箱の中で

@yui1201

第1話

スクールバッグを肩から下げると、後ろの部分が肩からはみ出てしまう。

そしてその部分が人にぶつかってしまうと、僕は半強制的に左に90°回転してしまう。


僕は、今乗っているこの満員電車で、少なくとも一周は回転している計算になる。

もちろん、左に90°回転したとき、そのままの状態でいるわけではない。僕が乗っている電車で、4回人とぶつかった、という意味だ。

満員電車を好む人はいない。だいたい、せまい、とか、人が多くて窮屈だ、という理由で、それを嫌う。

しかし僕は、やはり、「スクールバックがよく人にぶつかる」という理由で満員電車を好まない。

ぶつかった後の「あっすぅー(あっすいません)。」と言っている時間や、その後スクールバックが肩からはみ出ないように調整している時間は、自分で自分を恥じる。

何より、そんな些細なことを恥じている自分を恥じる。


「次は 羽村町 羽村町 降り口は右側です」

車内アナウンスの声は、僕が学校へ近づいていることを淡々と伝えているように聞こえて、ときどき怖くなる。学校へは、行きたくない。ねむいし。

つり革は自分の身長とは合わず、少し高いところにあるので、腕を伸ばさないと届かない。隣の、スーツを着たサラリーマンぽい人は、腕を曲げて余裕そうにつり革をつかんでいる。

それと比べてしまうと、やはり、恥ずかしい。

前を見ると、スマホの画面を見て笑い出しそうになるのを、頑張ってこらえている人がいる。その隣には、やけに大きい白いヘッドホンをつけながら目をつむっている人もいる。

窓は、その大体をビルが占めていて、突き抜けるような、爽やかな気持ちにはなれない。


満員電車というのは、なぜこうも僕をうしろ向きに引っ張るのか。

人にも押され、景色にさえも押される。


電車という、ちいさいちいさい箱の中で、僕は、何よりもちっぽけになっていた。

何かぶつかったと思えば、いつの間にか僕は左に90°回転していた。

僕はほぼ条件反射で言った。 


「あっすぅー。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

箱の中で @yui1201

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ