日記
宵月乃 雪白
君へ
これは君への手紙かもしれないし、消化しきれない思いをただ書き記しただけの恥ずかしい日記かもしれない。
君が投稿した一言を偶然見たよ。相変わらずの前向きな言葉で、ボクはどこか嬉しかったのと同時に胸に詰まる何かがあった。
「最幸の未来に向かって」
『最幸』最高の幸せ。
初めて君と出会ったとき、ボクは教室の端っこで小説を読んでいた。なんの小説を読んでいたのかは覚えていないけど、その1日。君との10分にも満たないやり取りは今でもはっきり覚えてる。
「連絡先良かったら交換しませんか?」
君は恥ずかしがる様子なんて微塵も見せず、堂々と笑顔でボクの連絡先を聞いてきたよね。この時、正直なところ何か気に触るようなことしたかなと内心焦って、手も震えて、発する声もおかしかった。
なんで君が遠い対角線上に座っていたボクに話しかけてきたのかは、今だに分かっていないけれど、今思い返すと1つだけ心当たりがあった。
ゲーム
ボクはその日、1回だけあるゲームを開いた。スマホが古くて充電の減りも早かったから、1回だけと自分に言い聞かせて開いた。だけど、電波が悪くて上手くゲームができなかったから、すぐにスマホを閉じて、また本を読み出した。
もしかしたら、その一瞬を君は離れたところから見ていたのかもしれない。
君と同じゲームをしていたボクのことを、ね。
だから君はボクなんかに話しかけてくれて、連絡先も交換してくれた。
友達のいなかったボクにとってこんなに嬉しいことはなかった。身内の以外のアイコン。ボクは嬉しくて、だけど誰にも言えなくて独り、散歩をしながら鼻歌を歌ったよ。
だけど、どうメッセージを送ったらいいのか、ボクなんかが送っていいのか。って迷っているうちにあっという間に1ヶ月が過ぎた。
その間、君からの連絡も一切なく、ボクはまぁしょうがないよねって君のことを忘れたりもした。
完全に君の存在を忘れた時、君から突然の連絡があった。
『良かったら一緒に遊びませんか?』
その連絡から5日間、連絡の遅いボクのスピードに対して沢山のメッセージを送ってくれて、順調とは言えなかったが、遊ぶ日にちと場所が決まった。
過保護な母のせいで遊びに行ける範囲が狭かったものの、県内でも楽しめるような場所を沢山考えてきてくれて嬉しかった。
カラオケにゲームセンター、美味しいケーキ屋さんに落ち着いた本屋さん。
ボクが歌わないということで、カラオケはなしになってしまったが、君は行きたかっただろうなと思うと今でも後悔している。
歌うことが多分、大好きな君は、ボクの歌が上手くても下手でも中途半端でも笑って、盛り上げてくれただろうに。
この日のボクは遊びに行くのに万全な心の状態ではなかった。そのことが、カラオケへ行くという大きな成長、決断の妨げになっていた。母がしつこく「本当に行きたいの?」「どうなっても知らないから」なんて言葉を吐きまくって、しまいには嫌なメッセージなんか送ってきたから、ボクはそっちに気が散ってしまっていたんだと思う。
もう一つの要因として、他人と遊ぶのが2年ぶりでどう行動するのが正しくて、嫌われないかと考えすぎていたんだと思う。
もう一度あの日に戻れるなら、ボクはありのままの自分を君に見せて、君の行きたかった場所、全部行きたい。
あの日以降、一度だけ君からまた遊ばないかとお誘いのメッセージが届いた。
素直に嬉しかった。もう二度とメッセージを交わすことなんてないと思っていたから。だけどボクは断った。
この前みたいに君ばかり喋らせてしまうかもしれない、満足させられないかもしれない。喋るのが好きなのか、本当は話を聞くのが好きなのか。
君が何を好きで何が嫌いなのか。
こんなボクが沢山の人に愛されていそうな君にもう一度会っていいのか。
始まってすらないのに、不安や暗い気持ちばかりが頭を埋め尽くし、せっかくの誘いをボクは断ってしまった。
それから君からメッセージは来なくなってしまった。
何度か君にメッセージを送ろうかと
何もないボクに話しかけてくれた君。
ハマってるコンビニのメロン味のチョコレート菓子を分けてくれた君。
話すのが苦手だと察してくれたのか、ずっと自分のことを話してくれた君。
好きな
笑顔を絶やさないでいてくれた君。
全部がボクのために我慢していた君の姿だったかもしれない、だけど君がボクのためにと、してくれたことには変わらない。
本来なら君にちゃんとお礼と謝罪をしたいが、君にメッセージを送れるほど、ボクには度胸も器用さもないからここに書くよ。
ボクなんかに話しかけてくれて、遊びに誘ってくれてありがとう。
面白みのカケラもなかったボクでごめんなさい。
君のことが好きでした。
人としてか、恋愛対象としては分からないけど、確かに君が好きでした。
もう一度、あの日に戻れるなら、今度はボクに君のことエスコートさせてください。
日記 宵月乃 雪白 @061
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