ご来館いただき

「……で、レッドドラゴン討伐の報酬にこんなどデカい館をいただいたってかぁ。はっ、いいご身分だねぇ?」


 ドーメルの街の中央通りから西に歩いて30分、山に隣接する自然豊かな土地に存在する洋館。つまりはリクトが町長からもらった館にアーランクルとボコボコに腫れ上がった顔のロックは辿り着いた。

 ロックの話ではガルシアを背負って館に連れ帰るリクトの姿を見たとのことだった。


「いやぁ〜、討伐報告を耳にした町長がお礼としてなんとしてでも受け取って欲しいと懇願してきたみたいなんですよぉ、旦那!」


 つい先程の強気な態度と打って変わってヘコヘコへりくだるロック。格上の暴力の前では冒険者の誇りなど埃のように吹き飛ぶだけなのだ。


「まっ、んなこたぁどーでもいいんだけどよぉ。テメェ昨日ほざいてたな?あのリクトってガキが『』だっつって。ありゃホラじゃねえだろうな?」


「い、いやぁ…そこまでは……」


「あぁ!?」


「すすすすみませぇんっ!!!!」


 本来のアーランクルの獰猛な恫喝にすっかり屈服しきったロックは仔犬のように飛び上がりそのままジャンピング土下座をかました。今の彼はアーランクルの機嫌を損ねないことに全神経を集中させている生き物だ。


「あ…あっしも、直接確かめたわけじゃないですけど……討伐レベルSのレッドドラゴンの角を持ってきたもんですから本当なのかなって……」


「なんだ曖昧だなぁオイ!『10』転移者様だぜ!?いくら実力はあれど転移者騙りの輩なんざ腐るほど見てきてんだよ!!」


「ヒイィッ!!!」


 ドギャと甲高い金属音とともに門扉を蹴り砕くアーランクルに本日18度目の命の危機を覚えるロック。そのうち17回は館に向かうまでの30分でたびたび発生しているが一向に慣れることなく今回も元気に腰を抜かしている。


「あー、これ以上テメェに聞いても仕方ねぇな。あのガキ、ボコしてガルシア連れ戻すついでに『』問いただしてやるか」


 門扉の残骸から足を引き抜いたアーランクルはそのままツカツカと屋敷の扉まで足を運び


「お邪魔しまーーー!!!」


 と、その足で扉を蹴り破った。玄関門を蹴り砕いた時からなんとなく予想はしていたロックだが、いざやられると心にくるものがある。唖然としているロックに対して


「オイデカブツ、さっさとガルシアを見つけろ。出来なきゃ更に面白えツラに整形させっからな?」


 と、息を吐くように脅しをかけてくるのでなんらかの奇跡が起こって解放されますようにと心の中で祈りながらロックは恐怖で衰えきった直感を頼りに目についた部屋の扉を開けようとしたその時



「邪魔するなら帰ってよ」



 屋敷の奥から聞き覚えのある声が響いた。その声を聴いたアーランクルは青筋を、そしてロックはここがチャンスとばかりに


「リクトの旦那ぁ!!助けてくだせぇ!!!」


 即座にアーランクルから離れ、声がした方向へ駆け寄った。







ゾワァ…!!




 言いようもない悪寒を感じたアーランクルは彼から離れようとするロックの背中を無造作に掴み、自身の側に強引に引き戻した。その瞬間。



 先程までロックがいた場所を高速で駆ける何かが通り過ぎ



ボガアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!



 爆発にも見紛う衝撃が屋敷の壁を襲った。ガラガラと崩れ落ちる瓦礫、その中央には屋敷の主リクトが立っていた。


「オイッ!!今すぐここから出ていけ!!でないと殺されるぞっ!!」


「ヒ、ヒィッ…!!」


 正真正銘、命の危機を感じたロックは足がもつれながらもなんとか屋敷から逃げおおせた。その姿を確認したアーランクルは小さく胸を撫で下ろす。


「……俺は躊躇いなく人殴れるクズだけどよぉ、テメェみてえに躊躇いなく人殺せるゴミの言うこと聞く筋合いはねぇな」


「ふーん、あっそ。君がここに来た目的は分かってる。確かにガルシアはここにいるよ」


「あっさり認めたな。それじゃあ返しても────」


 アーランクルが最後まで言葉を紡ぐことは無かった。瞬間、殺気を放ったリクトが目の前に現れたからだ。数瞬後の未来を予期したアーランクルはすぐさまその場から離れた。



ボゴオオオオオオオオオン!!!!!!!!



 床を砕き破壊する轟音が響き、瓦礫が周りに飛び散り砂煙がもうもうと辺りを覆う。


「なぁ〜るほどね……転移者の話は未だ眉唾もんだが、レッドドラゴン倒したって話ならあながち嘘じゃねえようだな」


 アーランクルが喋り終えると同時に砂煙が晴れる。そこには瓦礫の上に立ち、両腕から尋常ではない魔力のオーラを放つリクトの姿があった。


「先に僕の家を壊したチンピラの言うことなんて聞く筋合いないよね?」


「ははっ、ちげえねぇ!俺もテメェも互いの言うことを聞かねぇ……なら、やることは一つ」


 アーランクルは腰に携えた剣を抜き



「力づくでガルシアを奪い返す!!!」



 リクトに飛び掛かり、その手の剣で切り掛かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る