第37話 There's no place like home.Ⅱ

大手町付近にある、かつてビジネス街として栄えたビル群は、その多くが廃れて久しい。その中にあるビルのエントランスから、吐き気を催すような甘い臭いと、耳をつんざくような叫びが聞こえてきた。一目散に人が逃げていく中に、制服姿の少女と、いつかの東京駅で見た女児がいた。

「ここヤバいからアンタも逃げて」

非力な女児に手を捕まれる。

「ヨウコさん、行きましょう。無理ですよ。魔眼でユーイチ君を捉えられる状況じゃないです」

なるほど。この目隠しをしている少女が、土生津が持ってきた死体と関係があるとする亜鈴なのだろう。そして、この女児に連れられ、ユーイチから逃げようとしているのか。

「私は、そこで暴走状態になっている彼を止めに来たのさ。芹澤ひすい、という。以後お見知りおきを。まあ、嫌でも関わってもらうのだけれどね」

少女が、目隠しを取り。視線を合わせようとする。

眼帯をずらし、義眼を見せる。少女は魔眼が発動しなかったったために、面食らっていた。

「見ず知らずの鈴鳴に対していきなり魔眼を向けるのは失礼ではないかな」

「でも・・・・・・」

「まあ、いい。先ずはユーイチを止めるのが先だ。でもその前に、お前だ。変態女。お前、ユーイチに手を出しただろう」

女児は小首を傾げる。

「うーんと、チューしたぐらい」

次の言葉を発する前に、女児の頭は地面に落ちていた。少女は悲鳴を上げる。立ち尽くしたまま、彼女の足元には水たまりができていた。

ひすいは持っていたトランクケースを叩くと、女児が吸い寄せられ、ひとりでにふたが開き、そして、トランク内に収まった。

奈落のようなトランクケースに収まったことを確認し、制服の少女に向けて投げつける。

トランクケースは生き物のように頭から少女を飲み込んだ。

「モテ過ぎるのも考え物だねえ。だからこそ、私が拾う前は性別を問わず玩具になっていたのだろうけれど」

ひすいの足元まで、大地が破砕されていた。

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