支援《バッファー》と指揮《オペレーター》が出会ってしまった‼

シファニクス

第1話 出会ってしまった

 ダンジョン《四季折々》は、ここミクア王国の王都フィナストの東門から徒歩10分のところにある可変ダンジョンだ。

 

 今から約300年前、ミクア王国建国の頃に発見された《四季折々》は、当時から現在まで魔物の素材や魔鉱石の採集場所として親しまれ続けている。現在では30階層まで確認されている世界最大級の可変ダンジョンで、今でも実力派冒険者たちによって階層探索が進められている。

 300年経ってもなお探索が終わらないのは、やはり可変ダンジョンである、ということが一番の原因だろう。


 可変ダンジョンとは、魔力の流れが大きく変わることで、ダンジョン内部の構造が変化する、いわば生きたダンジョンのことだ。

 魔力の流れが少なく構造変化が起こらない不変ダンジョンと違い、構造変化がある可変ダンジョンは変化するごとに探索を1からし直す必要がある。その手間こそかかるが新たな魔物を発見出来たり、魔鉱石が採掘出来たりとメリットも大きい。

 

 そして、今日は《四季折々》の構造変化後初めての開放日となる。

 《四季折々》は、世界中に確認されている可変ダンジョンの中で最も大きなもの。国が管理し、入場者の制限をするほどだ。

 それが、今回のように可変の節目だけ入場が無制限になる。それすなわち、稼ぎ時だ。新しい階層への入り口を発見すれば臨時報酬が発生する可能性があるし、珍しい魔物を一網打尽にできればそれだけで億万長者になれる。

 そんな一獲千金のかかったタイミングなのだが、いつからか、獲物や手柄をめぐっての冒険者内での闘争が激しくなり、殺し合いにまで発展するようになった。構造変化のたびに数千人の犠牲者が出るようになり、国が開催するようになったのがペアパレード。

 それは、2人組を強要することで集団での利益独占を抑制する効果と、2人組の構成を運営が決めることで極端な実力の偏りをなくす効果を持つ。これにより、すべての冒険者が均等に機会を得られるのだ。

 ペアパレード開催以来冒険者たちは勝手にダンジョン内に入ることが禁止され、ペアパレードに参加する以外、入場する術がなくなった。


 冒険者ギルド《四季折々》前支部。

 民営企業である冒険者ギルドだが、ここの支部はミクア王国から多大な資金援助を受けている。

 聖堂に勝らずとも劣らない規模の建物の中には、様々な施設が用意されている。

 依頼の申請や受理を行うための受付カウンター、依頼内容の確認ができる掲示板、待合を行うためのスペースが用意されたエントランスから始まり、食堂や浴場、訓練場や宿泊施設が併設されている以外に、武器の購入修復が出来る鍛冶場、ダンジョン探索に欠かせない品々を売る雑貨屋なども内設されている。


 近年急速に発達した魔鉱石の加工技術を存分に生かして、外観にもこだわられた冒険者ギルドのエントランスは、いつになく込み合っている。みな、ペアパレードという魅力的なイベントに招かれた冒険者たちだろう。


 無論、俺もそのひとりだ。


「クロトリニスさん、ですね……5年振りですか?」

「ああ」

「それはそれは。では、もうしばらくお待ちください。ペアの相手が来られるはずですので」

「分かった」


 身分証明のために提出していた冒険者カードを受け取り、受付カウンターから離れ、待合スペースに向かう。

 見渡せば、もうほとんどの冒険者はペアを組み終わり、《四季折々》に向かう準備をしているようだ。

 老若男女、様々な人々がいる。若い男性が多いのは間違いないだろうが、幅広い人々に親しまれている職業だ。


 この中に、今回俺のペアになる相手がいる。


「……前の雪辱を果たすためにも頑張らないとな」


 前回のペアパレードを思い出す。当時15歳だったが、かなり苦い思いをした。おかげで……。


「な、なんか1人でずっと俯いてるんですけど。怖いんですけど」

「あー、関わらないほうがいいわよ。変わり者って噂だし」

「俺、あいつが夜中に騒ぎまくってるの見たことあるぞ」

「この前なんて賭け事で大負けして身ぐるみはがされてた」


 す、少しだけ有名人になってしまった。もうずっと冒険者ギルドには顔を出していないのに、5年振りに顔を出しただけで四方八方から冷ややかな視線を向けられている。というか街中ですれ違うだけでも陰口を叩かれてるんだよなぁ……。

 特段、そこまでおかしなことをした覚えはないのだが。

 

 ま、俺がどれだけ嫌悪――高貴だと思われていても関係ないのだ。どれだけ近づきたくなくても、この催しごとの最中はペアを組むことを強要される。俺にふさわしい実力の、頼もしい相棒が待っているはずだ。


「あ、あのー」

「ん?」


 振り返ると、そこには幼げな女性がいた。年は、俺より少し下だろう。15、16あたりに見える。


 桃色の髪を縦ロールに仕立てて両側に垂らすツインテール。魔法使いによくいる軽めのワンピースを肩から下げ、頭の上にはとんがり帽子を被っている。全体的にピンク配色が多めな子だ。

 小顔で大きな瞳。清潔感があって、佇まいもどこか気品がある。特に、エメラルド色に輝く瞳には、見る者を魅了するような光が灯っている。


 生まれの良さを思わせるその身なりに、少しだけ期待が膨らむ。


「あなたが、クロトリニスさん、ですか? 受付の人に聞いたんですけど」

「ああ、そうだ」

「そうれでしたか! それは良かったです。私はニフェル、と言います。よろしくお願いします!」


 第一印象と違わず、華やかな少女だ。明るく咲かせた笑顔は、迷いなくこちらを見つめていた。

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