サイクロン

岸亜里沙

サイクロン

フードファイト大会10連覇を目指す俺の前に現れたのは、ミスターMと名乗る謎の人物。

痩せぎすの体にタキシードを纏い、シルクハットを被った出で立ちは、一昔前の喜劇王を彷彿とさせる。

──こんな奴がフードファイトの決勝まで勝ち上がってきたのか?──

俺は疑問に感じたが、どんな奴が相手でも俺は手を抜かない。

必ず優勝し100万円を持って帰るんだ。


決勝の舞台。

俺たちの目の前のテーブルには、山ほどのチーズバーガーが用意された。

これは制限時間30分の、無差別級フリースタイルの試合。

大勢の観客ギャラリーが見守る中、遂に開始スタートのゴングが鳴り響く。

──よっしゃ、いくぞ──

俺は両手にチーズバーガーをつかみ、大口を開けてぶりつく。

大きめなバンズにチーズが4枚。

そこにジューシーで肉厚なパティ。

みじん切りの玉葱とピクルスが良いアクセントだ。


ケチャップがこぼれるのもお構い無しに、俺は無心でチーズバーガーを頬張る。

だが隣を見ると、ミスターMは椅子に座ったまま目を閉じていた。

──何やってるんだ?こいつは?──

俺の食べっぷりにひるんだのか、戦意喪失といった感じか。

しかし俺は最後まで手加減ははしない。

テーブルに積まれたチーズバーガーを、どんどんと平らげていく。


残り時間5分になった時、ミスターMが動き出す。

チーズバーガーを一口かじると、頷く。

「うん。美味しいバーガーだ。それじゃあ・・・」

そう言ったかと思うと、持っていた特大チーズバーガーを一口で飲み込んだ。

──バカな!──

俺は唖然とした。

そしてミスターMは、テーブルの上のチーズバーガーを次々と手に取り、全て一口で飲み込んでいく。

──おいおい嘘だろ?──

俺がひとつのチーズバーガーを食べる間に、ミスターMは7個以上を食っている。

──ヤ、ヤバイ──

試合終了の合図とともに高々と手をあげたのは、ミスターMだった。

──こいつは何者だ?──

ミスターMは大会新記録を叩き出し、俺の10連覇の夢は潰えた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「余裕だな。マジックショーなんかより、こっちのが簡単に稼げるぜ」

ミスターMの正体は、マジシャンだった。

チーズバーガーを食べたのではなく、マジックで隠しているだけ。

しかし、誰にもそのトリックが見破られる事はなかった。



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サイクロン 岸亜里沙 @kishiarisa

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