第一章

第10話 新しい役割

 寮に帰れたのは夜も遅く。数時間の仮眠を得て、再び出勤する。



 毎朝8時30分に署長室へ入り挨拶する事から勤務が始まる....という体制になった。

 正式な専門の部署とかは無く、あくまで刑事課見習い扱いであるため、何も無ければ基本刑事課に居り、掃除や灰皿を洗ったり、お茶をだしたり、雑用を手伝わせていただいたり,色々くっついて回ったり……といった日常となる。

 服装も制服ではなく背広姿での勤務が基本となった。


 署員の皆さんには、今回の出来事は簡単に説明がなされた。


 刑事課の方々は基本皆さん優しい方々ばかりだが、皆さん365日、ほぼ毎日出勤しておられる事が分り驚いた。

 その代わり、かなり勤務の自由度が高く、事件が無くやることが無い時とかは、パチンコ行ったり街をぶらついたりしている人も多い。

 その代わり「いざ事件!」となったら直ぐに現場へ直行。数日間署に泊まりっぱなしという事も珍しくはない。


 つまりこう言っては何だが、常に署周辺をうろついているシェパード犬のような存在、といったら怒られるだろうか。

 余談であるが、警察にはタイムカードなる物が存在しない。一応超過勤務のための予算は存在するそうだが、刑事課の方々における拘束時間の長さは異常で、正しく給与に反映されているとは思えなかった。


 しかしそれについて刑事課の先輩方から不満を聞いたことは無いく、むしろそんな事を気にしている暇があったら一つでも多くの事件を解決すべく、靴底すり減らして働け!という意識らしい。

 またそれが彼らの誇りでもあるように感じられた。



 丸変と呼ばれている”変死体”が発見された時に召集がかかり、現場に急行。

 若手を中心とした複数の勤務員等と共に、”研修”名義で警察病院で行われる解剖へ、彼等と共に自分も立ち会う、という日々が続く事となった。


 能力を開花させた、新しい仲間を一人でも多く増やす。

 それが自分の新しい役割になったのだ。


 早く自分の能力を活かせる現場に行きたい、という気持ちもあるにはあるが...正直言って、光って飛んだりしたところで何かの捜査活動のお役に立てるとも思えない。しばらくは指示通り、仲間を増やす役割と、自己訓練に専念した方が良さそうだと感じた。



 先生が言われるには、例の欠片であるが、自分のように「既に受け取った事があり、尚且つ能力が発現している者」以外、殆どの者は見えないらしい。

 例外として「死者が渡したいと願った相手」には見える確率が高くなるし、声も聞こえる事が多いそうだ。


という事は……渡そうとされているのに、声も聞こえず欠片も見えず、無反応で終わる人も居るんですか?と聞いたら

「そういう者は多いぞ」

 と教えてくれた。

 もったいない気がしたが、先生曰く「それも運命。縁がなかったということ」らしい。


「受け取った事にも気が付かず、己が死ぬ段階になって初めて欠片の存在を知った...なんて者も多いのだ」

「そなたは見えたし、欠片を受け取った事に対し真剣に悩んでおったであろう。それでいて、他人の役に立ちたいなんていう希望を抱いておるなんて、珍しいくらいである」

 そうだ。


「そもそもですが、欠片ってどこの誰が最初に作った物なんですか?先生達が配ったのですか?」

「それがハッキリせんのだ。わかっておるのは、現在この湘南と呼ばれる地域にのみ、集中して発現している現象であるという事だけである」

 先生は難しい表情をして答えた。

「ここだけの話であるが……我の上司等は多くを知っているのかもしれぬ。教えてもらえてないだけなのかも……とも思っておるところだ」




 四階の道場に布団を敷き、そこで寝泊まりする事が推奨された。

夜中でも対応できる為だ。

 刑事課の方々と同じく、直ぐに対応可能な状態であれば外出も自由らしい。

 人にもよるだろうが自分は特に苦に感じなかったため、以降ほぼ署内で寝泊まりする生活となった。



 そんな生活が始まって僅か二日後、早くも結果がでる。

 上柳が能力者として覚醒したのだ。

 これには自分も立ち会っていたので一部始終目撃することができた。


 自分も含めて五名が司法解剖に立ち会ったのだが、欠片が見えたり声が聞こえたりしたのは、自分と上柳だけだったらしい。


 欠片関係の事は周知されているものの、無用な混乱を避ける為もあり、先生の姿は署長室をはじめとした特定の場所のみ視覚可能状態になる決まりとなっていた。

 その為、自分と上柳は署に帰り次第署長室にて報告。先生・自分・上柳・署長・副署長での、確認作業と話し合いが始まった。



 上柳のオリジナル能力は「超高速で移動できる」というものであった。

 関連スキル等と組み合わせれば、とんでもないスピードで、かつ長時間走り続ける事が可能になるらしい。

 本人が言うには、子供の頃からオリンピック選手等に憧れており

「誰よりも早く走りたい、遥か遠くまで走ってみたい」

 という願望が強かったそうだ。実現できそうで良かったな!


 署長、副署長共に大喜びだ。

 さっそく地域課から外され、自分と同じ勤務体制に入る事となった。

 ただ上柳の場合実家から通っているため、御両親に心配をかけないようにと、しばらくは署内での寝泊まりはせず、今まで通り実家から通うようにと指示された。


 上柳は自分と同じく”先生”が指導を担当する事になったので、それも何かと便利そうである。


「先生。そう言えば、先生のような仕事をされている方々が10人ほど居るって話あったじゃないですか」

「それがどうしたのだ」

「他の方々とかは、どういった方々なんですか?見た目とか性格とか」

 先生が答える。


「お互いが他の星出身の者達だからの.....顔見知りは少ない。知らぬ者が多いのだ。」

「上司が担当しておる事だての。正確な人数やら、それぞれがどのような活動をしておるかとかも、正直言ってわからぬ」

「そうなんですね」


「……おぬし……今こいつ使えねえなって思ったであろう」

「!」

「少しだけ思いました。すいません」


「よいか。前も説明した通り、これは給金を貰うといった、言わば仕事とは違うのだ」

「あくまで自主的に行っている活動であるからの。真面目にこなす者ばかりでは無い。観光ばかりしてのんびり過ごしておる者とかもおるはずなのだ」


「まあ、遠からず接触することになるだろうて。良い奴ばかりでは無い……会えばわかるわい」

 少し機嫌が悪くなったように見えた。もしかしたら人間関係とか上手く行っていない事があるのかもしれない。

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