この作品は、朗読仕様になっているのだが
読んでいても静かに都会の情景が浮かび
上がってくる。
高層ビルの煌びやかな夜景、窓硝子に
映る自分の虚な貌…。
そして瞳の中の暗闇が。
いつの間にか薄暗い回廊の中を彷徨う。
恰もそれは人生の不毛な虚栄を生かされて
いる様な、繰り返し。
今 という時間はない。
そして悪魔は囁く。常に走り続ける 今
刹那の中にある繰り返しを無意識のうちに
費やして行く…立ち止まる事もなく、今を
妄信して、
ふと、気が付いた時に。
暗い回廊の中に、独り取り残されている。
作者は、心温まる作品を端正に描く事で
定評があるが、時にまるで世の東西を
問わぬ、寓話的で恐ろしくも美しい物語を
紡ぐ。本作品は、更にその次元をひとつ
超えたものであると言えるだろうか。
人は生きる為に足掻くものだ。それは既に
魂に、生き物としての 在りよう として
刷り込まれている。
主人公の選択は。そして、顛末は…。
我々、読み手の胸に去来するものは
果たして 何 であるのだろうか。