Day 45 寒冷道:氷結
寒冷区域の平均気温はマイナス5℃。
今いる場所みたいに比較的温かい場所もあれば、マイナス二桁の場所もある。
「この先の山に洞窟がありますが、気温はかなり下がります。お気をつけ下さい」
「うぅ……寒いよぉ」
ヴィクトリアさんは寒さにかなりの弱いみたいで、ガクガクと震えてナナシムに引っ付いている。
「ナナシムさん体温高いのかな、温かい……もう私、ナナシムさんから離れたくない。クロ君がいらないなら私が貰おっかな」
「私みたいに捨てられた女で良ければ……ヴィクトリアさん、貰ってください」
二人の世界に入らないで欲しい。
それとナナシムにヴィクトリアさんを取られたら本当に悲しい事になるので、冗談でも辞めて欲しい。
雪に埋もれないように浮いている道案内の看板を頼りに進む。
道中、ヴィクトリアさんが雪で隠れていた段差に足を取られて捻ってしまった為ナナシムが背負っている。
少しアクシデントがあったが、小さな町を見つけたので、そこに宿を取ってヴィクトリアさんを休ませる事にした。
「ごめんね……」
「気にしないで下さい」
町と言っても宿と飲食店、道具を売る店があるだけの場所だ。
更には無人なので、下手な町よりも静かで落ち着くだろう。
「私達は洞窟に向かいます。ここは無人ですが一応内側から鍵を締めておいて下さいね」
「はい! 気をつけて下さいね、ナナシムさん!」
俺もいるんだけどな、アハハ。
悲しみを背負い、宿から離れて山を進む。
「ヴィクトリアさんは私に惚れてるみたいです、いえーい、ピースピース」
「うるさいぞナナシム」
雪の下の氷で滑らないように気をつけ、ナナシムの指示通りに進んでいく。
登ったり下ったりの道を越え、幹に毒棘のある木の森を越え、丸一日かけて進み続けた。
「そういや、エムエムさんとは何話してたんだ?」
「乙女の秘密ですよ」
「真面目な話なんだけど、どうして何も教えてくれないんだよ」
「話さない訳ではありません。話せないと言うのが正しいです」
話せない?
「どういう事だよ」
「ファスタニアに近づけば近づく程、私は私の記憶領域の奥にある古い記憶にアクセスできるようになっています。ぼんやりとですがどこまで進めば何を思い出すかはわかります、タイトルは分かりますが中身が一切不明なので話せないのです」
嘘は……言っていないな。
昔から冗談を混ぜず真面目な話をする時、ナナシムは手を前で組む。
ふざけている時や嘘を付くときは後ろ手だ。
「ここを超えて、次の目的地に行けばまた記憶にアクセスできますから、その時にお話します」
「絶対だぞ」
「嘘はつきませんよ」
後ろ手で笑う彼女に雪をぶつけてやった。
「戦争に参加していたらしいけど、お前はどれぐらい……」
どれぐらい人を殺したんだ?
今そう言おうとした?
知ってどうする、例え何百人殺しても、ナナシムはナナシムだ。
「何でもない」
「戦争中、味方が一番の敵だったと言う事だけは今も覚えていますが、何処で何をしていたのかは覚えていません。自分に関する事やクロ君に関する事はかなり奥、ファスタニアに到着する前ぐらいにならないとわかりません」
「お前に関する事は言いたくないならいいよ。お前にどんな過去があろうとも、俺は絶対に側にいるし、俺が守ってやる」
「別に口説かなくても、生殖活動のお手伝いならしますよ?」
「いらないし意味ないから!」
谷のような場所。
そこに大きな横穴があり、おそらくだがアレがナナシムの言っていた洞窟だろう。
「ナナ」「ありがとうございます」
「ずっと側にいる、守ってやる。そんな言葉をかけてもらえるなんて思ってませんでした。……教えてませんでしたから」
ここまで感謝されるとこっちが恥ずかしくなるな……。
「と、とにかく行くぞ」
「どこまでもお供します」
俺達は谷を降り、洞窟の前にたどり着いた。
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