第33話 まずは自分がファンになれ

昔の富裕層の生活を想像してください。腕時計とは、召使いが巻いて、お盆にのせて差し出してくるものでした。「便利機能なんて必要としない」という発想だと聞きます。よって高級腕時計に手巻きが多く、強力な防水性能のついていない自動巻機能なんてものはないという考え方があるものと聞いています。「手巻きが高級品、自動巻は普及品」という感覚が根付きました。モノづくりは、会社が狙うターゲットで大きく変化すると感じています。


バイクメーカーに就職し、営業になったものの、自社の強みが解らない。乗り比べても解らない。しかしながら、お客様は押しのメーカーがちゃんとある。

「どこが違う?」「何に拘ったモノづくり?」

解らない事は聞いてみるを実践した。大半の人が機能・装備比較をして「だから」と答えを導き出した。納得できない。聞きまくった。


今は亡き開発実験の親分が、唯一私が納得する答えをくれた。「我社は感性評価、他社は機械評価」最初は、何のことか解らなかったが、徐々に親分の話に引き込まれて行く。「人が評価する。これこそが我が社の伝統であり、拘りである。」親分の言葉に熱が籠る。人が評価するという事は、日本らしく「もっとできるのでは?」とモノと向き合い合格に厳しい。そして、ゆとりが生まれバイクライフを長くしてくれる。一方、機械評価は、「デジタル数値で判断する」ので、合格・不合格が明解である。だが、ゆとりが無いため壊れやすい。バイクライフは短いものとなってしまう。


どうして人が評価するとゆとりが生まれるのか?

乗る人が1人では無いからです。機械評価は1つだけど、人は乗り方にクセがある。だから幅を生む。それがゆとりです。この話を聞きすっかり自社のファンになった。大好きになった。そして初めて、開発陣に感謝した。伝統に感謝した。高級腕時計の中でも、匠の手づくり時計には、破格の値段が付けられるが、支持され売れ行きは好調のようだ。モノづくりには、幅=ゆとりがある方が長持ちすると肝に据えた。沢山の人が乗っても喜んで頂ける品質を目指すのが、我々の使命だ。お客様も評価者の1人だ。その為には、まずは、自分がファンになるべきです。自社の拘りを知る事です。

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