第8話 駅舎の中

 旧東京駅のドーム型の駅舎の中へひすいさんが消えていくのが見えた。犯人捜しの前に買い物する気だろうか。やがて、彼女は一つの露店の前で足を止めた。目の色が変わっていた。

「チタナイトの瑰玉じゃないか。いいなあ。この具合だと、はっきりとしたファイアが見られそうだな。こっちはオパールだな。ああ、でも屋敷の電力機構を今一度点検したいしな。回路のほうは別で見繕うべきか」

 オレは、ひすいさんの後頭部を、鞘尻で小突く。小さい呻き声が聞こえた後、顰めた顔を向けられた。

「鞘尻でつつくだなんて、ひどいじゃないか」

「抜身でやらなかっただけよかったと思ってください。何故駅舎に来たのですか。買い物なら後ででもいいでしょう」

「今日の夕飯の下見だぞ」

「瑰玉は夕飯になりません」

 ひすいさんが見ていたシートの上には、色とりどりの石が並べてある。大きさはどれも大体一緒であるので、瑰玉なのだろう。オパールは人工でも作成可能であると聞いたが、黄色い楔型の結晶は、作成できない。つまり、持っていた人間がいて、それが流れてこんな露店に並べられている。瑰玉が抜き取られているならば、当然肉体に、何等かの異変があったと考えていい。咏回路も血の一滴ですら、資源である。

 オレだって、ひすいさんと出会わなければ、ここで売られていたかもしれない。

「人の流れが少ないところに行きますよ。そこから次の目的地を考えましょう。屯所にいや人は狗飼と名乗っていたのでやはり、狗飼研究所に向かうのが速いですかね。そうなると・・・・・・」

「場所は移そう。だけどまだ旧東京駅には用が残っている。ああ、このチタナイトはいただいていくよ。お代はこれだ」

 紙幣を2枚投げ渡すと、オレの手首をつかみ、駅のさらに奥へ進んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る