第3話 初日
「サトシー、ごはんよー」
母さんの声で、おれは目を覚ました。朝の七時。おれはううんとのびをしてから、ぼんやりと昨日のことを考えた。宇宙人が、おれの引き出しから出てきて、おれと結婚すると言ったんだったっけか……。あれは夢だったのだろうか?
のろい足どりで一階の食卓に行ったおれは、果たして、夢ではなかったことを知った。食卓には、当の宇宙人がいた。納豆をもくもくとかき混ぜている。
「ルナちゃんは本当に美人ねえ。宇宙人ってこんなにきれいだったのね。サトシったら、隅に置けないんだから」
のんびりと言う母さん。おれは「おい、おい、おい!」と慌ててつっこんだ。
「なにあっさり受け入れてるんだよ!」
「あっさりって?」
「宇宙人とか、結婚とか、もっと驚けよ!」
「あらあ、今は多様性の時代じゃない。宇宙人も、宇宙人との結婚ももちろんありよ。素敵だわ。サトシは要領もあんまりいい方じゃないし、いい子と出会えるか不安だったけど、この子ならすごくいいわ。ねえ、お父さん」
「ああ」
父さんがうなずく。な、なんて親なんだ。おれはがっくりきた。突然現れたどこの馬の骨とも分からない女の子を、なんでこんなに信頼できるんだ。
「おい、お前」
納豆を食べるルナに向かって、おれは言った。「まあ、お前ですって。女の子に向かって」母さんがごちゃごちゃ言うが、おれは気にせず続ける。
「おれはお前と結婚なんてしないからな! おれはちゃんとした恋愛をして、ちゃんとした結婚をするんだ。自分の本当に好きな相手と」
「自分の本当に好きな相手」
ルナがポツリと言う。ん? とおれはルナの顔を覗き込む。ルナの濡れたような双眸が、こちらをまっすぐ捉えている。
「サトシさんはいずれ、私のことを本当に好きになれると思いますよ」
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