第6話 静かな決意
念のため、クラウスは最初にエルマが吹き飛ばしたオルケンの様子を確認する。
もしかすると、起き上がって奇襲を仕掛けて来るかと思ってのことだったが……その心配は不要であったらしい。
腹に一撃を受けたそいつは、口から泡を噴き出して、完全に気を失っていた。
「……ありがとう。君が助けてくれなかったらどうなっていたか」
「逃げてって言ったのに」
「あ、ごめん……」
未だに興奮ぎみのクラウスの意気が、エルマの返答を受けて消沈する。
振り返ってみれば確かに、余計なことをしてしまったかもしれない。
そう思って、クラウスは反省してしまいそうになるが……
「そうじゃない。私、逃げてって言ったのに、あなたがいないと危なかった」
「え、それって……」
「ありがとう。あなたが来てくれて助かった」
実際のところ、彼女の言葉の意味はもっと優しいものだった。
落ち込みかけた気持ちを救われて、クラウスの表情は見るからに晴れていく。
――純なクラウスの心の中に、奇妙な感情が芽生えそうになっていく。
「でも、多分急いだほうが良い」
「あ、ああ。そうだね」
しかし、冷静な状況分析が飛んで、クラウスの思考は現実に引き戻された。エルマの言う通りだ。戦闘中に爆雷を利用したこともあって、この広間には随分と大きな音が響いてしまった。
そうでなくとも、この狭苦しい空洞の中である。
今すぐにでも、騒ぎを聞きつけた新手が現れてもおかしくはない。
「だったら今すぐ外に……」
「……どうかした?」
つい反射的に、脱出の提案をしてしまいそうになって気付く。
エルマはメロウだ。このまま一緒に外に出ても、潜水艇まで連れていける確証はない。
それなのに、クラウスは彼女に軽はずみな約束をしてしまっていた。
そもそも、他のクルーが受け入れてくれるかもわからないのに……
「待って、言いたいことが分かった」
「え? な、なんのことか――」
「言わないで。すぐ済ませる」
クラウスが自責の念に襲われそうになったところを、エルマの声が遮った。彼女はクラウスに背を向けて……ずるずると広間を進み、先ほど絞め落としたオルケンの背負子を漁り始める。
「もちろん、武器は多い方がいい」
「あ……ああ、そうだね」
どうやらエルマは、オルケンが残した爆雷を回収すべきだと言いたいらしい。クラウスが言葉につまっていたのは、危険物を持ち出していくべきか悩んでいるのだと、そう思ってのことだろう。
「これは私が持っておくから、あなたは燃料」
「……そうだね」
万が一の戦闘は任せて。
そんな声が聞こえて来そうなほど、胸を張って宣言するエルマの様子を見て、クラウスは一人静かに決意する。
(どうせ、言葉にしてしまったんだ。他のみんなは……僕が説得しよう)
そうすれば、罪悪感にも苛まれず、自分の良心に正直で居られる。
そういう風に考えて、クラウスは落ちていた防水バッグと、灰素の塊を拾い上げた。
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