雨の桜
九戸政景@
本文
「はあ……雨、降っちゃったなあ」
黒い雲が広がる空から降る雨を見ながら残念な気持ちを抱えて呟く。雨といっても小雨で、小雨決行の今日のゼミでのお花見には支障はない。でも、やっぱり晴れている時にしたかったのは間違いない。誰だって気持ちよい快晴の空の下でお花見はしたいから。
「はあ……」
「もう、せっかくのお花見なのにため息をついてたら楽しくお花見出来ないよ?」
同じゼミの女の子が話しかけてくる。普段からムードメーカー的な立ち位置の子だからこういうイベントはやっぱり好きなんだろう。
「せっかくのお花見なのに、小雨が降っちゃったから」
「まあたしかにね。でも、晴れてる時以外でも桜が綺麗なのは変わらないし、少し肌寒いのを我慢すれば大丈夫だよ」
ニコニコしながらその子は言う。そして桜の木の下に行くと、雨を浴びながらくるりくるりと回り始めた。他のみんなが準備でバタバタしている中、ひとり自由に回りながら雨の滴を浴びて桜の木の下で舞うその子の姿はとても綺麗で、ヒラヒラとした桜色のスカートはまるで花びらのように広がり、水色のジャケットはまるで雨の滴のように見えて僕はその子が雨と桜の精のようだと思った。
「綺麗だな……」
「え?」
「あ……う、ううん! 桜、綺麗だなと思って」
「あはは、たしかにね。でも……」
その子は僕に顔を近付けてくると、そのどこか幼さを感じさせる笑みを向けてきた。
「私に向けて言ってくれてたら嬉しかったなあ」
「え……?」
「ふふ、なーんてね。ほら、私達も準備しに行こ!」
「う、うん……」
その子に手を引かれて僕はみんなが準備をする方へ向かった。その後、無事にお花見は始まったけれど、みんなの視線が桜の花に注がれる中で僕はあの子ばかりを見ていた。すぐ隣で咲いて、その可憐さや愛らしさを見せてくる雨に咲いた桜の花を。
雨の桜 九戸政景@ @2012712
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