Ep56:光と影の対話
張り込みから2日後。
夕日が校舎に差し込み、トイレ周辺に静寂が広がる中、星見キッズはついに犯人との接触に挑んだ。佐藤修(シュウ)は、新トイレの個室近くに潜み、岡田拓実(タクミ)、戸川晴(ハル)、原優希(ユウキ)と連携して見張りを続けていた。
逃走劇から2日後、犯人が再び現れる可能性を信じ、4人は息を潜めて待機していた。ショウタやユウトの無垢な顔が頭をよぎり、シュウは事件解決への決意を新たにしていた。犯人が児童である可能性を掴んだ彼らは、捕獲よりも対話を優先する方針を固めていた。
微かな足音がトイレに響いた。シュウが身を低くし、タクミに目配せを送った。
「タクミ、来たな。音が近い。冷静に動けよ。」
タクミが頷き、小声で答えた。
「シュウ、了解。ハルとユウキにも合図を送るよ。」
ハルとユウキは旧トイレから駆けつけ、トイレの入り口を塞ぐように位置を取った。
シュウは個室の隙間から覗き、薄暗い中で小さな人影を確認した。顔を隠した児童が、用心深く周囲を見回しながらトイレに入ってくる。シュウは息を整え、タイミングを見計らった。
児童が個室に近づいた瞬間、シュウが静かに立ち上がった。
「おい、そこで止まれ。逃げないでくれ。話したい。」
人影が一瞬硬直し、慌てて振り返った。顔を隠すフードの下から、震える声が漏れた。
「誰…? 何? やめてよ…!」
シュウは両手を上げ、威圧しないよう穏やかに近づいた。
「落ち着け。俺は星見キッズのシュウだ。ショウタやユウトを困らせたのはお前だろ? 逃げる前に理由を聞かせてくれ。」
児童は後ずさりし、フードを少しずらした。幼い顔立ちの少年で、6年生の制服を着ていた。目は涙で潤み、恐怖と後悔が入り混じった表情を浮かべていた。
「僕…僕だって…。やったのは悪かったけど…。ただ、面白かっただけ…。誰も傷つけるつもりじゃ…。」
タクミがシュウの横に並び、優しく言葉をかけた。
「名前は? 何でそんなことしたんだ? 僕たちは怒るつもりはないよ。」
少年は俯き、声を詰まらせた。
「山本…だよ。山本大輔…。友達にからかわれて、誰かを支配したくて…。トイレでやると誰も見ないと思って…。」
ハルが少年に近づき、穏やかに尋ねた。
「山本、ショウタやユウトは怖がってるよ。パンツを取るのは何で? 意味があったの?」
大輔は膝をつき、嗚咽を漏らした。
「パンツ…は、証拠が欲しかった。自分がやったって証明したくて…。でも、みんなが怖がるの見て、怖くなった…。ごめん…。」
ユウキがメモを取りながら、冷静に分析を加えた。
「シュウ、大輔の動機は承認欲求と支配欲だね。計画性はあるけど、悪意はないみたい。和解の余地があるかも。」
シュウは大輔の肩に手を置き、厳しくも優しい口調で言った。
「大輔、悪いことをしたのは認めるだろ? ショウタやユウトに謝るしかない。俺たちはお前を学校に売るつもりはない。どうしたい?」
大輔は顔を上げ、涙を拭いながら答えた。
「謝りたい…。でも、どうすればいいか分からない。みんなに嫌われるのが怖い…。」
タクミが笑顔でフォローした。
「大丈夫だよ。大輔、勇気を出して謝れば、星見キッズがサポートする。シュウと一緒に解決しよう。」
シュウは大輔の目を見て、決断を促した。
「大輔、明日、ショウタとユウトに会って謝れ。俺たちが同席する。和解すれば、誰もお前を責めない。約束だ。」
大輔は小さく頷き、震える声で言った。
「…うん。謝るよ。シュウ、ありがとう…。怖かったけど、安心した…。」
シュウは内心の安堵と複雑な感情を抱えつつ、大輔を立ち上がらせた。
「よし、じゃあ明日だ。ハル、ユウキ、証拠はメモだけでいい。タクミ、帰りに大輔を安心させろ。」
4人はトイレを後にし、夕日の下で一息ついた。
シュウは大輔の純粋さと後悔に触れ、事件の深層に思いを馳せた。
「承認欲求か…。子供の心は複雑だな。和解で終わるといいけど…。」
その夜、シュウは自宅でノートに大輔との対話を記録。桜の木の謎も残る中、解決への一歩を踏み出した。
(Ep56 完)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます