神装機兵ディバインゲイン ~古代日本の超科学大型戦術機を手に入れたゲーマーの俺、戦闘でもラブコメでも無双する~

みなもと十華@書籍&コミック発売中

第1話 生意気お嬢様はお仕置きだ

 その日、世界は滅んだ。


 滅んだと言っても、どこぞの大統領が関税を掛けて経済破綻したとか、好きな小説の推しヒロインがアニオリキャラに寝取られたとかではない。

 物理的な意味で滅んだのだ。


 風薫る五月末、突如としてアメリカ上空に開いた異世界転移門ゲート。そこから現れた地球外生命体によって。


 もちろんアメリカ軍も応戦したさ。しかし結果は散々だった。

 正体不明の生命体に、アメリカ陸軍特殊部隊デルタフォースも、アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズも、全く役に立たず壊滅しただけ。


 頭がぶっ飛んだトレント大統領は核のスイッチを押した。

 しかし、それさえ有効的な効果を発揮できず、ただ被害を拡大させただけだ。

 そう、地球外生命体に核兵器は無意味だと、人類は悟っただけである。



「はぁああああぁ……彼女欲しい」


 世界が滅亡するというのに場違いな発言をした俺の名は、鴨木かもきあらた。とあるゲーマーで高校三年生の男子だ。

 俺にとって世界の行く末より、彼女とラブラブな学園生活の方が重要なんだよね。


「と、言っても……世界が滅んだら彼女もつくれないんだけどな」


 俺は授業をサボり、学校の屋上から街を眺めている。どうせ世界が滅ぶのに授業を受けても無駄だから。

 しかし不思議なことに社会は回っている。

 いつもと同じ、いつもと変わらない日常。これが飼い慣らされた日本人か。


 そう、地球外生命体の侵略で世界中パニックになっているというのに、日本だけは普段と変わらない日常が過ぎている。

 平和ボケして危機感が無いのか? それとも諦めムードでやる気が無いのか?


「いや、そんなことより彼女だろ。政治や経済より俺は彼女が欲しいんだ」


 今となっては自分の非モテ人生を呪う。

 ゲームは得意で、ワールドウォーリアー6やナイトオブマジックの大会で何度か優勝経験もある俺。しかし、女心にはうといのか、一向に彼女のできる気配さえない。


「俺だって高校生になれば彼女の一人や二人できると思ってたさ! でも、世界が滅んだら、ラブラブ学園生活は一生できないじゃねえかぁああああああぁああっ!」

「あんたバカなの!」


 俺の魂の叫びにツッコミを入れたのは、幼馴染のおおとり楓花ふうかだ。

 いつの間にか彼女も屋上に来ていたらしい。


「ちょっとあらたっ! 世界が大変な時に、あんた彼女欲しいとか言ってて良いと思ってんの!? ちょっとは危機感を持ちなさいよ!」


 相変わらず小うるさいメスガキだ。何かあると……何もなくても、すぐ俺にちょっかいを掛けてくる女子なのだから。

 楓花ふうかとは幼稚園からずっと一緒だ。家が隣ということもあり離れられない。もう腐れ縁かよ。


「う~ん、無いな」


 楓花ふうかを頭のてっぺんから足元まで見て評価を下す。俺の好みじゃない。

 まあ、男子たちが皆口を揃えて『可愛い』だの『付き合いたい』だのと言うのだが。


 小柄だが十分に女らしいスタイル。胸は……ちょっと控えめだが。活力あふれる元気っ娘なイメージだ。

 大きな目がクリッとして、サラサラのショートヘアーと合わさり可愛らしい。

 待て、俺が言ってるんじゃないぞ。あくまで皆が言っているのだ。


 その楓花ふうかだが、何やらふくれっ面で俺をにらんでいる。


「ちょっとぉ! 何よ『無いな』って! 失礼しちゃうわね!」

「だって楓花ふうかだぞ。小さな頃から一緒の。今さら女として見れないって」


 俺の言葉で楓花ふうかは更に気色ばむ。


「な、何ですって! このバカあらたぁ! あんたアタシを何だと思ってるのよ!?」

「何だって……薄い本で例えると、男に『ざーこ! ざーこ!』とか挑発して、後で反撃されてわからされる・・・・・・メスガキ……って、痛い、痛い!」


 楓花ふうかが俺の頬をつねっている。


「ほんとムカつく! アタシだってもう大人の女なのよ」

「どうかな? 一緒にお風呂に入った時はペッタンコだったし」

「それは子供の頃の話でしょ! てか、それ言いふらすんじゃないわよ!」


 お風呂の話をすると、決まって楓花ふうかは顔を真っ赤にする。子供の頃の話だぜ。


「まっ、いいわ。今にアタシも素敵な彼氏をつくってやるんだから」

「へいへい、勝手にしろ」

「これでもアタシ、モテるんだからね。こないだも告白されたし」

「はあっ!?」


 楓花ふうかが告白されただと!? そんなの許せねえだろ! どこの馬の骨だ!?

 楓花ふうかは俺の幼馴染だぞ! くそっ! 腐れ縁とか言ってたけど、他の男に取られるかと思うと無性に腹が立つ!


「あれっ、俺は……」

「ふんだっ、どうせ今日のお昼になれば、日本も滅んじゃうんだけどね」


 そう言って楓花ふうかは校舎に戻っていった。少々ガニ股になり肩を怒らせながら。

 そういうとこだぞ。



「はあぁ……こんなやり取りも今日までなのかよ?」


 一人になってから、大きな溜め息をついた。

 今日が日本存亡のタイムリミットだから。


 先日アメリカを蹂躙じゅうりんした悪魔型侵略的地球外生命体Demonic Invasive Extraterrestrial Lifeforms、通称DIELsディールズだが、すぐに異世界転移門ゲートから大量の怪物を送り込んできた。

 その侵攻速度は凄まじく。瞬く間にアメリカ大陸を占領し、その矛先を東西に伸ばし始めたのだ。


 物量に物を言わせたディールズは、海を埋め尽くすほどの大軍で大西洋を渡り、イギリス、フランス、ドイツと次々と占領していった。


 そして、太平洋側に向かった奴らが、ここ東京に到達するであろう予定時刻が、今日の正午頃なのだ。

 つまり俺の学園生活も今日で終わりなのか。


「ああぁ、短い人生だったぜ。どうせなら転生して、超レアスキルで無双したいところだが」


 屋上で愚痴を言っていても仕方がない。俺は残り少ない人生を有意義に過ごそうと校舎内に戻った。



 タンタンタンタン――

 階段を下りながら考える。有意義な人生とは?

 家で見逃していたアニメを全話観る? それともダメ元で好きな子に告白して玉砕とか?


「待て待て待て、玉砕しちゃダメだろ」


 そんなことを考えながら歩いてると、下の階の踊り場から騒ぎ声が聞こえてきた。


「きゃああああっ! や、やめなさい!」

「ぐへへっ! オラァ!」

「大人しくしろ! 服を脱げやコラぁ!」


 どうやら自棄になった男子が女子を襲っているらしい。いかにもガラの悪い男子二人が黒髪ロング美少女を取り囲んでいる。


 あれは……隣のクラスの?


 煌刻院こうこくいん八千夜やちよ

 まるで異世界の黒曜石ブラックオニキスかと見紛うほどの、美しく艶やかな黒髪ロング。そのご尊顔は高貴で清らかな白百合のよう。

 清楚でありながらもスタイル抜群のプロポーション。

 学園一のS級美少女だ。


 何でも家柄が旧華族だとか財閥系だとかで、男子たちも畏れ多くてだれも声を掛けられないとの噂なんだよな。


 そうこうしている内に、美少女を襲うヤカラ男子のボルテージは上がる。


「ぐへへっ! どうせ世界は滅びるんだ。最後に好きなことをヤらせてもらうぜ! 〇〇も尊厳も踏みにじってやる!」

「そうだそうだ! ヤらせろや! 学園一の美少女を汚してやんよ! ズタボロになるまでよ!」


 今にも襲い掛かろうと距離を縮めるヤカラたち。

 そりゃそうなりますよね。今日で世界滅亡なんだから。


「触らないで! それ以上近付くと、舌を切って死ぬわよ! 来ないで! くっ、殺しなさい! 誇りを失うからいなら死を選びますわ!」


 くっころ・・・・だと! おっと、いかんいかん。


「ああぁ、だ、誰かぁ……助けて」


 世界滅亡ならしょうがないと思っていたのだが、美少女の目に浮かぶ真珠のような涙が俺を突き動かした。

 体が勝手に動いたのだ。


「クズは死ねぇえええええええええええ!」

 ズドォオオオオーン!


 階段の手すりを掴んで半回転。勢いをつけたままヤカラ男子二人めがけて靴底を叩き込んでやった。


 スガァアアアアアアーン!

「ぐべぼっ!」

「がぼばっ!」


 ガタンガタンガタン、ゴンッ!

 ヤカラ男子は階段を転がっていった。


 容赦のない攻撃。無慈悲な断罪。手加減無しの一撃。どうせ世界が終わるから問題ない。

 悪は滅べだ。


「あ、貴方は……」


 美少女……煌刻院こうこくいん八千夜やちよさんが、俺を熱い瞳で見つめている。

 これはアレだな。恋に落ちるパターンの。


「あ、貴方、何てことをするんですの! 暴力はいけません!」

「は?」

「話し合いで解決ですよ。人と人は分かり合えるのです」


 おい、このお嬢様は何を言ってるんだ? 今、分かり合えず襲われてたところだろが。


「暴力はダメですよ。まったく、不調法者ですね。えっと、確か隣のクラスの……」

鴨木かもきです」

「そうそう、鴨葱かもねぎさん」

「全然ちげーよ!」


 何かムカつくな。せっかく助けてやったのに。


 俺は、この世間知らずのお嬢様をわからせ・・・・てやりたくなった。

 どうせ世界が滅ぶのなら問題ないだろう。


 ダンッ!

「きゃっ!」


 彼女を逃がさないように壁ドン。からのぉ……。

 たまたま持っていたグラボのパンフレットを丸めて握る。それを天高く掲げた。


「生意気なお嬢様にはお尻ペンペンだぜ!」

「えっ、貴方は何を……ええっ!」


 ペチーン! ペチーン! ペチーン!


 スナップを利かせた俺の手が唸る。煌刻院こうこくいん八千夜やちよさんのプリケツ目掛けて。


「ぎゃああああ! この無礼者ぉ! お父様にもぶたれたこと無いのにぃいいっ! こんな男、初めてですわぁああああぁ~ん!」


 しまった。つい暴走してしまった。そんなつもりじゃなかったのに。


 ビービーガー!

『緊急警報! 緊急警報! 本日午前十一時五十二分、太平洋沖約二百キロの地点でDIELsディールズの大軍を確認! 国民の皆様は、直ちに避難を開始してください!』


 その時、広報無線が一斉に警報を鳴らした。





 ――――――――――――――――――――

 お読みいただきありがとうございます。

 少しでも面白いとか期待できそうと思っていただけたら、作品フォローと星評価で応援してもらえると嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る