全力でエンディングまで楽しむTS転生者

閉羽

1章 悪魔と狂人の邂逅

1 転生したのが滅んだ後の文明の場合どうする?

 ハッピーエンドが嫌いな人類はいない。

 ハッピーエンドが嫌いな人類はいない(断言)


 まあそれは周知の事実であるのだが。


 全員が笑って終わりを迎える、なんと尊いことであろうか。

 しかし、ハッピーエンドという結果だけではなんの深みもない。


 そこに至る様々なエピソードや積み重ねた日常があるから、そして挫折といった闇があるからこそハッピーエンドは輝くのである。


 だから家に侵入した泥棒に腹を包丁で刺されたとき。


(まだ、ハッピーエンドに相応しい人生を送っていないのに)


 死の間際、今度こそハッピーエンドが見れる人生に転生できるように。

 そう願った。



 ———————————


「・・・ん?」


 目が覚めたとき自分の身体に違和感を覚えた。

 妙に高い声に少し低い視点、さらに腰辺りに見えている白髪。

 そして、フラッシュバックする自分が死ぬ記憶。


 俺は、転生したようだ。

 TSしたという、おまけ付きで。





 しばらく、目が覚めた部屋を物色しているとわかったことがある。


「これ、完全に小説の世界では?」


 俺は前世読んでいた小説『クロスホルダー』という作品の世界に転生した。


 ストーリーは王道で、悪く言えばありきたりなものでそこまで人気があったわけではない。

 しかしそんなありきたりな物語が嫌いではないからこそ、この小説も出版されたものなら最新まで全部買うほどの熱量はあった。


 この物語はダンジョンや不思議な力が使える人類もいたりする現代ファンタジーで、最初は冷遇されていた主人公が誰も興味を持たなかった実は最強格の女の子と協力して成り上がっていくというものだ。


 そんな好きな小説の世界に転生できたのはいい、しかし気に入らないことがいくつかある。


 まずとっておきの気に入らないこと、それは。


 割れた鏡の正面に立つ。

 そこに映っていたのは、控えめに言って美少女であった。

 低めの身長、童顔、腰辺りまで伸びた白髪と、全体的に庇護欲を感じさせる容姿で顔も悪くない。


 むしろ美少女に転生するのは嬉しかったんだけどね?

 男よりも美少女の方が良いのは自然の摂理である。


 しかし、しかしだ!

 俺はこんな美少女が小説にいた覚えがない、どのキャラにも似つかない容姿だ。

 つまり俺は物語に登場すらしていないモブなのだろう、だからこそ——


「メインキャラに転生したかったぁ!!!主人公ともヒロインたちとも会いたかったしいろんな交流を重ねたかったよぉ!ハーレム築いてイチャイチャしてるのを隣で感じたい…!」


 メインキャラなら主人公たちのエピソードを近くで観測できたのに!

 その先の完結してないからこそ未知のハッピーエンドも体験できたのに!!

 クソが!!!ファッキン神野郎!!!くたばれ!!!


 けど神様のお陰で転生できてるわけだしなぁ。

 嘘だよごめんね神様、転生させてくれてありがとう♡

 

 ………、


「———やっぱりくたばれ!!!!!!」


 俺は中指を両手で突き立てた。


 見たいもんは見たいんだよ!

 日常パートで青春を謳歌したり、クライマックスで主人公が覚醒し敵を打ち破るワクワクするシーン。

 いろんな見てみたいものがあるのに…


 そもそもこの物語の主人公は塞城アオと言って、本当にいいヤツなのだ。


 とにかく優しい男の子で目に映る人は全員助けようとする。

 そんな性格だからこそいろんなヒロインに好かれるし、俺も本当に尊敬しているからこそ頑張ってほしいと思っている。


「今はヒロインたちと仲を深めておいてくれ…」


 そして気に入らないことその2だ。


 俺は周りを見回した。

 そして目に映るのは人の気配がない真っ暗な部屋、いろんなものがボロボロで掃除もされていない。

 なぜかは知らないが親を失っているのだろう。


 冷蔵庫の中は空っぽ、水も出ない。

 本当に明日から生活できるか怪しいレベル。


 なんでこんなところに転生させたんだよ、本当に。

 頼みの綱の原作知識も大して役に立たない。


「詰んでるなぁ…」


 思わずボロボロのソファに飛び込む。


 そもそも今の状態では主人公たちに近づけないし…ん?

 別に主人公たちに近づくなくてはいいのでは?


 この世界では俺の知らないたくさんの劇的な物語があるだろうし、これから先でも生み出されることだろう。

 だとしたら主人公だけではなく、いろんなハッピーエンドを見れる。


 そうじゃないか、別に今はメインストーリーに固執する必要なんてない!

 むしろ俺が介入せずにその物語を観測する、そして俺はメインストーリーに関与しないところで別のハッピーエンドが見れる場所を探す。


 よし!そうと決まれば早速外にでよう。

 今なら、何でもできる気がする!


 そしてドアの前まで行って、ボロボロの服を着てるのを思い出し気がついた。


「今の俺ってもしかして不審者…?」


 両親はいないし、金も持ってないし、記憶も失っている。

 そんな状態で外を出歩いたところで、どこかの施設に預けられるに決まってる。 

 どうしよう、一気に外出たくなくなった。


 いや、正直この見た目ならばどこかの家に泊まらせてもらうことはできると思う。

 だって美少女だから。


 けどそれではハッピーエンドが見れるような場所には行けない。

 この世界で生きる以上、ハッピーエンドやそれに至る過程をみるのはもはや義務だ。


 そもそもここがどこかすら知らないし、転がり込む場所もこのままではない。

 とりあえず、外に出てまず情報を集めよう。

 そしたらきっとなにか見つかるはずだ、うん、多分。






 そしてしばらく家の周りを散策してわかったことは———


「廃墟しかないんだが」


ここはウルスという場所らしいが、それ以外は何もわからなかった。

見渡す限りは廃墟しかないし、瓦礫の山がそこら中に積み上がっている。

 人の気配は全くしないし空も太陽や月はなくではなく真っ黒な闇が広がっていた。


 こんな場所俺の覚えている限りでは原作にも登場していないはずだ。


「原作知識が大してどころか、全く役に立たなくなった…」


原作の舞台となっているのは位置的には東京だが、現実とは位相がちがうので一般人には認識できない幻想都市げんそうとしと言われる場所だ。

大阪や名古屋などの大都市には幻想都市があり、教育機関や商業施設もあり基本的には普通の都市と同じだ。違うのは全て能力者のための施設ということくらい。


物語が進んでいくと、幻想都市にダンジョンが発生しどの都市が一番早く攻略するかの競争。幻想都市で最強を決める優勝者には報酬が与えられる闘争祭とうそうさい。都市を滅ぼすレベルの天使の地上への侵攻や、悪魔との戦いなどがあって面白かった。


それに対し、今の俺の状況といえば。こんな、明らかに滅んだ文明みたいな場所に女の子がたった1人だぞ。


結局、俺の今やることはたった1つだ。


「生存者と新天地を探して、とにかく探索するしかない!」



 ———————




 何も無い。

 本当に何も無い。


 数日間探索してみたのだが同じ景色が広がっているだけ。

 かなりの広範囲がこの有り様なので、面白みもない。


「今日はもうちょっと歩いたら休もう…」


 正直なにも見つかる気がしないがもう少し歩いてみる。

 数分間探索して結局何も見つからず、諦めて休もうとした。

 その時、奥にここで初めて崩落していない建物を見つけた。


 その建物はなにやら教会のような外観をしていた。

 こんな場所で唯一崩壊していない教会…なにかがあるに違いない。


 教会の扉はどうやら鍵はかかってないみたい。

 そしてその扉を開こうとしたとき——


「そこの君〜、なんでこんな所にいるのかな〜?」


 …

 ……

 誰ぇ!?!?!?!?!?!こっちが聞きたいんですけど貴方誰ですか!?!?!?!?!?



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