No.2

@menochan

魔王と竜

第1話 仔竜

 この世界には、いろいろな理不尽が存在する。例えば、強いモノが弱いモノから一方的に奪っていく。弱肉強食と言えばそれまでだが、これも一種の理不尽だ。弱者には選択の権利すらないのだから当然だろう。


 その例ではないが、いつだって選択の権利を握っているのは、上層の強者である。抗えぬ理不尽、逆らえぬ猛威が、常に力を持たないモノに容赦なく打ち付けるのである。


 もちろんのことだが、もともと力を持っているものなどいやしない。初めは皆、弱者だ。そしてそれは、この仔竜も同じである。




「ぎゃ…」




 真っ白な、こんな曇天でもまばゆく光を反射しそうな鱗の小さな竜は、正に理不尽の許に晒されていた。肩はザックリと切られ、尻尾は既に無くなっている。頭から生えた二本の角も、片方は痛々しい断面を晒していた。そこから湧き出た血のせいで、純白の鱗も鈍くなってしまっている。


 その仔竜は、おぼつかない足取りで、前へ前へと進む。だが、理不尽は待ってはくれない。こちらの都合で待ってくれるほど、強者は優しくない。




「オラァッ!」




 叫び声の後に、仔竜の背に激痛が走る。仔竜が振り向くと、二対四枚あった翼の一枚がなくなっていた。そして、自分の後ろに、鈍く光る銀の筋が目に映った。それには雨でいくらか洗い流されているものの、真っ赤な血がベットリと付着していた。もちろん、この仔竜のものであることは、言うまでもない。




「ったく、手間かけさせんなや」




 仔竜が地に伏して、もう動けなくなったことを認めた追跡者が、軽く悪態をつきつつ、仔竜の方へと寄ってくる。そして仔竜の首根っこを掴み、徐に持ち上げた。


 口から短く唸り声を漏らす仔竜。手足をバタつかせて踠こうとするが、もはや力が入らないのか、将又どこかが折れているのか、一向に動く気配を見せない。




「ぐぎゃぁ…」




 その仔竜にできることは、ただただ弱々しく鳴くことだけである。




「よっしゃっ!これで俺も竜殺者ドラゴンスレイヤーの仲間入りだ、なっ!」




 その理不尽は、仔竜を目線の高さまで持ち上げ、もう片方の手に持っていた剣を、中線を穿つように突き刺した。ちょうど、翼と翼の間のあたりだ。




「ぎゃぁぁぁああああぁぁぁあっ!」




 刹那、仔竜が力の有らんばかりの咆哮をあげる。悲痛なその声は、誰へとも、何処へともなく消えていくはずだった。




「不愉快。死ね」




「へ?ギャバッ!」




 仔竜を串刺しにしていた理不尽は、更なる理不尽によって軽く捻られる事になる。鈴の音のような澄んだ声が響いた直後、理不尽は、圧し潰れて物言わぬ真紅の花と化した。


 支えのなくなった仔竜は、剣に穿たれたまま、地面へと落ち込む。が、その体に衝撃が伝わることは終ぞなかった。


 仔竜の鼻腔を、甘い香りがくすぐる。腹の下からは、確かな温もりが伝わり、仔竜を心底落ち着かせた。




「まだ、息はある…助けなきゃ、ダメ」




「ぐぁっ」




 チリンと、今度は本当の鈴が鳴った。その途端、仔竜の体にあった痛ましい傷の全てが、見る見るうちに治っていく。失っていた尾さえも生えてくる始末だ。




「ぐ?」




「よかった、助けられて」




 傷が完全に無くなり、体力は万全ではないものの、動けるようになった仔竜は、顔をゆっくりともたげる。そして、視界に映ったのは、穢れのない白と形容するにふさわしい少女だった。




「がう」




 仔竜は、自分を助けてくれたと判っているからか、警戒するどころか寧ろ、甘えるような仕草を見せる。それに少女は、むふー、といった感じで頬を綻ばせた。




「いい子……ねぇ、君さえ良ければだけど、私と一緒に…私のところ、来る?」




 竜は総じて知能が高い。それは仔竜でも変わらず、生まれ落ちた時から、喋れないにせよ古代言語から今使われている言語の意味全てを理解できる。


 故に、彼女の言葉を聞いた仔竜は、元気一杯に声を上げた。




「ガウ!」




 その頃には、あれだけ厚かった雲に、所々切れ目が出来ていた。




____________________


初めての連載になります!

文章がわかりにくいところもあるでしょうが、一応趣味としてやっているので、生暖かい目で見守ってやってください。

よろしくお願いします。

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