その17:健康が一番!(前編)

「どうして……こうなった………」


 薄暗く狭いダンジョンの下層で、僕の目の前に凄惨な光景が広がっている。

 いやいや、どうしようこれ……メイファーちゃんの手足がちぎられてバラバラじゃないか! こんな猟奇幼女バラバラ事件なんて、僕らの冒険譚にはまったく相そぐわないよ!! でも、ああ……これって絶対僕のせいだよな。メイファーちゃん、せっかく不治の病を克服して冒険者になれたのに、僕が油断したばっかりにこんな事になるなんて。

 さっき出会ったあの悪魔。ダンブルトンとかいったか……あれ絶対SS級だよな!? だが、くそっ、悪魔だかなんだか知らないが、絶対仇は討ってやる!! まずは、ヨリ達と合流しなくちゃ! そう決心した僕は、その下層から元いた場所を目指して走り出した。


 ◇◇◇


 メイファーちゃんの身体に入ったまま一度死んだ僕だったが、なんとか無事、元の世界に戻ってこられた。黒服サングラスの商会さんという男に転移させてもらった僕らは、やはりこっちの世界ではVIP待遇の様だ。親の遺産に感謝せねばなるまい。

 ただヨリが言うには、今回の件は貸しですんでいつか返してねと、その商会さんが言っていたらしいのだが、まあ、そん時はそん時だな。


 そしていつもの様に、いつものパーティーでギルドに行ったら、後ろから声をかけられた。見るとメイファーちゃんが一人で立っている。

「えっ、メイファーちゃん? 一人で来たの?」

「はい、お兄さん。今回の事は本当にありがとうございました! お兄さん達のお陰で私、こんなに元気に動いて出歩ける様になったんですよ」


 いや、確かに今回は、商会さんの転移部門とエニュー様の転生部門で話をつけたとは聞いていたけど、メイファーちゃんの病気まで直ってる? 不思議に思って、よく話を聞いたらなんと、一度死んでから転生という過程を経たメイファーちゃんは、単に生き返っただけではなく、転生特典であるチート能力を一つ選ばせてもらう事が出来、彼女が選んだのは『健康』であったため、不治の病からも解放されてしまったらしい。もちろん、こんな事は異例中の異例であり、この事実が世に広まったら、いらぬ混乱を招きかねない。そのため、彼女の完治はサラドラ先生の渾身の治療による奇跡という事にしているらしい。

 いやでも、あのポンコツ転生神モニア様もなかなか粋な事をするじゃないか。


「そうかー。よかったね。それじゃ君も、これから本当に冒険者を目指せるんだ?」

「はい。ですが私……冒険者よりも、お兄さんのお嫁さんになりたいです……」

「えっ? うれしいけど、そりゃまたどうして。それに僕にはすでにリーマ姫という決まった婚約者がいるんだけど」

「私、お兄さんの身体で冒険してすっごく楽しかったんですけど、男の人の身体ちゃんと見たの生まれて初めてで……なんか不思議な体験でドキドキしちゃって……お兄さんと私がエッチしているところを想像しちゃったりして……多分、私お兄さんに恋しちゃってます! リーマさんの事は、別に彼女が正妻で構いませんので、私は第二夫人という事でお願いします」

「いやそれダメだって。君、エルフでしょ。僕がお爺さんになっても君は多分ほとんど変わらず、そのあどけない少女の姿のままで……十分通報案件だから!」

「そうですか? 実際の年齢は百歳越えてますから別に誰も何も言いませんよ。両親も奇跡の第二の人生なんだからあなたの好きに生きなさいって言ってますし。それに、サラドラ先生がおっしゃっていましたがお兄さん、処女が好きなんですよね? 私、百%バリバリ処女ですよ!!」

「そんな、僕がバージンキラーみたいな言い方やめて! それに、君はまだ動ける様になったばかりで、男の人ともそんなに多く出会ってないよね? もしかしたら僕よりカッコいい素敵な人にこれから出会えるかも知れないよ。だから焦って手近で済ませないで、ゆっくり世界を広げて行こうよ」

「そうですかーー? でも分かりました。お兄さんのおっしゃる事も一理ありそうです。そうしたら、私もお兄さんのパーティーに加えて下さい。ゆっくり冒険者修行を致したく存じます」

「ああ、うん。わかったよ」


 ◇◇◇


「あーあ。結局それで、パーティーに加えるのOKしちゃったんだ。いっそパーティー名を託児所にでもしようかしら。そしたらもっと幼女が集まって、お兄ちゃん幼女ハーレムが出来たりして……でもまあ、あの子の家もお金持ちだし、今回の一件では大分感謝されているから、リーマ姫同様、ふっといパトロンが付いた感じでやって行けばいいか」

 メイファーちゃんの件を話したら、ヨリが事もなげにそんな事を言った。

「お兄ちゃん幼女ハーレム……なんと甘美な響き。いやいや、僕はガイドラインは守る男だからな! でも、リーマ姫はそれなりにスキル上がっているけど、メイファーちゃんは取り立てて戦闘や魔法に秀でている訳じゃないからなー。つい最近まで、運動らしい運動もしていないし。ノアナさんが付いていても危険だったりしないかな?」

「うーん。そうね。ノアナの他にスキル持ちの保育士を雇うか……いや。そう言えばメイファーちゃんの『健康』ってスキル、どういうもんなの?」

「さあ。不治の病が直るくらいだから、一生風邪ひかないとか?」

「はは、それなりに強力そうね。いいわ。小手調べじゃないけど、今度、いっしょにダンジョンにでも行って様子見ましょう」


 こうして僕らのパーティーは、メイファーちゃんを連れ、近場のダンジョンに潜る事にした。ここを選んだのは、すでにこのダンジョンが発見されてからかなり年月も経っていて内部の事情がかなり明らかになっているので、低層階なら危険はないと判断したためだ。リーマ姫の訓練にも丁度いい。

「ああ、メイファーちゃんはノアナさんから離れないでね。今日は見学だけでいいから」

「お兄さん。私、先日、お兄さんの身体でスライムやっつけました。ですから少しは戦って見たいです」

「ダメダメ。僕の身体ってだけで腕力からして全然違うんだから」

「……はーい。分かりました」ちょっとすねた様にメイファーちゃんが言った。


 地下ダンジョンの三階層位までを周回するが、まあ、出てくる魔物もスライムやコボルト位なので、もうリーマ姫の敵じゃないな。そうしてサクサク魔物を片付けていたら、メイファーちゃんが自分も戦いたいとぐずりだした。

「お兄ちゃん。私達が見ていれば大丈夫だと思うし、一度、剣を持たせてあげたら?」ヨリがそう言うので、リーマ姫に剣を借りてメイファーちゃんに持たせた。

「へへーっ」メイファーちゃんが誇らしげに剣を振るが、まあ全然様になってはいない。

「違う違う。この指はここ」リーマ姫が見かねて、持ち方や振り方を指導していた。

 

 しばらく行くと、オークが一体うろついていた。

「それじゃ、メイファーちゃん。僕とヨリで後ろから見てるから、あいつぶっ叩いて見て」

「うん。私、頑張るよ!」そう言って、メイファーちゃんが剣を大上段に振りかぶりながら、オーク目掛けて駆け出した。あーあー。あれじゃちゃんと振れないわね。ヨリがそう言いながら魔法で補助しようとしたら、オークのかなり手前で、メイファーちゃんがすっころんだ。

「うわっ!!」僕は慌てて横っ飛びしてオークを薙ぎ払い、後ろを振り返ると、メイファーちゃんが、痛そうな顔で半泣きしていた。

「あーあ。これじゃほんとに託児所だわね……」ヨリもため息をついた。

「メイファーちゃん。大丈夫? どこかケガしなかった?」僕はメイファーちゃんに近寄り声をかけた。

「お兄さん……お膝すりむいちゃった。痛いよー」

「ああ、ちょっと見せて」場合に寄っちゃノアナさんにヒールしてもらわなくっちゃと思いながら、メイファーちゃんの膝を見ると……? 確かに血はついているが、傷がない。

「おい、ヨリ。ノアナさん。これって……」

「うわー、これ自己修復ですよね? 神官クラスでもこれ出来る人そうそういませんよ」そういいながらノアナさんも驚いている。

「ほー。もしかして『健康』って、そういう事?」ヨリが驚き半分でそう言った。

「あのお兄さん。もしかして私、怪我しても勝手に治っちゃう?」メイファーちゃんも半信半疑だ。

「ああ、そうかも知れないね。でも無茶は絶対だめだからね!!」調子に乗られても困るので一応釘を刺しておく。能力の程度が分からない時は過信は禁物だ。でもちょっとした傷が勝手に治ってしまうのは、冒険初心者には便利には違いないな。


 ⇒後編へGo!

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