第2話

 聴診器をラカの上半身の至る所に何度か押し当ててから、医者はジェームズの顔を見て、この上なく険しい顔をした。

「もう治らないみたいね私。一か月前から熱も咳も止まらないし。お医者さんの言う通り不治の病の一つ。コルカタ猛熱病みたいね。ジェームズおじいさんと一緒に旅や冒険に行けたときが、とっても懐かしいわ」

「そうかい? それは大変だね。咳くらいなら咳止めという薬があるんだよ」

「あ、お医者さんを変えてみようよ。きっと、違うことを言うわ」

「いやいや、ラカ。お医者さんは誰でも優秀なんだよ。たくさん勉強をしているからね」


 ジェームズはベッドに横たわる真っ赤な顔の孫娘のラカの愚痴を窘め。軽い眩暈を覚えた。コルカタ猛熱病は、その悪魔的に恐ろしいところは、かなり長い時間をかけて、徐々に体内が破壊されつつ熱が上がっていき、終いには息の根が止まるまで、熱にうなされつづけてしまうというものだった。

 ここは清涼な風しか通らない昼下がりの屋敷の小部屋だった。ジェームズは旅先からすぐに帰ってきて、その足でルコルベック家の屋敷へ急いで赴いたのだ。

 それにジェームズには、心底不安でもあるが、決してそうはならないだろうと思っている心の部分もあった。いや、正確には記憶の部分だ。

 ラカの決して治らない病。

 コルカタ猛熱病は治るはずだった。

 何故なら、ジェームズには奥の手というものがあるからだ。   

 少年時代に興味を持ち、耳にしていた宝石の話を、大人になってから世界中で探していて、多くの旅先でも決まって口々に旅人から、いわれている八宝石の存在というものがある。


「八宝石を全て手中に収めたもの。どんな願いも叶えてやろう」


 今から100年前に日本という場所の海域にある無人島から、奇跡的に出土した石版にそう書かれていた。


 石版は旅行船が難破した際に、乗組員の一人が偶然見つけ、それから不思議と帰還できた乗組員が、愚直にも会社へ届けてから、それからずっと後になって研究所へ運ばれた。


 その後、石版は100年間もの間に様々な研究をされ、でてきた事実は恐るべきものだった。石版は、おおよそ5千年前に作られたオーパーツだとわかったのだ。書いた人はもはや人類ではないのだそうだ。


 何故なら、書かれた石版の文字は現代のどんな言語にも対応できるシンプルな文字だったからだ。 

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