Day 8 ムウマ・C・ルールー


 

 「ヴィクトリアさん、こちらへどうぞ」

 

部屋の奥から驚く程ムユリに顔の似た女性が現れた。

肩まである髪は、ムユリと違って顔を隠さず、笑顔がはっきりと見えていて、同じ顔なのに明るい印象を受ける。

 

「別に居てくれてもいいんじゃないですか?」

 

ムユリにそう言ったが、彼女は顔を横に振った。

 

「ヴィクトリアの、仲間が生きているかもしれない情報がある、お姉ちゃんが、案内する。」

 

「私の仲間……い、行きましゅ!」

 

慌てて噛む彼女は見ていてほっこりする。

ペコリと頭を下げ、手を振った後でムユリの姉が来た場所へ向かって行く。


「…………フフッ」

 

ムユリの姉は綺麗な笑顔を俺に向けてきて……なんだろう、ムウマと同じ顔なのにヴィクトリアさんの笑顔のような、くる物がある。

 

「クロ君?」


ナナシムに睨まれたので大人しく前を向く。

ちょっとよそ見したぐらいで、本当に融通の効かない奴。

 

「クロ?。ああ、仮の名前か。」

 

ムユリは紅茶を飲み、俺にも飲むように勧める。

……いい香りだ、でもそこまで美味しいとは思わない。

飲み慣れてないだけか?

香りほどの味じゃない。

 

「さて。君の母親から、頼まれてるのは、君の教育と修行。ファスタニアへ向かえるだけの、力をつけさせる事。」

 

母は俺がファスタニアに向う事を知っていた?

確かにナナシムからファスタニアには母の遺産があると言われているし、手紙にもそうある。

ナナシムと母は知り合いだったと聞いたし、向かうようにと指示されていたのだろうか。


「ファスタニアからの刺客、砂の男は、どうやって倒した?。」

 

「それは、その、ヴィクトリアさんとナナシムがやってくれました」

 

「あれぐらい、一人で倒せないと困る。」

 

違和感。

この女の言葉にとてつもない違和感を感じる。

どこだ、どこに引っかかっている?

 

「一月、ここで修行する。勉強も、戦いも私が教える。」

 

「わかりましたか?」

 

不安と違和感。

二つに襲われていた俺だったが、ナナシムが俺の手を握ると、そんな感情は全てどこかに吹き飛んで消え、前向きな感情だけが込み上げてくる。

 

「ああ、よろしく頼むよ、ムユリさん」

 

「ムユリでいい。後、色々接するし、二人きりにもなる。でも、惚れないで、無理だと思うけど。」

 

この人……やっぱり苦手だ。

 

 話が終わった後、屋敷の中の一部屋を貸してもらえる事になり、今日はゆっくりするといいと言われてしまった。

一月しか無いのだから、勉強なり修行なりしてくれればいいのにと思うが、愚痴を言う相手、ナナシムもムユリさんもここにはいない。

 

『少し話をしてきます、大人の話ですから先に戻っていて下さい』

 

「大人の話って、俺も一応成人してんだぞ」

 

せっかくだし屋敷の中を見て回ろう。

別にダメなんて言われてないし、見られて困る物なんて無いだろ。

 

 綺麗な壁に染み一つ無い絨毯が廊下の床に敷かれていて、天井には等間隔で明かりが灯っている。

こんなにも豪華な場所には来たことが無いので、絨毯の上を歩くのすら少し緊張してしまう。

 

それにしても広い。

ここまで広くする意味があるのだろうか。

攻められたりしたら守るのが大変だろうに。

 

部屋は他にもいくつかあるが、俺が開けた部屋は俺が使っている部屋と同じ物ばかりで、自分の部屋がどこにあったのか分からなくなってきた。


「同じ部屋をこんなに作って何になるんだ」

 

どうせ同じ部屋だろうと思い、ドアノブを回す。

 

「…………あら、襲いにきたの?」


目の前の女性の髪と、俺の体から水滴が落ちる。

やってしまった。

タオル一枚の女性、ムユリに対して俺は頭を下げて謝罪をする。

 

「そ、その、襲うとかそんなんじゃなくて……そもそも性欲は解除してないからそんな事も出来なくて……えっと……」

 

「なーんだ、襲いに来てくれたのかと思っちゃった」

 

さっきまで髪は濡れ、服も着ていなかったムユリは俺が頭を上げた時にはもう服を着ていて、髪も乾いていて……。

 

「自己紹介がまだだったわ。私はムウマ、ムウマ・C・ルールーよ」

 

ムユリではなく、ムウマだった。

 


 

 

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