Ep16:文化祭への第一歩



~林間学校からの帰還~



10月中旬、林間学校から帰った星見小学校の5年生たちは、重い心を抱えながらも日常に戻っていた。


林間学校の3日目に起きた田村悠斗(ゆうと)くんの殺人事件は、星見キッズにとって忘れられない出来事だった。


犯人の松本翔は逮捕されたものの、動機はまだ明かされておらず、シュウたちの心にはモヤモヤが残っていた。


学校に戻った初日、教室の窓から見える桜の木は秋の色に染まり、校庭には落ち葉が舞っていた。




シュウは席でノートを開き、林間学校の事件を振り返っていた。


「松本くんの動機…。まだ分からない。田村くんのためにも、真相を突き止めたい」




カナエが隣に座り、優しく声をかけた。


「シュウ、考えすぎだよ。警察が動機を調べてくれるって。文化祭の準備が始まるから、少し気持ちを切り替えよう?」




「うん、そうだね。文化祭…。田村くんの分も楽しみたい」シュウがメガネをクイッと直し、ノートを閉じた。




担任の田中先生が教室に入り、黒板に「文化祭準備」と大きく書いた。


「みんな、林間学校は大変だったけど、文化祭で楽しい思い出を作ろうね。5年1組の出し物、今日決めよう!」文化祭の出し物決め教室が一気に賑やかになった。




ケンタが手を挙げて元気よく言った。


「俺、サッカーの射的ゲームやりたい! ゴールに見立てた的を狙うやつ!」




「いいね、ケンタ! でも、みんなが楽しめるように、いろんなアイデアを出してみよう」カナエが笑顔で提案した。




リナがスケッチブックを持ち上げて言った。


「紅葉の絵を展示するの、どうかな? 林間学校の思い出を絵にして、みんなに見せたい」




「林間学校か…。いいアイデアだね、リナ。癒される展示になりそう」シュウが頷いた。




タクミがタブレットを手に持つ。


「技術的なサポートなら任せて。展示用の照明や、射的ゲームの効果音とか作れるよ」




「じゃあ、射的ゲームと展示を組み合わせるのはどう? ゲームコーナーと展示コーナーを分けて、両方楽しめるようにするんだ」シュウが提案した。




「賛成! 5年1組、盛り上がりそう!」カナエが手を叩いた。




田中先生が笑顔で言った。


「いいね、5年1組は『射的ゲーム&紅葉アート展示』に決定! 準備は来週から始めるよ。役割分担も決めようね」




シュウたちは役割を分担した。


シュウとカナエが全体のまとめ役、ケンタが射的ゲームの設計、リナが展示アートの制作、タクミが技術サポートを担当することになった。


クラス全体も協力し、装飾やチケット作りなど役割が割り振られた。






~文化祭準備の様子~



翌週、放課後の教室は文化祭準備で大忙しだった。


シュウはホワイトボードにスケジュールを書き、みんなに指示を出した。


「射的ゲームの的は、木の板にゴールを描いて作る。リナ、展示用のパネルは何枚必要?」




「10枚くらいかな。紅葉の絵と、林間学校の写真も飾りたい」リナが絵の具を手に答えた。




「了解。ケンタ、板は体育館の倉庫にあるよ。運んでくるの手伝う?」シュウがメガネを直した。




「もちろん! 俺、力持ちだから任せて!」ケンタがサッカーボールを置いて倉庫へ向かった。




カナエはクラスの女子たちと一緒に装飾用の紙を切りながら言った。


「文化祭って、みんなで作るの楽しいね。田村くんも喜んでくれるかな…」




「うん、きっと喜んでくれる。笑顔で準備しよう」シュウがカナエに微笑んだ。




タクミはタブレットで効果音を編集し、射的ゲームの「ゴール!」という音を作っていた。


「シュウ、効果音どう? リアルでしょ?」




「すごいね、タクミ! これなら盛り上がりそう」シュウが試しに聞いて笑った。




リナは紅葉の絵を丁寧に描き、林間学校のスケッチを仕上げていた。


「この絵、田村くんが歌ってたキャンプファイヤーの場面なんだ。思い出を残したい」




「リナ、素敵だよ。田村くんの笑顔が伝わってくる」カナエが絵を覗き込んで感動した。




準備が進む中、シュウはクラスメイトたちの笑顔を見ながら思った。


「林間学校の事件は辛かったけど、みんながこうやって笑ってる。田村くんもこんな雰囲気を望んでたはずだ」






~準備中の会話と絆~



放課後、準備が一段落した教室で、星見キッズは机を囲んで休憩した。


カナエが持ってきたお菓子を分け合いながら、ケンタが言った。


「シュウ、文化祭って楽しいな。事件のことも少し忘れられる」




「うん、でも忘れちゃいけない。松本くんの動機、気になってるんだ。警察から連絡が来たら、話を聞きたい」シュウが真剣な顔で言った。




「動機…。松本くん、背が高くて静かだったけど、何か理由があったんだろうね」リナがスケッチブックを閉じた。




「田村くんはみんなに好かれてた。嫉妬とか…何か深い理由があるのかも」タクミがタブレットを手に考え込んだ。




「そうだね。文化祭が終わったら、真相を突き止めよう。星見キッズの次の目標だ」シュウが決意を込めて言った。




カナエが明るく言った。


「文化祭当日、みんなで楽しもう! 田村くんの分まで笑顔でね」




「うん、約束だ。文化祭、最高の思い出にしよう」シュウがみんなの手を握った。




教室の窓から夕陽が差し込み、星見キッズの新たな一歩が始まった。




(Ep16 完)


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