02「脱出不能の流刑地」
魔導円陣を展開し、倒した魔物の上に滑らせ
魔物の素材なんて今まで業者から買っていたが、これからは自給自足で調達しなければならない。身を守るために武器やら魔導具やらの制作も必要だろう。
「このダンジョンはストレス発散には使えるかな。なかなかいい剣だった。ありがたく使わせてもらうよ」
と、俺は遺骸に礼を言う。
「約束どおり弔ってあげるよ」
穴蔵から地上に出て空を眺める。眼球に魔眼フィルターかけると空は紫色に染まって見えた。
「なんて負の魔力が厚いんだ。飛行魔法は使えないか。魔導通信も阻害されてるな」
ここは脱出不能の流刑地なのだ。
「フーゴ、周囲の探査と警戒だ。頼むぞ」
『ヤー、マイスター』
「喉が渇いた……」
空中の一点に空気中の水分を集め小さな水球を作る。口を開けてそいつを中に注ぎ込む。
自分で作った水はいつもイマイチの味だ。
飲み水はなんとかなる。ただ食料は、いずれ調達を考えなければならない。
フーゴと手分けして、とりあえず荒野を隅から隅まで探索した。一部樹海の浅い部分まで確認する。
そして俺と同じ流刑にされた遺骸を見つけて次々に収納していく。合計十三体。
ここはダンジョン開口部の影響で魔力密度がさらに高く、魔物が寄って来ない。結局最後はここに集まって亡くなったのだろう。
平坦な場所を見つけて、土魔法を使って墓穴を掘った
穴の横に
そして気分は悪いのだが、俺が生きていくため遺体漁りをする。
剣やナイフなど、戦いや
日記のような、遺書でもあるメモ帳も何通かあった。
その中の一人に錬金術師がいた。
「俺と同じで追放されたのか? まさかね」
魔力反応を探知して、その方角に向かったが魔物に何度も襲撃され引き返してきた、とある。
準備を整えたりルートを変えたり何度も試みたが、怪我をしてここまで脱出したが力尽きたようだ。
滅亡の王国探索にやって来た。仲間たちの協力を受けて代表として来た。
しかし帰りの
ヒンデミット・ベルノルトの裏切り行為だと書いてある。
「ベルノルトだって? ザームエルの父親じゃないか!」
最高顧問として錬金協会に籍を置き、今や枢密院議員でもある。その権力を利用して、馬鹿息子は会で好き放題やっているのだ。
このメモには本人の署名がない。自分の身分は隠したいのだろう。流刑地――、危険地帯に
そしてその目的も書かれていた。
「滅亡の王国、か……。何だ、そりゃ?」
全く聞いたことがない。こんな調査が行われ行われていたなら、錬金術師のあいだで噂ぐらいになってもよさそうなものだが……。
「師匠なら知っているかもな」
ザームエル。あいつもこの事情を知らないな。だからこんなところに俺を追放した。よりによって、父親の謀略の地に俺を送り込むなんて。
あのアホウが。
最後に、個人の
この私を見つけた者に全てを託す、とある。
試してみたが
「やれやれ。解読には少し時間がかかるか。まあ、これはあとでいいか」
もう一度遺骸を全て
剣やナイフなどの武器類は、申し訳ないが全ていただくことにした。俺も生き延びねばならないのだ。
手帳や装飾品類はすべて個別に収納する。
これは俺が帰還できたなら然るべき機関に提出するつもりだ。
遺品の回収を終え、適当な岩を切り出し空中に浮かべながら運んで設置、墓標とした。
指から極小に細めた火魔法を照射し、分かる場合は名前、そして服装の特徴などを刻み込んでいく。
そして土魔法で埋葬を終えた。
姿勢を正し、正面に片手を構える。同じ場所に流された仲間たちの無念を思い、神に祈りを捧げる。
「必ず帰り、あなたたちの想いを伝えます」
俺は十三の絶望たちに黙祷した。
それにしても、ここはどこなのか? 罪人を追放する場所など普通に秘密である。
出回っている地図には、ここが流刑地ですよ、などと載っていない。
なによりここは流刑というより、危険度からみても処刑地の性格が強いのだろう。
ただ、太陽の位置を観察すれば方位はわかる。
山並みを見ればだいたいの位置が想像できる。
川を見つければ平地の方角もはっきりするだろう。
フーゴのデータと俺の記憶を照合すればかなりの精度で場所を特定できるはずだ。
「フーゴ。上昇して探査をしてくれ。ただし負の魔力には絶対に入らないように」
『ヤー、マイスター』
俺も魔力探知に集中した。精度を抑えて範囲を広げる。
「あった! 確かに魔力を感じる」
ただしそれなりに遠い場所だが、目指すしかないだろう。
「フーゴ。確認できたか?」
『ヤー。登録終了』
「マッピングして方位を確定しろ。なるべく直線で移動したい」
『ヤー、マイスター。スキャン範囲でルート選定を開始』
さて、もう午後だ。ここで野営して明日の朝出発する方が妥当だが、未知の世界への好奇心が勝る。何より同じ錬金術師が命を賭けていた何かがこの先にあるのだ。
すぐにでも移動しよう。
「出発だ。先行してくれ」
フーゴを樹木の上すれすれに浮遊させながら、俺は後をついていく。
森の中には魔物の反応がびっしりだ。
剣を降りながら小石を飛ばし
「ん?」
フーゴが魔導結界を探知した。問題の魔力は結界のようだ。つまり何かを守るために錬金術が常に発動を続けている。こんな樹海の中に?
「戻れ。フーゴ」
もう日も暮れかかっている。しっかり野営を準備しなければ俺に明日はないだろう。
周囲にいくつもの錬金の罠を展開する。冒険者がダンジョンの中で引っかかるやつだ。
俺の周りじゃあ、魔物がそんな目にあう。
攻撃魔法を仕掛けた錬金術の円陣を、歩きながら適当な場所に配置していく。
小物程度が引っかかれば倒せるし、相手が強力でも警告になる。
薪になるような木切れを集めて、水魔法を反作用させ水分を抜く。土魔法で適当なサイズの岩を掘り出して配置し、火魔法で点火する。
火元素と反応して正の魔力を発する錬金術だ。俺様秘伝の融合術を使っていてその辺の冒険者が使っているモノとは効果が段違いなのだ。
続いて野営道具を一式取り出す。
師匠からは口うるさく
◆
「いいかハルト。勇者であろうと錬金術師であろうと、最後に頼れるのは自分自身の力だけだ。どんな所でも一人で生きていく術を身に付けるのだ」
「ばかばかしい」
◆
などと師匠に食ってかかっていたが、結局しぶしぶ、こんな道具をそろえて収納していたのだ。
あの時は錬金術師が野戦に参加するなど、もう戦争に負けたようなものだと反発したが、師匠なりに考えがあっての教えだったのだ。
今となっては、ありがたい話だったと理解できる。
フーゴをスリープモードで頭上の木の枝にひっかけ全周囲を警戒させる。魔物が出てくすれば警報を鳴らしてくれる。
周囲に罠を仕掛け結界を張った。
毛布を出し倒木に腰掛けて、夕食はお茶を入れてビスケットとドライフルーツ程度の晩餐だ。
「なんだか楽しくなってきてしまったな」
研究に没頭する俺にとって他の何かは煩わしいだけだった。しかし魔物に狙われ錬金術で我が身を守るこの状況は――。
「ワクワクするな」
自身の周囲に更に最小限の結界を張り、毛布にくるまって寝る。結界と火の元素が、多少なりとも眠りを守ってくれるだろう。
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