幕間3 VTuber部員の休日
1
ゴールデンウィークが終わる2日前、私達、わくぷろ所属のVTuber部員の3人は、新所原駅の上り線ホームにいた。
「でね、ヘンリー8世って25
「なぁ……」
「あ、でも、プロテスタント運動はもう始まってるのか。プレプロテスタントともいえるボヘミア王国でのプラハ
「どうして私らは休日の駅のホームで、結依のへんてこな話を聞かなきゃいけないんだ?」
「そもそも、
「
「それ、そのポイント名がもう答え言ってると思うんだけど」
恋は鋭い! そう、歴史上唯一の100
「そのバチカン市国が制定したっていう
「無礼だよ、あかり。
「やっぱり、お前の妄想の話じゃねーか!? 逆にお前が現実のバチカン市国の異端者リストに加えられちまえって!!」
私達は、ゴールデンウィーク中に1度は3人で遊ぼうぜっとのあかりのリクエストに応え、この日、浜松にハロセカの映画を見に行くことにしたのだ。
適当な場所で落ち合って、駅へと向かったが、丁度私達が駅に着いた時に電車が発車していったので、次に来る電車の時間までをのんびりと駅のホームでおしゃべりしながら待っているのだ。
「でも、ジャンヌダルクは有名だけど、ジャンヌを登用したヨランドダラゴンはあまり知られていないよね。この人が居なければ、百年戦争はイングランドが勝利していたんじゃないかと思うほど凄い人なんだけど、2人は……」
「そういやー、恋はもう提出した? 私らのVTuberに着させたい私服リスト」
「うん。3日前に出したよ。あの私が着たら、めっちゃかっこいいだろうなーっての」
……2人は、私の話を聞いていなかった。人の話を聞かないなんて、失礼な
あの夜――、連日の疲労でベッドへと倒れ込んだ私は、そのままいつの間にか眠っていたようだ。目が覚めて、時計を見てみると朝の4時を指していた。
目が覚めた瞬間、何かの夢を、それも思い出さなきゃ損するような夢をみた思いがあったのだけど、まだお風呂に入っていないことに気が付いたので、すぐにお風呂場に向かって、温かなお湯を沸かした。
その時には、もう、夢を見ていたことさえすっかりと忘れていた。
それからゴールデンウィークに入り、家族旅行を楽しんだのだが、2日目の夜には、私のVTuberの事を考えるようになっていた。
正直に言えば、私はあの
あかりと恋にも、『服のリストわくぷろ部に送ったー?』とメッセしてみたら、2人から『明日くらいには送れると思う。結依はもう送った?』『まだだよ。でも大体もう決まっているんだー』と返信が付いたので、『私は、今日送ったんだー』と返した。
2人も完成した
そして、今日3人で初めて遊ぶことにしたのだ。
駅のホームに電車が入ってきて、私達はそれに乗りこむ。
「豊橋くん振って、浜松くんにしてよかったよね? なんで私達、浜松くんを選んだんだっけ?」
湖西に住む私達にとって、街に遊びに行くということは、大抵豊橋か浜松のどちらかを差している。新所原から豊橋へは往復でも500円で行けちゃうのだけれど、浜松へはその2倍掛かってしまう。
余程、豊橋にあるここへ遊びに行く! というのが無ければ、ここに住む私達にとっては、豊橋で遊ぶか浜松で遊ぶかは結構適当に選んでいるのだ。
「うーん、なんとなくだろ? ていうか振ったって……」
「うん、なんとなくでしょ。後、なんで君付けしてんの?」
「2人は、どっちの街に遊びに行こっかなって時、街を男の子にしてアピールさせて選んでるんじゃないの?」
「どこの王女様だよ!? 結依、毎回そうやって選んでんの!?」
「全く、そんなこと考えず適当に選んでたけど……」
「まじかー。この選び方、なかなか楽しいんだけどな」
「お前は、いや、結依らしい選び方だと思うけどさー」
「リーズナブルなのは豊橋くんなんだよね、私らからしたら」
そう、安上がりで済むのは豊橋くんの方だけれど、じゃあ湖西の学生が毎回豊橋くんを選ぶかといえばそうではなく、時に高く付く浜松くんを選ぶ。絶対、毎回豊橋くんを選ぶことが賢い選択なのだけれど、そうはならない。
一体この選択は何によって決められているのか、と思うが、答えは『なんとなく』なのだ。まぁ、毎回豊橋くんなら、飽きるわけだし? じゃあ、私達の湖西くんは一体何をしているのかといえば、休日は駅でお客さんのために一心不乱に
「多分、あれだね。私達が豊橋に行くか浜松に行くかどうしよっかーって時に、ふと通りかかった易者の幽霊が『今回は浜松のほうが良いとの卦が出たぞよ』って私らに伝えてくれたんだよ。そして、それを受けた私らは『うーん、今回は浜松にするかー』っていう気分になり、
「そうなるとこの町、易者の幽霊だらけになるけど!? 易者は死んだら全員
「きっと、黄泉の湖西は易者の居住区に指定されてるんだよ。あーあ、他の町に産まれちゃった人たちは可哀想だねー、この恩恵が受けられないなんて」
「いや、それくらいの選択で態々易者の幽霊が占ってくれるのなら、多分どこの町でも易者の幽霊がわんさか占っていると思うけど」
そう
「着いたね! 男子高校生の99.9パーセントが現実主義者の街、浜松に!」
「おい! それなら豊橋は、女子が99.9パーセント負けヒロインの街になるぞ!?」
浜松へ到着した私達はササシティへ入る。そこでハロセカを鑑賞して、遅めの昼食を取った。ちなみに、映画は大変良いものであった。それからササシティ内を遊び尽くしていたら、あっという間に夕方となり、私達は駅に向かう。
「そっか、私は浜松くんを選んだんじゃなく、ササシティくんを選んでいたんだ」
「もういいよ、その話!」
帰りの電車内でも楽しく
楽しい1日だったなぁ。週明けは学園がまた始まるというのに、憂鬱な気持ちはこれっぽっちも湧いてこない。
「いよいよだねー」
「そうだな」
「むしろ、早く来てほしいよね」
憑き物が落ちたかのように私達は明るくなっている。そして、その日をいたく待ち望んでいる。この気持ちの変化に、私達は誰一人気付いていない。
あの夢で、あの私に連れて行かれたあの島のことを、私は憶えていない。そもそも、あの夢自体を、私は全く憶えていない。そして今も、私はあの島にいることに、私は気付いていない。
私達は、再来週にはしているであろう初配信に、心をドキドキさせていた。
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