【続】粗暴な王子と健気な公爵令嬢には、2人だけの秘密があるようです。

豆大福

宿命

ラッセル家に生まれた者は生涯、王家の者を密やかに守りぬくこと。


その家訓を知り、術を学び始めたのはリリーナが5歳になった翌日から。

最初は幼い子供でも解るようなことから始まり、15歳になる頃には知識だけでなく護身術から暗殺術まで身につける。


なぜならば15歳で王家との繋がりを決定するからである。


婚約者、専属騎士、専属メイド…

年齢、性別、性格など。

様々な状況を含めて当主が考慮し、国王と相談の上で決める。


女性であり、王子と同い歳。

他の公爵家にも同い歳の娘はいたが、生涯密かに守るという条件が足されたリリーナが最も婚約者に適任と判断されたのである。




「何故こんなに辛い訓練を続けなければいけないの?まだ知らない相手のために」


眉を寄せて言い放ったのは10歳のリリーナである。


血が滲み、力が入らない手から木製の剣を地面に落としてしまった瞬間。

膨れ上がる感情を抑えきれず呟いた。


「リリーナ」


「解ってるわ」


穏やかだが注意するような声音と眼差しで、剣の稽古をつけていたお父様が私を見た。


小さな頃から嫌というほど家訓は学んでいる。

重要性など解っている。

でも感情は言うことを聞いてくれない。


他の公爵家の子供も勉強やマナーを厳しく躾けられている。そこは同じだ。

大きな違いは、早くに人の命を左右する世界を知ってしまったこと。


同い歳の女の子達がキラキラした目で可愛いドレスや美味しいお菓子の話題を楽しんでるお茶会で、何もかも違うと思い知ったのだ。


私はもう、皆と同じように無邪気に楽しめない。


「今日はもう休みなさい」


それだけ告げたお父様は背中を向けて屋敷へ帰っていく。


優しい言葉をかけられるはずが無い。

この家に生まれた宿命なのだから。


解っているのに。


「…っ」


俯いて唇を噛みながら、足元へ落ちていく涙を見つめた。

未だ受け入れられない自分の不甲斐なさ、普通の女の子として生きられない哀しさが心でせめぎ合う。


「お嬢様、屋敷へ戻ってゆっくり湯浴みしましょう」


物心つく頃から世話をしてくれているメイドのマリーが優しい声で労るように促してくれる。

瞼を閉じて静かに息を吸い、吐き出した。


私はラッセル家の娘、リリーナ。


顔を上げ凜とした表情へ戻る。


「ええ、そうするわ」


今の自分を支えるのは誇り高きラッセル家に生まれた者という自負だけだ。

追いつかない感情を無理やり押さえ込む唯一の、危ういプライド。


落ちた剣を拾い、屋敷へ歩き出した。






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