第35話 彼の犯した殺人


時間は少し前にさかのぼる。


元新宿駅の迷宮を引き返し、ひすいは、土生津に呼び出された場所に来ていた。

部屋を仕切るように、縦に置かれたテーブルを挟むように、一人掛けの椅子が複数対面で置かれていた。そのうちの一つに土生津は座っていた。

「【破砕】の被害者が増えたらしいな。彼の活躍は目覚ましい」

「冗談はそこまでにしてくれ。こちらは既に3人は殺されているのだぞ」

ひすいは椅子に腰かける。ポケットから杖を取り出し、机の円形の文様を描いた。浮かび上がる水に口づけ、ひすいはのどを潤した。

「粗茶の一つも出さないとは」

「重要参考人として2番隊の病棟にぶち込むところだが、カリナン第一位である、地獄蝶には手が出せない。だからこうして話を聞いているというのだ」

「お宅が依頼してきた躰の正体について調べている最中だよ。昨日は私の調べものに時間を充てていて、ユーイチには暇を出していた。彼のプライベートには口を出さない主義でね。乱闘でもあって負けたのでしょうよ」

人間もどきヒューマイムの監督責任はその所有者にあるのが通説だ。いくら貴女が瑰玉と咏回路から、死んだ人間を修理できるとはいえ、度が過ぎている」

部屋の空気が張り詰める。目の前には土生津しかいないとはいえ、この外には隊長格が4人はいるだろう。その全員が鈴鳴であるのは、東京警備局がいかに優秀な人材を集められていることの査証だろう。

「ああ。私も疑問に思うところはあるさ。何故東京警備局の局員が酒川製薬の人間もどきヒューマイムと狗飼研究所の亜鈴と一緒にいるんだい」

土生津が僅かにたじろいだところを、ひすいは見逃さない。

「【破砕】された山から修理をした際、一つは瑰玉に酒川の家紋が彫られていた。なあ、縄張り意識が強く、プライドが富士山より高い東京警備局が何故他の家と手を組むのだ」

土生津が左手を上げる。外で構えていた鈴鳴に警戒を解くように合図をしたのだろう。

「俺が地獄蝶に持ち込んだ、眼と脳、瑰玉が無い遺体と関係があるのだな」

「伊達にこの東京を『警備』すると名乗る組織の頭なだけあるね。正解だ。土生津君が持ってきたあの死体を中心に一部の連中が集められているみたいだ」

「十代か二十少しいったくらいの小娘が何故そんなに人を集めている」

「そこが疑問だな。あの死体は神輿として担ぎ出されているかもな。それか・・・・・・。暴食王が現れた、かだ」

「冗談はやめてくれないか。だとしたら面倒以外の何物でもないぞ」

「そうではないことを私も祈っているよ。ユーイチの手で破砕された局員、酒川製薬の人間もどきヒューマイム、狗飼研究所の亜鈴は全て修理しておくよ。この騒動に関連して死んだ奴も全てもとに戻しておこうじゃないか」

「支払いはいいのか」

「ああ。土生津君から既にもらっているからね」

ひすいはポケットからカメオブローチを取り出す。禍々しいメドューサの顔が描かれていた。

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