霧津連邦–凍牙国:地理的に遠隔なため交流は希薄。だが霧津の商船が稀に北方の岩塩や薬草を求め、凍牙国の交易港へ立ち寄ることがある。また、霧津の龍神信仰と凍牙の氷神信仰は似通う点もあり、祭礼時に祈りを捧げ合う文書上の協定が存在する。
諸国共通:妖怪災厄が発生した際には、太陽神に始まる聖別の盟約(「太陽盟約」)に基づいて諸国連合が結成される伝統がある。定期的に祭事や神事で連携し、妖怪退治や災害時の相互援助を誓う。主要皇族や神職らは常に密書・密使を交換し、完全なる敵対ではなく微妙な力の均衡を保っている。
8. 現在の社会構造と主要勢力
皇室・貴族:大和の天皇や九天の皇帝は神聖な存在とされる名目上の統治者。宮中には旧来の貴族(公家)や摂関家が政治的権威を持ち、位階や冠位の制度が残る。帝都では太政官に相当する院庁が行政を担い、祭祀は宮中祭祀部門が一手に引き受ける。
武家・豪族:各国で大名や侍が軍政の中核となり、封土を治める。特に大和では徳川氏に相当する有力な武家が将軍職に近い地位を占める。城下町の領主は藩政を敷き、足軽から侍大将まで階層化された侍社会を形成する。武芸・軍事力が最重要視される階級である。
陰陽師・神官:陰陽師は宮廷や藩に仕え、暦算や守護呪詛を行う専属集団。全国に陰陽師の家系や学派が存在し、時には藩同士の権力闘争の矢面に立つ。神社の神職・巫女は氏子地域ごとに祭祀を継承する世襲制で、祭祀自治体である神社本庁組織があり、全国の神職が連携する。
商人・職人:城下町や港町では豪商・豪農が台頭し、商工業を掌握する。織物屋・薬種屋・鋳物師などの職人集団は技術と情報を交流し、甲冑・刀剣・呪具などの工芸品を生産する。寺社も荘園と商館を持ち、信仰と経済の両面で力を持つ。町人は町衆として自治組織をつくり、祭礼で影響力を発揮する。
農民・庶民:農村は氏神を奉じる村落共同体で、庄屋・百姓代が年貢徴収と治安維持を担う。土地への執着が強く、田植えや収穫祭では集団的な舞や歌が繰り広げられる。飢饉や疫病の際は神社への奉納や祈祷によって被害を最小限に食い止めようとする。西欧的な身分制度はなく、庶民間の身分差は比較的緩やかである。
その他勢力:忍び(忍者)や山伏、僧兵、狐面の商人一行など、特殊な身分集団も活動する。各国に秘密結社めいた陰陽師ギルドが存在し、諜報・暗殺・護衛の任にあたる。妖怪サイドでも竜宮竜神・山姥の一族・天狗衆など、独自の組織が影響力を持ち、人間社会の陰で暗躍する者がいる。
9. 声劇で使いやすい舞台・場所の設定例
湖畔に建つ古い神社。水面に浮かぶ鳥居のシルエットが夕暮れに映え、その下に潜む未知の妖異の気配が漂う。ここでは陰陽師が霊水を汲んで祓いを行う場面や、湖底の封印が解かれて異界の扉が開く緊迫したシーンが演じられる。
山中にひっそり佇む石造りの古社。朱塗りの灯籠が参道を照らし、苔むした石段の先に闇が広がる。夜、巫女が神楽を舞う場面や、神社の奥で封印された鬼神が目覚める場面など、幻想的かつ緊張感あふれる情景として描ける。
城下町の宵宮:提灯に彩られた城下町の通り。屋台が立ち並び、人々が祭囃子で賑わう。夜討ちの襲撃や屋台に紛れた妖怪の襲来など、喧騒の中に潜む不穏を演出できる。
奥深い山林・神域:山奥の霧深い林間。古木の間から光が漏れ、鹿や狐の鳴き声が響く。山神の祠や水場などが舞台となり、山伏の修行や妖狐の神隠し、祟られた古道での逃走劇などが展開できる。
異界への門:廃寺や古い祠の裏手に続く竹林や洞窟。月明かりに照らされた石碑には封印の痕跡があり、そこから異界の門が開く。幽鬼や天狗の軍勢が這い出し、村を襲う絶望的な場面が作りやすい。
雪原・吹雪の野辺:極寒の平原に立つ小茶屋や一軒宿。吹雪で視界が遮られる中、炉辺で暖を取る者と謎めいた旅人が対峙する。雪女や雪人の襲撃、凍った湖での捜索劇など、静寂と緊張が同居する光景となる。
城・豪邸の内部:大名屋敷の広間や城の大書院。漆黒の障壁や豪華な調度品が並び、武将や陰陽師、忍びが集う舞台となる。密談を聞く下忍や襲撃の忍び入り、供物を捧げる神事、将軍の謀略会議など、重厚な人間ドラマを描ける。
(各舞台は森や山、湖、城下町など多数のバリエーションが考えられる。声劇では神社、異界、城下町、封印の地、祭りの夜など神秘性あふれる情景が効果的。)
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