子供の遊び
鈴隠
子供の遊び
息子の学校で流行っている遊びが変なんだが
名前:名無しの投稿者
投稿日:20XX/04/18(土) 21:42:09
最近、うちの子が学校で少し妙な遊びをしているようなんです。
名前は「かがみうつし」。
ルールは、こんな感じだそうです:
1.静かな場所に集まり、各自が手鏡を持ち寄る。
2.それぞれ、鏡を背後に向けて、自分の後ろに“何がうつっているか”を予想する。
3.鬼役が順に鏡を覗き、実際に何がうつっていたか答え合わせをする。
4.ただし、もし“本来うつるはずのないもの”がうつった場合――その鏡は学校裏の池に捨てなければならない。
うちの子に聞いたところ、「北口の下駄箱」とか「図書室横の階段」では“うつりやすい”から避けるらしいです。
「何がうつるの?」と聞いても、
「いちゃいけないやつ」としか言わず、それ以上は話したがらない。
どうやら実際に“見た”という子もいるらしいのですが、詳細は語りたがりません。
昔からある遊びなんでしょうか?
なにか不気味で、気になって仕方がないんです。
もしこの遊びをご存じの方がいたら、教えてもらえませんか?
――
最初は、ただの気味の悪い話だと思った。
だが、読み進めているうちに、ある部分が引っかかった。
「北口の下駄箱」「図書室の横の階段」「学校裏の池」
――これらすべて、俺が通っていた小学校と同じ場所だ。
名前も、配置も、雰囲気さえも一致している。
だが、ひとつだけ決定的に違っていた。
俺が在学していた頃、そんな遊びはなかった。
「かがみうつし」なんて聞いたこともなかった。
当時流行っていたのは、もっとくだらない、他愛ない遊びばかり。
最近になって“広がった”ものなのだろうか?
なにかが、無性に引っかかった。
――そういえば、うちの親もあの小学校の出身だった。
一世代違うだけで、校則も雰囲気もがらりと変わったという話は聞いていた。
もしかしたら、以前にも似たようなものがあったのでは――?
そう思い立ち、夕食後すぐに父に尋ねてみた。
「ねえ、昔、“かがみうつし”って遊び、学校であった?」
父は一瞬だけ黙り、箸を置いた。
そして静かに話し始めた。
「“かがみうつし”って名前は、聞いたことないな。けど……ひとつ、思い出したことがある」
「なに?」
「“なまえまぜ”って遊び、聞いたことあるか?」
首を横に振る俺に、父は続けた。
「自分や友達の名前をバラバラにして混ぜ、新しい名前を作るっていう遊びさ。あだ名づけの延長みたいなもんだ。
でもな、それには“絶対に作っちゃいけない名前”があるって言われてた」
「……どんな名前?」
父の声が少し低くなった。
「“ひつぎ とうや”って名前だ」
聞き覚えはない。けれど、なぜか胸の奥に引っかかる、不思議な響きだった。
「俺たちの学年じゃ、その名前は誰も使わなかった。けど、一つ上の学年でふざけてその名前を作ったグループがいたらしい」
「……それで、何かあったの?」
父はうなずいた。
「そいつらが“なまえまぜ”をしたのは、裏の池のそばだった。
それからだ。学校の中で、“見たことのない子ども”を見たって噂が出始めた」
「知らない子?」
「生徒じゃない。見覚えのない顔、制服も違う、名札をつけた男の子。
その名札には――“ひつぎ とうや”って書かれてた」
「……!」
「他にもあった。北口の下駄箱に名前が貼られてたり、図書室の貸し出しカードに記入されていたり。
昇降口で“とうやくん”って名前を呼ぶ声を聞いたって話もな」
「それって、まさか……」
「先生たちも動いたらしい。けど結局“見間違い”や“悪ふざけ”ってことで片づけられて、話自体がなかったことにされた。
それ以来、“なまえまぜ”はやるなって暗黙のルールになった。
けど、今の子たちは……知らないんだろうな」
その瞬間、あの投稿のルールが脳裏をよぎった。
――「本来ないものがうつったら、その鏡は学校裏の池に捨てなければならない」
“本来存在しないもの”が、鏡にうつる。
“作ってはいけない名前”が、存在しないはずの子どもを生み出す。
――関係がないとは、思えなかった。
――
その後、久しぶりに昔の友人と連絡を取る機会があった。
思い切って、例の話をしてみた。
「なあ、お前の息子って、俺らと同じ小学校通ってるよな?」
「そうだけど、何かあった?」
「いや……ネットで“鏡の遊び”の話を見てさ。
学校の裏の池とか、場所が完全に一致してて気味悪くて。なんか心当たりあるかなと思って」
「気になるな……ちょっと息子に聞いてみるよ」
数日後、友人から連絡が来た。
「……例の遊び、たしかにあるっぽい。“かがみうつし”。言ってたとおり鏡持って集まってやるって話だった」
「……マジで?」
「しかもな。他のクラスで“見た”子がいるって話もあった。
顔真っ青になって、泣いて帰ってきたんだって。それ以来、遊びはやってないらしい」
「なにを見たって?」
友人は少し躊躇してから、言った。
「“とうやくん”って……名札をつけた男の子らしい」
――とうや。
あの名前だ。
“作ってはいけない名前”。
“ひつぎ とうや”。
存在しないはずのその子は、
今もまだ、あの校舎の中を――彷徨っているのかもしれない。
子供の遊び 鈴隠 @rukbat1215
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