第5話 街へ

 車寄せのために作られた、小さな盛り土には、アヤメとヤグルマギクが咲いていた。

 風に吹かれて、花を揺らすさまは、躰を揺らしながら歌っているように見える。

「去年の秋に蒔いたものだが、ちょうど見ごろのようだな」

 ふりかえると、大きめのトランクケースを提げた、ひすいさんが立っていた。

「随分、身支度に時間がかかりましたね」

「これから出かけるのだろう。着たい服を選ぶのだから時間がかかるのは当然だろう」

 そういって先を歩き始めた。ツイードのジャケットに膝下丈のスカート。営業ではなく、切った張ったが常の場所だ。ジャケットの内ポケットに杖が仕込んであり、ミリタリーブーツを履いているだけマシなのかもしれない。

「戦闘は全部、オレが担当するってことですか」

「もちろんだとも。頑張ってくれたまえよ」

 意気揚々と歩くひすいさんの斜め右後ろに位置しながら、彼女に続いた。

 いくつか角を曲がり、大通りに出る。ここから、昨日の遺体が届けられた場所まで徒歩になる。東京の地下には鉄道が今現在でも走り続けているという噂は耳にしたことがあるが、噂は噂だ。川沿いの屋敷でも無いので、ひたすら歩き続けた。

 大きな橋が近くづくにつれて、人の流れが増してきた。橋がみえるところまで行くと、何やら騒ぎが起きているらしい。無視して進もうとしたが、人の壁は厚い。隣の橋を使おうかと迷っていると、興奮気味の野次馬に声を掛けられた。

「橋のところにぶら下がっている三人、見せしめの、やつらをみたか。やっべえぞ。瑰玉も咏回路も食いちぎられた跡があるんだ。暴食王が帰ってきたって本当なんだな」


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