その19:人魚の卵(後編)

 人魚に案内され、霧の薄い一角にたどり着きそこで人魚の話を聞いた。彼女は、マイメルルと言う名前だそうだ。彼女の説明によるとここはやはり昔からの人魚の巣だという事なのだが、過去、卵狙いの冒険者が後を絶たず、都度戦う事を嫌った人魚たちはこの岩穴の中に迷路を構築し、霧を使って探索がうまくいかない様にしながら暮らしていたらしい。それで何十年も目撃情報がなかったのだろう。

 そうしたら最近、同じ海の魔族であるセイレーンが、ここが住みやすそうだと言って住みつき、ちょっとした縄張り争いになっているらしい。


「それでセイレーンは何でまたここに? もっと北の方にいると思っていましたが」王妃様が不思議そうに尋ねる。

「はい。そもそも北だと海辺を訪れる獲物も少なく、その上、数年前地殻変動か何かがあったらしく、彼らの縄張りが消滅したのだとか。それで、観光客も多いこの地に狙いを定めたのだと思いますが……彼らは私達人魚との共存ではなく、この地の独占を狙って、執拗に嫌がらせを仕掛けて来ているのです」

「はは。魔族の地上げ屋と言ったところかしら。それでお兄ちゃんは多分そのセイレーンに絡め取られていると?」

「はい。歌声で男性をおびき寄せるのは彼女らの常套手段ですから」

「もしかして、もう食べられちゃったりして……何にしても魔導探査で引っ掛けないと。ねえ。この霧、一瞬でいいから止められない?」ヨリの言葉にマイメルルもちょっと困った様に言う。

「この霧、セイレーン除けでもありますので……」


「ヨリさん。その必要なさそうですよ!」いきなりリーマ姫が大声をあげた。

「お兄さんがすぐ近くまで来ています。私には匂いで分かります!」

「お兄ちゃんっ!!」ヨリが大声で霧に向かって叫んだ。


「あっ!? その声はヨリか? よかった。無事だったんだ」

 そう言いながらお兄ちゃんが駆け寄ってきた。

 しかしその脇で、セーレンがお兄ちゃんにこう言った。

「お兄さん。気を付けて下さい。妹さん達は人魚に操られていますよ!」


 ◇◇◇


「ヨリ! もう大丈夫だ。お兄ちゃんが来たからそんな人魚ぶっ飛ばしてやる!」

「違うのよお兄ちゃん。騙されてるのはお兄ちゃんだよっ!!」

 くそ、かなり強力に洗脳されている様だな。でもどうしよう。このままヨリとは戦いたくない。しばらく兄妹でにらみ合っていたのだが、ヨリが突然提案した。

「お兄ちゃん! お兄ちゃんと戦いたくないのは私も同じだよ。だからさー。戦闘行為じゃなくて性行為で戦わない?」

「はいぃっ!? 何それ?」

「私とお兄ちゃんで、絡みあって先にイッたほうが負け!」


「なんじゃそりゃぁーーーっ!!」 

 何、この兄妹……その場のメンバーだけでなく、人魚の人もセーレンさんも眼の玉が飛び出ていた。


「ふっ、舐めるなよ。僕だってそれなりには修練しているんだぜ。それに、人魚を追い払えばセーレンさんがヤラせてくれるって……ふはははは。覚悟しろヨリ!」

 そういって僕はいきなりヨリに飛びついたのだが、ヨリはいきなり僕の後ろをとって、ズボンとパンツを魔法で飛ばすと、いきなり僕のお尻の穴に指を突っ込んだ。


「うわっ、痛って!!」そう感じた次の瞬間。僕は一気にイッてしまった。

 これって……前立腺マッサージってやつ? というか僕。情けないイキ顔をみんなに見られたのかなー。なんか腰が抜けた様な感じになって、その場にヘタリ込んでしまった。

「あー、お兄ちゃんごめんね。強引に突っ込んじゃって。今度ゆっくり、ローション付けてやってあげるから……それで、今回は私の勝ちね」


「なななな。何なんだお前達は? 実の兄妹ではないのか? それもこんな公衆の面前で……なんとハレンチな!!」セーレンさんが顔を真っ赤にしながら動揺している。この人、以外とウブなのかな? でもああ、これでセーレンさんとのエッチはなしか……そう思って彼女の下半身に目をやると、あれ? なんか足が鳥っぽくなっていないか?


「あんたがセーレーンね。どうせエッチちらつかせて私のお兄ちゃんを抱き込もうとしたんでしょうけど、相手が悪かったわね。で、どうする? このまま私に焼き鳥にされたい? なんか人魚さん達は、うまく共存出来ればいいって言ってるみたいだけど……」

「お前らの様なトンデモない冒険者兄妹に目を付けられてはたまったものではない。人魚達との共存の件も、仲間内で相談して後日ちゃんと話合いをするよ」

 ヨリの恐喝に、セーレンさんもビビりまくっていた。

 

「よっしゃ。これにて一件落着!」


 ◇◇◇


「ああ、何と申し上げてよろしいのか。お礼の申し様もございません」

 マイメルルさんが、平身低頭、頭を下げながらお礼を言っている。

「あのね。言葉はいいから、なんか誠意見せてくれると嬉しいんだけど」

「おいヨリ。いくらなんでも図々しくはないか? 正規の依頼でもないんだろ?」

「それはそうなんだけど……お兄ちゃんのイキ顔だけじゃちょっとつまらないと言うか。ねえマイメルルさん。ものは相談なんだけど、人魚の有精卵を一つ貰うとかは出来ないかな?」うわ。ヨリさん大胆。廻りのみんなもちょっとビビった。


 マイメルルさんも最初は驚いていたが、しばし考えた後こう言った。

「わかりました。今回の事は我が一族にとってもかなり有益な結果となりましたので、ご希望に沿う事にいたします」


 おおーーっ!! また周りが沸いた。


「それではヨリさん。お兄さんをお借りしてよいですか?」マイメルルさんが下を向きながら恥ずかしそうにそう言った。

「えっ!? お兄ちゃんで有精卵作るの?」ヨリも驚いている。

「はい。私、丁度産卵期にかかっていまして、ですが初めてなもので……照れ臭いです」

「うはー、お兄ちゃん。念願のバージンだよ!」ヨリはそう言うが、マイメルルさん、下半身は魚だよね。あの総排泄腔に入れるのか?


 するとマイメルルさんが、僕を近くに呼んで言った。

「お兄さん、それでは今から私が一個産みますので、さっきみんなの前でやられた様にかけていただけますか?」

「はいぃーーーー!? 体外受精?」

「ええ、魚類はあらかたそうだと存じますが……」


「はっはっは。お兄さん。まさか私もこんな光景を見られる日が来るとは思わなかったよ。心配するな。受精した有精卵は私がちゃんと保管しよう!」サラドラ先生が笑いを必死にこらえながらそう言った。


「それではお兄さん。参りますよ……ふんっ……くはぁ……」マイメルルさんが産卵体制に入った。えっ、そんな。いきなりここで卵産まれても、こっちの準備が……

「あー、お兄さん。ヘルプするねー」そういいながらカミーユさんが僕の後ろから手をまわして、僕をしごきだした。

「あっ、それ……気持ちいい……」


 そして、マイメルルさんの総排泄腔から、十cm位の真ん丸な薄ピンクの卵がポロッと出て来たところに、僕が思い切りぶっかけた。ああ、リーマ姫、メイファーちゃん。そんなに凝視しないで……


「やったよお兄ちゃん。これ、一体いくらになるんだろう?」

 ああ、ヨリよ。それは我が子なんだが……でも、人魚と人間って交配出来るのか?


(終)

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