魔女の子、異端審問官になる〜生き別れになった魔女の王の母と再会するため、異端審問官の学校に通う女の子の物語〜

ハニィビィ=さくらんぼ

第1章:魔女の王と娘

第1話 灰になる故郷

とある夜更け前の森の中。


日没直後の空は紺色に染まっており、星々がビーズのように散りばめられていた。


一旦目を向ければその光景に目を奪われ、注意が疎かになり足を小枝に引っ掛けたり木にぶつかってしまうが、少女は眼前の光景に見たまま動けなくなっていた。


自分の母親と、先刻自分達を訪れた謎の少女が、殺し合いを繰り広げていた。


母が腕を振ればオレンジの、炎に似た光線が放たれ、少女が剣を振れば雷の、まさに稲妻と形容される激しい閃光が幾本も走る。


両者の技は激突し、その余波は周囲の森林に流れ、土を抉り、樹々を燃やす。


彼女の生まれ住む豊かな森は、黒煙と燃え盛る樹に埋め尽くされた。


少女の鼻を炭と化した樹々が発する煤けた臭いが通り、耳を爆炎と雷撃、燃える樹の中の空気が爆ぜる『パチ、パチ・・・』とした軽やかな音が入る。


いや待て。


新しい音が耳に流れてきた。


悲鳴だ。


火の手から逃れようと必死に逃げる鳥たちのつんざくような、今まで聞いたことないような鳴き声。


身体に燃え移った火を振り払おうとするが、その術が分からず、ただ走ることしかできない獣の断末魔。


聞くに堪えない、辛い音が聞こえ続けるが、少女は耳を塞ごうとしない。


頭の中を白く塗りつぶされてしまったのだ。



焼失しようとする故郷と、優しい母が見知らぬ者と殺し合いを繰り広げている、その現実に。


「これは・・・少々骨が折れよるのぅ。」


「貴様も、中々にしぶといな。」


茫然自失とする自分を余所に、母と少女は技比べをするかのように殺し合いに興じていた。


「あっ、あっ・・・。」


優しい母の恐ろしげな形相が怖かったのか、はたまた見知らぬ人物が殺されんとするのを止めるためか、もしくは単純に、自分だけ蚊帳の外に置かれていることに業を煮やしたのか・・・。


膝を付いていた少女はゆっくりと立ち上がって、二人に近づいた。


入り乱れての乱戦を繰り広げる両者に、少女はゆらゆらと手を伸ばす。


その直後、激しくぶつかった光線と雷撃によって生じた衝撃波が、あろうことか少女の方に向かっていった。


「リリー・・・!!」


気付いた母親が止めようとするがすでに遅く、炎と雷が混じった煙の波は少女を飲み込み、両足が根元から千切れて左腕の肘から下が炭化して無くなり、顔の皮膚の半分が焦げた少女の身体が宙を舞った。


「ま・・・ま・・・。」


意識が飛びかけ、喉も焼けたせいで、か細くガラついた声で少女は母を呼んだ。

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