Day 6 電気の型


 爆音が鳴り響き、男にダメージを与えたが、俺は音に驚きすぎて動く事を忘れていた。

 

 「てっめぇ!」

 

腕を失いつつも、魔法使いの男は左手を空に掲げ、空に浮かんだ砂の塊を俺達に向けて発射した。


あの両方の砂の塊はかなり早く落下し、俺が武器を構えるのよりも少し早く砂が襲いかかってくる。

あの砂に押しつぶされれば間違いなく終わる。

恐怖で足、腕を動かすのが遅れてしまった、訓練ではこんな事無かったのに。

 

「じっとしていて下さい」

 

ナナシムが俺の懐から素早く刀を取り出し、砂の塊を切り落としていく。

だが手数の差は圧倒的に、魔法使いの方が上で、ナナシムに抱えられる形で後ろへ下がった。

 

「助かった」

 

刀は再生中で、あのナナシムが使っているのに折れている事から凄まじい実力者だと確信した。

本当に油断すれば殺される、確実に、確実に殺される!

 

「あの人は強いです。少し本気を出さないといけません、刀、お借りします」

 

ナナシムが刀を持って男に襲いかかった。

あの刀は垂直に切らないと刀身が折れてしまうのに、ナナシムが振るうとまったく折れず、何でも斬る無敵の刀のようになっている。

さっきは俺を守りながらだから折れていたのか、今は全く折れずに攻撃を続けている。

まるであの刀は、彼女の為に作られた物なのではないかとも感じる。

 

「機械人形風情がが人間に勝てると思うな!」

 

「勝てますよ、前回と同じです」

 

俺は……何も出来ない。

武器はあの刀一振りだけで、もう何もない。

魔法は使えるが、あのレベルの魔法使いに対して使える魔法なんて知らないし、思いつかない。

 

「クロ君!」

 

ヴィクトリアさんが戻ってきた。

そうだ、彼女の銃を貸してもらえば……。

 

「ヴィクトリアさん、銃を貸してください!」

 

「……気を悪くしないで欲しいですけど、クロ君じゃまだ撃てません」

 

まだ撃てない。

その意味は分からないが、貸せないと言われてしまった。

ヴィクトリアさんはペコリと頭を下げると、輝く刀身の剣を取り出して男の所に走った。

 

「もう一人!?」

 

「ていやーっ!」

 

砂嵐に当たるとヴィクトリアさんの剣ばバチバチと火花を上げ、より一層きれいに感じる。

男は出血を止めるべく、二人の相手をしながら砂を固めた物を傷口に当てつつ砂を操っている。

 

 俺は、何をすれば……。

 

「気を引くんだ、魔法しかないだろ」

 

俺はあの魔法使いのような魔法は使えない。

才能があるかどうかは分からないけれど、俺にとっての先生はナナシムだった、彼女は魔法の知識を授けてくれたが実際の魔法は殆ど教えてくれなかった。


それでも教えてくれた魔法の一つを試す時だ。

 

「まず一人!」

 

男の砂に意識が向かっていたのか、ヴィクトリアさんの首に男の左手に握られたナイフが向かう。


「俺だって!」

 

俺は引き寄せの魔法を使った。

魔法を使うと体がだるくなって、使いすぎると体が動かなくなるが、この魔法はそこまでだるくはならない。

だがその分効果は対象が自分から十メートル以内にいなければ引き寄せるられないと言った制限もある。

 

「お前……魔法使いか!?」

 

「奥の手は最後までってやつだ」

 

引き寄せを解除したり、引き寄せたりを繰り返して男バランスや意識を分散させ、ついに。

 

「……ッ」

 

男は倒れた。

おそらくだが出血が原因だろう。

体の至る所に斬られた傷があり、かなりの血液を失っていたはずだ。

 

「ハァ……ハァ……お、終わりましたか?」

 

ヴィクトリアさんもかなり疲れたようで、肩で息をしているし、手や足から出血もしている。

ナナシムは……何ひとつ怪我をしていない。

ヴィクトリアさんがナナシムを見て"すごい"と言ったが、まだ機械人形とバレてない事を祈ろう。

 

男が倒れて砂嵐が止まった。

今俺はヴィクトリアさんの手当てをしている。

 

「えへへ、ありがと」

 

彼女の腕や足にさわっていると、何かこう、胸の奥から込み上げてくる物があるのだが、それをうまく言葉にも表現も出来なくて、つらい。

 

「あの……もう手当ては終わってるよね? そんなに……えーっとその、何か魔法がかけられてるとかなの?」

 

触りすぎて軽い注意を受け、俺はさっと彼女から離れた。

 

「すいませんでした!」


「手当てありがとね! ……あのねクロ君、これ握ってみて」

 

渡された銃を構えてスコープを覗く。

黒い十字が浮かび上がり、覗いた先にある岩までの距離や風向き等が表示される。


『供給不可』

 

そしてスコープに、赤い文字でそう浮かんだ。

 

「この銃は特別製で、自分の中の電気を流し込んで弾にするの。だから電気の型の調整をしてないと撃てないの」

 

電気の型。

知らない単語だ。


ヴィクトリアさんが俺の手首にリストバンドを着けて、それと銃を繋いだ。

何でも"登録しておく"、だそうだ。

 

「回収終了しました」

 

ナナシムには男の所持品や金をあるだけ貰ってこいと言っておいた。

どうやらあまり金は持っていなかったらしいが、身分証があったらしい。

 

「ファスタニアのアウ・グーラ……」

 

あの男はファスタニアから来た。

 

『人を探している、君みたいな男と機械人形をな!』

 

……いや、俺達じゃない。

ナナシムも俺もファスタニアには行ったことが無いんだ。

人違いで襲うなんて、どうかしてるよ。

 

 



 

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