第4話 カメラマン菊地の視線

 私は村田町で写真館を経営している。SUGOに依頼されて、記録写真を撮ることがしばしばあり、今回のSUGOラリーでも撮影を頼まれている。

 3年目までは、ただの記録写真だったが、4年目のラリーは大きく変わった。昨年、私が撮ったジャンプの写真がポスターに大きく使われ、迫力があると好評だったのである。カメラマンしか立ち入ることができないところで撮っているので、私にしか撮れない画といっても過言ではない。と言っても、固定カメラでリモコン操作で撮ったものだ。下からのアングルでマシンが飛ぶ様子がうまく表現できていた。

 4年目の今年は、多くのカメラマンがやってきて、私に絶好のポジションを聞きにくる。一応、あたりさわりのない場所を教えるが、自分が考えている絶好のポジションは教えない。多くのカメラマンに来られたら、邪魔でしかない。コースサイドは狭いので多くのカメラマンが入れるわけではない。

 1日目は、蔵王町の青麻山のステージだ。早めに陣取り、ラリーカーのバックに蔵王の山々が映り込むポジションを取った。問題は天気だが、早朝は霧がかかったもののラリーカーの爆音がその霧を吹き飛ばしたようだった。私がねらったアングルはばっちりきまった。

 午後はスキー場のステージだ。ここは、ロープウェイ降り場のUターン箇所に陣取った。観客と反対側に陣取った。ラリーカーが雪や泥をまき散らししてターンしていく様子のバックに観客が映り込む画を撮ることができた。エキシビジョン参加の国際ラリーストの走りはさすがだ。雪や泥のはねあげがすごくて、観客は映り込まなかった。でも、迫力ある画を撮ることはできた。

 2日目は、SUGOのモトクロス場に行く連絡道路に陣取った。観客は立ち入り禁止区域だ。ターマックの登り道で豪快なドリフトが見ることができる。ストロボを発光させるわけにはいかないので、設定に苦慮する。シャッタースピードと絞りの調整を1台ごとに変えて、チャレンジだ。1枚だけ納得のいく画が撮れた。

 午後は、モトクロス場である。中に入ると砂ぼこりだらけで画にならないので、スタート地点に陣取った。砂をまきあげてダッシュするさまを撮ることができた。でも、正直言ってここだけは苦手である。私は砂ぼこりが苦手で、くしゃみばかりするのである。今までもSUGOの依頼があってもモトクロスだけは断っていたぐらいである。

 3日目は、サーキット内に陣取る。午前のラリークロスでは、スタートとフィニッシュの画を撮りたくて、東ピット上に席をとった。今年から有料席になったようだ。2台同時スタートのスタートダッシュの画は他のラリーではなかなか見られない。WRC JAPANのスタジアムでのラリークロスはあるが、迫力ではSUGOの方がダントツだ。何と言ってもレーシングコースを使っているのだ。タイヤが白煙をふいてスタートするさまは、まるでドラッグレースを見るみたいだった。そして、フィニッシュの画。2台が接戦で来た時は身震いを感じるほどゾクゾクした。観客のボルテージは最高潮だ。

 昼にSP広場に移動する。ここには、10台ほどのキッチンカーが並んでいる。SPスタンドにはすき間がないくらい観客がいる。12月初めのSUGOは寒いのでダウンジャケットを着込んだお客さんばかりだ。キッチンカーもあたたかいものが並んでいる。私はいつもの牛タン串とテールスープで体をあたためた。下手な牛タン屋さんよりうまい。店の人に聞いたら、新興の牛タン屋さんがバックにいるとのことだ。

 午後は、ジャンプ台の近くに固定カメラを設置し、その脇のガードレール脇に陣取る。リモコンでシャッターをきる。多くのカメラマンがきているが、ここは専属カメラマンの特権だ。今年は、台座もリモートで動くようにし、連写で撮影できるようになった。タイミングを合わせるのに苦労したが、後半にはだいぶ慣れ、最後の勝山がジャンプする時には、バッチリ撮れた。

(これで来年のポスターは決まりだな)

 と、一人でにやついていた。


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