第5話 翡翠の洞窟

 冒険者ギルドを出たクレイ、バート、ヒオリの3人はそのまま真っすぐに翡翠ひすいの洞窟に向かった。

 帝都の東門から出て歩いて1時間程度、視界の先に大きな洞窟が見えてくる。

 壁や床に緑に光る鉱石が所々に散見されるかなり広い洞窟である。


 翡翠の洞窟に出現する魔物はスライムとスケルトンの2種類のみ。どちらもFランクだ。

 スケルトンもスライムも駆け出しの冒険者でさえ楽に倒せてしまう魔物であるため、翡翠の洞窟は初心者の冒険者に人気な狩り場なのだ。


「今のところは異変は無さそうね」

「だな。出てくる魔物もスケルトンとスライムだけだし」


 数匹いたスケルトンを一振りで叩き切ったバートとヒオリが呟く。

 バートの手には背丈ほどもある斧が握られていて、ヒオリは白く光り輝く長剣を手に持っている。これらが彼らの主な得物である。


「聖剣アスカロンか」


 バートがヒオリの持つ白い剣を見ながら言う。その表情は少しだけ儚げ。


「ええ。かっこいいでしょ?」

「ああ。すげえ神々しいな」


 聖剣アスカロン。別名、竜殺しの剣。

 かつて世界中を暴れまわっていた竜を斬り裂いたと言われている伝説の剣である。

 聖剣自体に意志があり、使用者を聖剣自体が選ぶ稀有な剣だ。彼女が持っているという事は、この聖剣に選ばれたのがヒオリであるという事なのだろう。


 クレイはそんな聖剣アスカロンをちょっとだけ微妙な目で見る。クレイにとってあまりいい思い出の無い代物だ。


「とりあえずいったん休憩しようぜ。もう周囲に魔物は居ないっぽいし」


 聖剣の話題を逸らすかのようにクレイが言う。

 翡翠の洞窟を探索し始めて既に2時間ほど。丁度翡翠の洞窟の半分ほど探索し終えた所なので休憩には丁度いい時間である。

 急いでいるとはいえ疲労で動けなくなっては意味がない。休憩は適宜取る必要がある。


「そうだな。一応魔石も回収しておくか」

「回収すんのか? スケルトンとスライムだぞ? そんなに高く売れないっしょ」

「でも放置すんのもったいねえじゃん」


 まだまだ元気なのか、バートが倒した魔物たちから魔石を回収し始めた。意外と貧乏性なところがある。


 魔石。魔物が必ず持つ、魔物の心臓のようなものだ。

 冒険者が魔物を狩る主な理由はこの魔石の採集にある。魔石というものは結界内部の人間に高く売れるのだ。その為、冒険者ギルドも冒険者から魔石を高く買い取っているのである。


 じゃあ何故、魔石は高く売れるのか。それは魔道具まどうぐと呼ばれる、魔力を注ぐことで様々な効力を発揮する道具の材料となるからだ。

 火を付けたり、水を出したり、人の身体能力を強化したり、魔術を使えたり。様々な種類の魔道具が存在するのだ。

 そんな魔道具の核となるのが魔物の魔石なのだ。

 魔道具の性能は魔石によって左右される。強い魔物であればあるほど、高性能な魔道具を製造できるのである。


「そのバングルは魔道具?」

「ああ。身体強化用だ」

「へえ、結構おしゃれね。魔道具って機能性重視で武骨なものが多いのに」


 ヒオリがクレイの右手首にあるバングル型の魔道具を指差しながら言う。


「これは掘り出し物でな。闇市で手に入れた」

「あ~。正規品じゃないんだ」

「そゆこと。だからまあ、おすすめはしないよ」

「そう。残念」


 ヒオリが残念そうにため息をつく。

 魔道具には国から認可を受けた正規の企業が作った魔道具の他に、国に内緒で作られた非正規の魔道具がある。正規品の場合は国からの許可を得ているため性能もお墨付きなのだが、非正規の場合は性能はピンキリだし、使う事で使用者に健康被害などの不利益が生じる場合もあるのだ。


「魔道具はおしゃれなのにクレイ自身はだらしない見た目よね。髪のぼさぼさくらい直したら?」

「毎日整えるの面倒なんだよ」

「うーん。顔も体格も男らしいんだから、髪さえどうにかすればかっこいいと思うのに」


 ヒオリが自然に外見を褒めながらクレイの顔をじっと見つめる。ヒオリみたいな美人にそんな事を言われると少し照れる。


「ほんとか?」

「うん。モテそう」

「じゃあさ、髪整えたらヒオリも惚れちゃったりする?」

「ふふっ。それはどうかしら?」

「そっか。そりゃ残念」


 冗談を言い合いながら笑い合うクレイとヒオリ。


「俺が魔石回収してる間に何いちゃついてんだコラ」


 そんな2人に青筋を浮かべながらバートが近付いてくる。


「終わった? じゃあ先に進みましょうか」

「は? 休憩は!?」

「バートはまだ元気でしょ?」

「いや、まだ元気だけどよぉ…………」


 バートの反応を見てヒオリはくすくすと笑う。どうやらバートは揶揄からかわれただけのようだ。


 結局あと5分程度休憩した後、クレイたちは探索を再開した。









 それからさらに3時間後。翡翠の洞窟の奥部にまで足を進めたクレイたちであったが、未だに異変らしい異変は見つかっていなかった。


「何も見つからないわね。もうほとんど探索し尽くしたってのに」


 冒険者の大量の失踪が魔物の仕業であれば何かしらの異変はあるはずだし、人為的なものであればその痕跡がどこかに残っているはず。だが、そんな痕跡は未だ見つかっていない。


「考えられるとすれば、冒険者ギルドが動いているのを知ってすでに撤退したか。もしくは――――」


 クレイが顎に手を当てながら言う。


「もしくは?」


 勿体ぶった言い方をするクレイをヒオリが急かす。


「――――何らかの異常事態が発生して、撤退を余儀なくされたか」


 クレイが言った、その瞬間――――、


「きゃあああああああああああああ!!!!!」


 少女の甲高い悲鳴がクレイたちの耳に届く。


 その瞬間、クレイたちは駆け出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る