その20:不老不死は命懸け(後編)

 一か月後。ラスライス侍従長の予測通り、毒消しキノコは問題なく入手出来た。そしてそれと人魚の卵を持ってヨリとサラドラ先生を伴って、僕らは皇太后様にお会いする為、皇太后様の離宮に赴いた。他のパーティーメンバーには今回のクエストを受けた事は内緒にしてある。今回のミッションは極秘であり、万一、毒見が失敗したら、ヨリはクエスト途中で事故死した事になるのだ。でもサラドラ先生。今日はなんか元気がないな。やはり僕らがバクチに出た事を怒っているのだろうか。


「ふむ。お主たちが巷で噂のS級冒険者兄妹か。苦しゅうない。おもてをあげよ」

 皇太后様の私室に招き入れられ、僕とヨリはご挨拶をした。あれー。皇太后様、二千歳越えてると聞いていたけど、何だこの人。まだまだ三十代に見えるぞ。美魔女というのは多分こういう人を言うんだろうな。

「それに……おお、サラドラではないか。久しいのう。達者であったか?」

「はい。長らくの不義理。深くお詫び申し上げます。皇太后様に置かれましては、相も変わらずお美しくあらせられ、本日、そのご尊顔を拝し奉りました事、感慨の極みでございます」

「ああもう。堅苦しい挨拶はよい。わらわとぬしの間柄ではないか。もっと肩の力を抜きたもれ。そこの若者たちが緊張してしまうではないか。ははは、わらわとサラドラは若き頃の学友での。お互いに、美を追求せんといろいろ研究したものじゃ。そのお陰でわらわもこやつも、歳の割に若々しいじゃろ?」

「えっ!? それじゃ、サラドラ先生って、皇太后様と年齢が近いのですか?」

「ああ、タメじゃ」

 うわー。皇太后様だけじゃなくて、サラドラ先生も正真正銘の美魔女だったんだ。


「それで皇太后様。人魚の卵と毒消しは今、薬師の調合に回しておりますが……本当にお試しになるのですか?」サラドラ先生が意を決した様に、皇太后様に尋ねた。

「いまさら何を言っておる。お主もわらわも、昔の究極の目的は不老不死であったではないか。それなのに、いつの間にかお主はわらわの前から去り、あまっさえ、人魚の卵を入手しておきながらわらわに連絡も寄こさぬ。ちょっとひどいと思うぞ」

「はっ、それは……不老不死は命と賭してまで試すものではないと考えました次第で……」

「まあよい。そのへんの考え方は人それぞれじゃろうて。なので今回は、この屈強な冒険者兄妹に毒見を頼んだわけじゃ」


「ですが、万一この若者たちが死ぬ事があったら……それに屈強なこの者達は大丈夫でも、同じ様に皇太后様も大丈夫だとは……」

「そうじゃな。しかしわらわもその覚悟でここに来ておるし、この二人も覚悟してくれていると理解している」

 そうか。サラドラ先生。皇太后様に万一の事があったらと心配しているんだな。

 

 そうしていたら、準備が出来ましたといって薬師が薬を持って来た。

「こちらのクリーム状のものが毒消し剤で、こちらの小瓶が人魚の卵から造った不老不死の液体です。このクリーム状の薬剤で、口の中や食道の表面を覆う様にしてそこからの薬液の吸収を阻害しつつ、毒を薄めながらそのまま胃に落とし込むのが肝要です」


「わかった。それではさっそくとりかかろうか」皇太后様が立ち上がった。


「それじゃ、お兄ちゃん。私、やり遂げるからね!」そう言ってヨリが、大きなボールにてんこ盛りされたクリームを食べようとテーブルに近づく。


「ヨリ……まって、ヨリ! それ、僕がやるから!!」僕は思わず叫んだ。

「えっ? でもお兄ちゃん……」

「いいや。僕がやる! 僕には万一であってもヨリを危険な目には会わせられない! それに……うまく不老不死になれたら、メイファーちゃんとエッチ出来るかもしれない……」

「はいぃーーー!? ……まったくお兄ちゃんたら……いいわ。お兄ちゃんに任せる!」


「おい、ヨリ。いいのか?」

 サラドラ先生が問い詰めるが、その耳元でヨリがそっと囁いた。

「万一、お兄ちゃんが死んだら私も不老不死の薬飲むわ……」

「おお、なんという麗しい兄妹愛。わらわも心打たれたぞ。それではお兄さんの、その心意気に応えまくてはなるまいて。今、ここで何か希望はあるか?」

 突然、皇太后様がそうおっしゃられた。

「あのー。このクエスト自体、中止とかは?」

「それはダメじゃ。この場でわらわが叶えられる希望にしてたもれ」


「あー、それじゃお兄ちゃん。皇太后様とエッチさせて貰えば?」ヨリがトンデモない事を言った。

「あっ! 馬鹿。ヨリ……」サラドラ先生が慌てている。そりゃそうだよ、皇太后様にそんなセクハラ発言……


「なんだ。それでよいのか?」皇太后様が快諾した。

「いやいや、皇太后様。ちょっとお待ち下さい。いくらこれから死んじゃうかもとはいっても、いくらなんでもそんな失礼な事……」慌てふためく僕に対し、皇太后様もまんざらではなさそうに言った。

「問題ない。わらわもそなたの様な若者とは久しく交わっておらん。ましてやこれから死にゆくかも知れん者。わらわでよければ良き思い出を作ってしんぜようぞ」


「ああ……また、悪い癖がでた。皇太后様は若い男に目がないのだよ」サラドラ先生が、しれっと言った。


「そうじゃな。せっかくだからあれを試そう! 今支度をするから、お兄さん。ちょっと待ってたもれ」そう言いながら、皇太后様はせっせと着衣を脱ぎだした。


 ◇◇◇


 いや、ちょっと待ってよ。これから死ぬかもしれないのに、なんでここでバター犬ごっこさせられてるの? これ断っちゃだめなやつかな。でも皇太后様が、早よせいとさっきからせかしているし、ヨリもサラドラ先生もただガン見しているだけで手を差し伸べてはくれない。ちっくしょー。もうこうなりゃヤケだ。二千歳越えてるかもしれないけど、見た目は妖艶な熟女様だ。死ぬ前に味わい尽くしてやる!!

 そこまで考えて、僕はクリームだらけの皇太后様の股ぐらに顔を突っ込んだ。


 その時、いきなり皇太后様の私室の扉がバンッと開き、誰かが入ってきた。

「母上!! いいかげん御戯おたわむれはおやめ下さい!!」


 なんだー。せっかく人が覚悟決めたって言うのに……鼻の上に毒消しクリームを付けたまま僕が振り返ると、背の高いエルフの男性が立っており、そばにいた薬師さんとサラドラ先生が平伏している。そしてポカーンとしている僕とヨリに向かって、サラドラ先生が、慌てた様に言った。

「お前達、陛下の御前だ。頭が高い!!」

 えっ!? 陛下って……もしかして国王様?


「へっ。はっ……ははーーーー!!」僕はクリームだらけの顔を床に擦り付けて土下座した。


 ◇◇◇


 結局、国王様の命で、この人体実験は中止となり、人魚の卵から作った不老不死の薬剤と毒消しは国家管理される事となった。皇太后様も息子である国王様にこってり絞られ、今回のクエスト自体が無かった事として闇に葬られる事が決まった。とはいえ、キノコの採取に関しては、若干のお手当が出た。


 離宮を出ての道すがら、ヨリやサラドラ先生と話しをしながら歩いた。

「いやー、参りました。でもおとがめなしって事で、これでよかったんですよね?」

「そうだな。誰も不老不死にはなれなかったが、誰も死ななかった。それで良しだろう」僕の問いにサラドラ先生がホッとした様にそう言った。

「でも私達、しっかり国王様にも顔と名前覚えて貰ったし、多少は箔が付いたんじゃない?」ヨリがそう言うのももっともだな。

 そんな話をしながら、夜遅くに我が家に帰ったのだが……ノアナさんが駆け寄ってきた。


「あのお兄さん。変なエルフのおばさんが、お兄さんに会いたいって……」

「はあ?」

 サラドラ先生はもう診療所に帰ったはずだし、ノアナさんが知らないって……誰かと思って居間に入ったら……うわっ、皇太后様!? それにラスライス侍従長まで。


「あの皇太后様。一体何の御用で? もうあの件は国王様から禁則事項にされましたよね?」

「ええお兄さん。その通りです。ですが今回の用事はそれとは関係ありません。あの続きを……あの途中まで舐めていただいたあの続きを完了していただかないと、わらわの気持ちが落ちつかなくて……」

 何か身悶えしている皇太后様の後ろでラスライス侍従長がボソッといった。

「そういう事ですのでお兄さん。舐めるだけで結構ですので、よろしくお相手お願い申し上げます!」


(終)

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【R-15版】冒険者兄妹(仮) SoftCareer @SoftCareer

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