大好きな女の子

週末も終わり、純太は学校で晃大を問い詰めていた。


「なあ晃大。お前、かってに人の情報を教えるなよ。」


「おお!お前が俺に話しかけてくるなんて随分と久しぶりだな!」

「てか、成績なんてどうせ張り出されるんだからいつか知られることだろ?」


 だからって人の口から噂されるとなんだか癪だ。


「それはそれとして、そのせいで面倒くさいことになったんだからな?まったく。」


「まあまあ、いいじゃねえか、俺とお前の仲だろ?というか、お前。喋り方が柔らかくなったか?なんだか昔のお前みたいだ。」


 昔のお前、という言葉が引っかかる。そうかもしれない。今、純太は昔に戻っている。渡辺のおかげ、なのだろう。渡辺が彼女に似ているから……


 この日の授業も終わり、いつものように図書室に向かう。

 ガラガラという音と共に図書室の扉を開く。目に映ったのはいつもどうりの場所に座っている渡辺と、佐藤さんがいた。先に呼び出していたのか...。そうしてもう1人、いつもとは違う人物がそこにいた。


「なんで晃大がここにいるんだ?」


「園田くん、実はね見られちゃって...呼び出すところ。」


 晃大は状況を掴めていないような顔で純太に言った。


「なあ純太、これは一体どういうことだ?」


 どうやらまだ説明を受けていないらしい。だが、見られたのが晃大でよかった。晃大はとても口が硬い。誰にも言うなと言われたことは絶対に言わないからそれだけは信用出来る。俺は大きめの溜め息をついてから答えた。


「ああ、この人は霊なんだよ。」


「霊!?霊って最近多いって言う?」


「そうだ。」


 晃大が渡辺と佐藤の方を見る。2人はうんうんと首を動かした。


「まじか、霊なんて見たのは初めてだな。」


「ああ、おれもびっくりしたんだ。ところでひとつ、頼みがあるんだが……このことは他の人には言わないでくれないか?」


「なんで?」


「騒ぎになったらめんどくさいからだよ。」


 晃大は納得したように頷き「なるほどな。」と言った。


「ていうかお前、部活はどうしたんだ?」


「ああ、今日は月曜日だから、部活は休みなんだよ。だから、仕事を押し付けられているお前の手伝いでもしてやるかと思って来てみたらこれだよ。」


 晃大は本当に昔から変わらない。心配になるくらいのお人好しだ。まっすぐすぎてなにか裏があるのでは無いかと思ったが、見つからない。それが純太にとって気持ち悪かった。だが、だからこそ信用出来た。それだから晃大の親友をやっていたのだ。

 だが、その関係は純太にとっては鬱陶しいものへと変わっていた。

 しかし今になってまた、その鬱陶しさは消えていた。純太はまだ、過去に囚われている。だからこそ彼女、渡辺にどこか懐かしさを感じている今は、昔のようになれるのだ。昔のような関係でいられるのだ。


「じゃあ、また初めからお話した方がいいでしょうか?私の過去のこと、」


 佐藤は晃大の方を見て言った。


「いやいいよ、こいつはどうせ来るとしても月曜日にしか来れないんだし。」


「まあそうだな。」


「そうですか、では前回の続きからですね。」


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 次の日も清は図書館にいた。


「昨日、読み終わりました!【茨の回廊】」


「おお!随分と早いね、どうだった?」


「すごく面白かったです!登場人物全員が主人公でそれぞれにストーリーがあるなんて、とても奇抜で面白かったです。」


「そうなんだよ、あれを考えるのには2ヶ月くらいかかった。今また新作書いてるからさ、また感想聞かせてよ!」


 新作を作っているなんて情報、まだ公開していないはずだ。先んじて教えてもらえるなんてなんだか嬉しい。


「題名はなんて言うんですか?」


「いや、まだ決めてないんだよね。」


「へーそうなんですね、じゃあ!あらすじだけでも教えてください!」


「少しだけね、えっと……不治の病を患っている女の子がいて、その子は絵を描くのが大好きで、それだけが心の支えなんだよ。そんなある日、その子にはもう1つ、支えができる。自分の絵の感想をいつも伝えてくれる男の子。そうしているうちに男の子は女の子が好きになってしまうんだが……と、ここら辺までにしておこうかな。」


「えー、もっと聞かせてくださいよ。」


「完成してからのお楽しみということで。」


 千代は驚いていた。まるで自分のことを書いたようなストーリーだったからだ。そう、千代にはもう1つ、心の支えができていた。


 それからも千代は毎日図書室へかよった。心臓がいつまでもつのかも分からないが、できるだけ長くこの人といたい。と、そう思った。思ってしまった。

 清には病気のことを言っていない。いや、言えずにいる。彼だけには自分を病気の可哀想な子ではなく、1人の女の子として見てほしかった。どこにでもいる女の子、泉レンの小説が大好きで、あなたの事も大好きな女の子として...


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「ねえ、もしかしてその小説って……」


「そうです。【月夜の君へ】です。」


「おお、伏線回収だね。」


 そんな話を2人がしている隙を見計らってか、晃大が小声で純太に話しかけた。


「なあ、佐藤さんって霊なんだよな?てことは、死んじまったってことだろ?しかもこんな若いまま。どうして死んじまったんだ?」


「病気だったんだって、心臓のさ」


 こんなこと、本人の口以外から誰かに教えるなんて失礼だと思ったが、もう一度そんな辛いことを言わせるのも気が引けた。


「そうなのか……」


 晃大もこれ以上聞きはしなかった。


「ごめん!私今日習い事があってさ、今日は帰らないと行けないんだよね、だから今日はここまででいいかな?」


 渡辺は習い事をしているようだ。純太にとっては少し意外だった。別に気にならなかったので深く追求はしなかったが……


「ああ、また明日。」


 周りを見渡す。佐藤が笑顔で渡辺に手を振って


「また明日」


といった。渡辺もそれに答える。いつの間にそんなに仲良くなったのだろう、


 タイミングを見て晃大も


「てかもうこんな時間か...俺もそろそろ帰らないとな……」


 お先!と図書室を出ていった。


 図書委員の仕事が終わっていなかったことに気がついた。もう少し、残って行くとしよう。

 2人取り残され、気まずくなった純太は1人席を立った。

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