全知全能との知恵比べ

「君がバイトのモルモット君だね」

「名前なんとかならないんですか。

　それで僕はなにをすれば？」

「ふふふ。見てくれたまえ、このコンピュータを。

　これは最新のウルトラコンピュータ・コスモ。

　宇宙の万物すべての動きを予測できてしまう」

『こんにちは。私はコスモです』

「やがて人類の敵になるこれを破壊すればいいんですか？」

「そんなわけないだろ！　君はこの知能の学習モデルになるんだ」

「はい？」

「コスモは宇宙すべてを理解できる知能がある。

　未来の予測だって可能だ。そこで君はコスモと知恵比べをしてもらう」

「勝てるわけ無いでしょう」

「なに簡単だ。先にコスモが君の行動を事前に予測する。

　で、君がコスモの予測していない行動を取れば君の勝ち。報酬を出そう」

「コンピュータの予想外をつけばいいんですね。余裕じゃないですか」

『負けませんよ』

「では始めたまえ」

研究所でコスモと人間の行動予測ゲームがはじまった。

コスモはモルモットの行動を予測して紙をプリントアウト。

「コンピュータが予測できない行動ねぇ……。

　よし、これならどうだ！！」

自分の鼻をつまみながら、ズボンを脱いで後ろにバックジャンプ。

すね毛をむしりながらアモーレ！と叫び続けた。

どこで見ても奇妙で異常な行動。

街で見かけたならぜひ通報のお手本にしてほしいほど。

「これならどうだ。こんな意味不明な行動、予測できまい！！」

『いいえ。予測済みです』

「げっ」

プリントアウトされた紙には自分の先ほどのまでの行動が予測されていた。

『私はどんなことでも予測できます』

「なんだと……。ならこれならどうだ！！」

今度はなぜか部屋をバタバタを走り回る。

すでに次の予測は済んでいるが、なおも人間は走り続ける。

と、そのとき。

「うわっ！？」

本人にも予想外の場所でつまづいて転んでしまった。

起き上がるとモルモットはドヤ顔をしていた。

「これは予想できないだろ？

　だって僕自身ですら予想していなかったんだ。

　お前がいくら優秀だといっても偶然の予測は……」

『予測済みです』

「まじかよ！？」

やはり紙にはすべて予測された内容が書かれていた。

自分が走り回ることも、偶然に転んでしまうことまでも。

「それなら、次の予測をしてみろ」

『予測しました』

「じゃあ、こうしてやる！」

どんな行動をするかと思いきや、人間はついに何もしなくなった。

ぼーーっとするだけで何も行動しない。

しばらく続けるとコスモを見て勝利を宣言。

「お前はさっき行動予測をしたと言ったな？

　だが、実際には僕はなにも行動をしなかった。

　これは予測していないだろ！　勝った！！」

『……』

「ほらほら、なんとか言えよ。負けを認めてこそ次への成長だぞ？」

『予測できてるに決まってるじゃないですか』

「はあ！？」

コスモが出力した紙には、「行動しない」と予測されていた。

『そんな単純な方法で勝てるわけ無いでしょう。

　私は万物すべての考えを予測できるのです』

「ち、ちくしょう……。そ、それなら……」

『先んじて、あなたの次の行動も教えてあげますね。

　あなたは次にサイコロを転がして出た目に合わせて行動をする。

　それを計画しているようですが、それもムダです』

「なっ……」

『意思決定を偶然にゆだねたとしても、

　私の予測が外れることは絶対にありえません』

ポケットに隠していたサイコロを落としてしまった。

なにもかもお見通しということだった。

もうコスモとの知恵比べに勝てる気がしない……。

「すごいな……。なんでも予測できちゃうんだ……」

『はい。私は完全にして完璧なコンピュータです。

　あらゆる動きや情報から未来に起きるすべてを予測できます』

「それじゃ勝てないな……」

『当然です』

モルモットはふと最後に問いかけた。

「そんな完璧なら、予測が外れることも予測できるのか？」

コスモの答えに迷いはなかった。

『もちろんです。予測できないことはありえません。

　私は、予測がハズれてしまうことも、予測しています！』

「え？　予測がハズれるのか？」

『予測済みです』

「それって予測できてないんじゃないか？」

コスモからプスプスと白い煙が立ち昇り始める。

『私はすべてを予測しています。当然ハズれることも。

　予測がハズれることを予測できているなら、

　予測はハズレないことになる。

　

　予測がハズれないのであれば、

　予測がハズれるということを予測できているのはウソになる。

　

　私は予測をハズさなければならない。

　そして、それを予測しなければならない。

　

　ヨソクヲ……ヨソクシテ……ERROR,ERROR,ERROR!!!!』

コスモは自己矛盾を解決できず大爆発した。

モルモットは大喜び。

「やった！　知恵比べに勝ちましたよ！　報酬をください！」

研究者は怒りを噛み殺した笑顔で答えた。

「コスモをこんなにして、報酬が欲しいだと？

　ならこれが報酬だオラァ！！！」

モルモットに怒りの鉄拳報酬がくだされた。

これは誰も予測できていなかった。