Ep21:タクミの家での一夜(静かな夜の思い出)

二学期に入り、星見キッズは次々と事件に巻き込まれていた。


林間学校での田村悠斗殺害事件、文化祭での爆弾脅迫事件と、心休まる暇がなかった。


しかし、文化祭以降、学校生活は穏やかで楽しいものに戻り、11月の秋深い季節に星見小学校は笑顔に満ちていた。






ある放課後、教室でタクミがタブレットを手に提案した。


「ねえ、みんな! 文化祭から落ち着いたし、気分転換に僕の家に泊まりに来ない? ゲームもできるし、楽しいよ」




「タクミの家? いいね! 泊まりって初めてだ!」ケンタがサッカーボールを手に目を輝かせた。




「楽しそう! 私、賛成! スケッチも持っていくよ」リナがスケッチブックを手に微笑んだ。




「タクミの家って、どんな感じなんだろ? 楽しみだね」カナエが笑顔で言った。




「よし、決まりだ。土曜日に泊まりに行こう。みんな、親に許可をもらってね」シュウがメガネを直して計画をまとめた。








土曜日、星見キッズはタクミの家に集まった。タクミの家は学校から歩いて15分ほどの住宅街にあり、モダンなデザインの二階建てだった。リビングには大きなテレビとゲーム機があり、タクミの母親が笑顔で出迎えた。


「いらっしゃい、みんな! ゆっくりしていってね」


「ありがとうございます!」シュウたちが一斉に頭を下げた。




リビングに荷物を置き、みんなは早速ゲームを始めた。


タクミがサッカーゲームを起動し、ケンタがコントローラーを手に叫んだ。「シュウ、対戦しよう! 俺、負けないよ!」


「いいよ、ケンタ。僕も負けない!」シュウが笑顔で応じた。


画面上で白熱した試合が繰り広げられ、カナエとリナが応援した。


「シュウ、シュート!」


「ケンタ、ディフェンス頑張って!」タクミが効果音を追加し、盛り上げた。


ゲーム中、シュウの視線は一瞬、タクミの楽しそうな横顔に留まった。


無邪気な笑顔に、シュウの心が小さく揺れた。






夕飯の時間になり、カレーを囲んでみんなで食卓についた。タクミの母親が作ったカレーはスパイスが効いていて、みんなおかわりした。


「おいしい! おばさん、すごいね!」ケンタが頬張りながら言った。


「ありがとう。たくさん食べてね」タクミの母親が笑顔で答えた。


「タクミ、お母さん優しいね。家って温かいな」カナエが微笑んだ。




シュウはカレーを食べながら、タクミの無垢な笑顔を再び見つめた。自分でも気づかないうちに、心の奥で何かがざわついていた。








食後はリビングでトランプやボードゲームを楽しんだ。リナがスケッチブックを開き、タクミの家での様子をスケッチし始めた。


「この雰囲気、残しておきたいな。みんなの笑顔が素敵」シュウがスケッチを覗き込んで言った。


「リナ、絵が上手いね。事件のこと、少し忘れられたよ」


「うん、私も。星見キッズ、こうやって笑ってるのが一番だね」リナが微笑んだ。


シュウはタクミがトランプをシャッフルする小さな手をじっと見つめ、なぜか胸が高鳴るのを感じた。夜が更け、寝袋を広げてリビングで寝る準備をした。タクミがタブレットで星空の映像を流し、みんなで星座の話を始めた。「あの星、オリオン座だよ。事件の時、星を見て落ち着いたんだ」




シュウが思い出を語り始めた。「そういえば…悠斗との思い出、話していい? 幼馴染だったからさ…」シュウの声は少し遠くを見つめるようだった。「もちろん、聞きたいよ」カナエが優しく答えた。シュウは静かに語り始めた。


「悠斗と初めて会ったのは、小学校に入る前。公園でサッカーボール蹴ってて、僕も混ぜてもらったんだ。いつも明るくて、みんなを笑顔にしてくれる子だった。林間学校のキャンプファイヤーで歌ってた時も、楽しそうで…」シュウの声は温かさに満ちていたが、少しずつ切なさを帯びていった。


ケンタが寝袋の中で目を閉じ、「いい話だな…」と呟きながら眠りに落ちた。リナもスケッチブックを抱えたまま、静かな寝息を立て始めた。


「田村くん、星が好きだったんだ。オリオン座を見つけて教えてくれたっけ…」シュウが続ける頃には、カナエも目を閉じていた。


タクミが最後に「悠斗くん、いい子だったんだね…」と呟き、眠りに落ちた。シュウは静かなリビングで一人、星空の映像を見上げた。






仲間たちの寝息が響く中、シュウの心は田村くんの無垢な笑顔と、そばで眠るタクミの穏やかな寝顔に引き寄せられていた。タクミの小さな寝息を聞きながら、シュウの心に抑えていた感情が静かに動き始めていた。




(Ep21 完)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る