その3:受付嬢(後編)

 そして、蟲退治の時、勢いでヨリと関係し、ドクミミズカズラ討伐で、ヨリを舐めまわす事になってから数日後、いつもの様にギルドにクエストの斡旋を受けに行った際、ヨリがトイレに行くといって僕から離れたのを見計らったかの様にカミーユさんが僕に近づいて来て、不思議そうに話し掛けてきた。


「ねえ、お兄さん。二人の間に何かあった?」カミーユさんがストレートに斬り込んで来る。

「ええっ? 何かって何がですか?」僕も心当たりはあるものの、しらばっくれる。

「いや……お兄さんとヨリちゃんの間の空気の温度が変わったというか……もしかしてヤッちゃった?」カミーユさんが僕の耳元で滅茶苦茶小声でそう尋ねた。

「ふへっ!?」僕はあまりにびっくりして、思わず変な声をあげた。

 いやー。これっていわゆる女の勘というやつなのか。まったくもって恐ろしい。

 カミーユさんを妻にした人は、絶対浮気とか出来なさそうだ……そんな事を考えながら眼を白黒させている僕に向かって、カミーユさんがこう言った。


「あー。やっぱ図星ずぼしかー」

「あっ、いえ、それはその……何と言いましょうか……」

「あーあー。そんなに慌てなくてもいいよ。別にお兄さんを責めてる訳じゃないし……でもそうかー。ヤッちゃったかー」

「あの。カミーユさん。この事はくれぐれも……」

「ははは。だから大丈夫だって。かく言う私も幼い頃からお兄ちゃんや弟とか……ああ、お父さんやおじさんともした事あるよ」

「えっ!?」もしかしてカミーユさんってそうした虐待を受けていた人なのか? 聞いてはいけない事を聞いてしまったという顔の僕にカミーユさんが説明を始めた。


「私はね。サキュバスって言う魔族でね。知ってる? サキュバスは他の生物から精気を吸い取ってかてにするんだよ。だから、一人前になって他人から精気を奪う前に、身内で結構練習するの。だからさー。私の正体知ってる男はだあれも近寄ってこないのよね」

 ああ、そういう事だったんだ。それであの飲み会のあと、カミーユさんを送り狼しようなんて奴はいなかったんだな。それにしてもサキュバス……ぱねえ!


「でもねー。サキュバスならノープロブレムだけど……人間だと、それまずくない?」

 うわ、正論で来た。しかしそれが僕らの弱みの様になってしまうのも問題だ。

 そう考えて、僕も真顔で反論する。

「いえ。ここは異世界ですから!」

 

「ぷっ!! はははは。そこまで開き直れるとはいさぎよいよね、お兄さん。わかった、わかった。二人の事は誰にも言わないから安心して。でも……ちょっとお仕置きは必要かな?」

「はあっ。お仕置きですか? ですがあんまりキツいのはご容赦いただければ……」

 そんな話をしている最中、ヨリが手洗いから戻って来た為、カミーユさんは「それじゃお兄さん。いいクエスト用意して置きますから、頑張って下さいねー」と言いながら僕から離れていった。


 ◇◇◇


 数日後、ギルドに行くと、カミーユさんはおらず、他の担当の人から依頼書を渡された。

「これ、カミーユさんがお兄さんにって。なんかお掃除手伝ってほしいって事なんだけど、結構いい金額提示されてるわよ」その担当の人がそう説明してくれたので、ヨリがそれを手に取って眺める。

「掃除でこの金額は確かにおいしいわ……って、これお兄ちゃん限定クエスト?」

「そうみたいですね……」担当の人がにこやかに言う。

「ちょっと待った! これ、お兄ちゃんが一人で行って、もし性的虐待とか受けたらどうするのよ!」

「いや、カミーユさんの案件に関しては決してそんな事は。彼女は絶対に事前に了解した人以外からは精気を吸いませんよ! だからお兄さんにその気があれば話は別です!」

 キッと僕を睨むヨリに向かって、いや決してそんな気にはならないよと強く言った。とはいえカミーユさんには弱みを握られている手前、あんまり無碍むげにも出来ない。いぶかしむヨリに因果を含めて、僕はカミーユさんに指定された掃除クエストの場所を訪ねた。


「こんにちはー。掃除クエストに参りましたー。カミーユさんはご在宅ですかー」

 玄関口で大声を出したら、玄関の戸がスッと音もなく開き、中からどうぞと声が聞こえた。

「お邪魔しまーす」そう言って戸口を入ったとたん。僕は後ろから思い切り殴られて気絶した。


 ◇◇◇


 カミーユさんの手が、僕の身体をあちこちゆっくり撫でるが、これがまた大層気持ちいい。そんな訳で僕もすでに興奮してしまっており、カミーユさんはわざとじらすかの様に、大事な部分には手を触れようとしない。


「あの……カミーユさん。ギルドの人が言ってましたけど、カミーユさんは事前に了解してない人から精気は吸わないって……それ信じていいですよね?」

「ああ。お兄さん……これから君の精気吸っていいよね?」

「それ、事後ですって!!」

「ええっ? ここでうんって言ってくれたら、本当に天国にいざなってあげるのに……さっきも言ったんだけど、ほんとはちょっとお灸据きゅうすえる位のつもりだったんだけど……あなた見てたら予想より大きくて……だんだん腹が立って来てね……」

「はい? あの、カミーユさん。それって一体……あのなんか目が座ってません?」

「そうかもねー。そう……だから腹が立ったから、ちゃんと天国に行かせようかなって」

「あの! 今日のクエストは掃除ですよね? 別にカミーユさんに精気を吸われる為にここに来たんじゃないんですけど!?」


「うん、そうだね。今回のクエストは掃除……やっぱり、ヨリちゃんに付いた悪い虫は、ちゃんと掃除しないとねー」

「!?」


「だいたい人間って身内でエッチしないものでしょ? それを事もあろうか、私の一番のオキニのヨリちゃんと、くんずほぐれずとか……信じられなーい。あんた本当にお兄ちゃんなの? でも、ま、いいわ。あんたはここで私に掃除されなさい。まあ、せめてもの情けで、発狂しかねないほどの快感であなたの精気を吸いつくしてから天国に送ってあげるわ!!」そう言いながらカミーユさんは、僕に思い切り食らいついて来た。


「うひゃーーーー。助けて……ヨリ――――――――!!!!」


 その時、部屋の扉が大爆発を起こし、その粉塵の中からヨリが出て来た。

「お兄ちゃん。大丈夫?」

「ああ、ヨリぃーーーーーー」

「あーあ。我が兄ながら情けない姿ね。ちょっと、そこのサキュバス! お兄ちゃんのそこんところは私のものよ!!」

 いきなりのヨリの突入にカミーユさんも呆然として僕から口を離した。


「あ、あ……ヨリちゃん……違うの。私、あなたの事が……」

「ああ。ギルドのあんたの同僚をとっちめて聞いたわ。あんた、お兄ちゃんじゃなくて私に気があったんだってね? でも、それもまあ悪い気はしないかな。だけどお兄ちゃんに手を出すのは許さないわよ。私だってまだいろいろ試してないもの!!」


「あの……ごめんなさい。あなたのお兄さん、あまりに大きくてなんかムラムラとしてしまって……でも、私があなた推しなのは本当よ! 信じて貰えないかもしれないけど……」

「あー、信じるわよ。でもやっぱそうだよね。私のお兄ちゃん大きいよね? それで……実は私も、女同志ってちょっと興味あったりするし。男女の交わりとはまた違った趣があるんでしょ?」

「うんうん! そうだよヨリちゃん。あなたがその気になってくれれば、私がいろいろ教えてあげる!」カミーユさんが、ボロボロ泣きながらヨリにすがりついて懇願していた。


「……おい。ヨリ……」

「ああん。何かなお兄ちゃん。せっかく私の世界が広がるチャンスかもしれないんだもの。お兄ちゃんに邪魔はさせないわよ。でもまあ、お兄ちゃんともまだまだ世界を広げるつもりだけど……女同志っていうのも、なんかいいじゃん!」


 頼もしいんだか振り切れてんだか……僕の妹は、僕の想像をはるかに超えた世界を目指している様だ。だが、せっかくこの異世界に来たんだ。振り切れて楽しんだ方がいいのかも知れないな。カミーユさんの胸の肉をつついているヨリを眺めながら、僕の中でも何かが吹っ切れた……様な気がした。

 

(終)

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