Day 4 闘いの刻 ヴィクトリア


 四人は串刺しになった二人を救出不可能と確認すると、より慎重に進み始めた。

俺達のいるセーフハウスはこの屋敷の最深部で、ここに来る為のルートは一つしかない。

しかもこの道は何度も右左折を繰り返してたどり着ける場所だ。

 

さらに相手は俺達がどの部屋にいるのか分かっていない。

だが、こっちからは魔法で動きが丸見えだし、ある程度の誘導はしてある。

俺の魔法のレベルじゃ音まで拾えないけれど、多分俺達の罠に引っかかっている。

 

「罠を意図的に作動させた部屋に入りそうです。用意をお願いします」

 

この部屋にあった元々の罠は作動済みの形で置いてある。

奴らは俺達がこの罠にかかったとして確認を死に来るだろう、だが、その気持ちは俺達が誘導した物だ。

 

「撃ちます」

 

壁に仕掛けた銃が入口めがけて発射された。

ここでも前にいた二人に命中、後ろの一人の腕をかすめた。

 

「ヴィクトリアさん」

 

「は、はい!」

 

その部屋に至る道は既に俺達の手中だぞ。

心の声が聞かれたのか、ナナシムがこっちを見て笑った。

育ての親だ、何を考えてるのか表情で分かるんだろうけど……見透かされてんなぁ……。

俺達の罠は入口だけじゃない後ろからも追い詰める。

 

 ヴィクトリアさんが押したスイッチが通路に黒色の煙を流し込む。

相手は銃が飛んできた部屋に進むか、謎の黒い煙が吹き出す道を戻るかを選択される。

ここまで罠にかかり続ければ煙が毒だと思うだろう、が、あればただの黒土を混ぜて煙を出しているだけだ。

 

残ったのは二人、一人は腕を怪我していて戦力にはならないだろう、チャンスだ。


「そろそろ行くか」

 

 奥に進めばまだ罠はある、あるが、前の二つのようなクオリティの罠じゃない。

逃さない為にも、俺達がうってでる必要があった。

 

 足音を殺して二人のいる部屋に近づく。

どうやら一人が傷の手当てをしているようだ。

 

「私は左の手当てしている方を、お二人は手負いの者をお願いします」

 

小声でナナシムが指示を飛ばし、俺とヴィクトリアさんは顔を見合わせてからうなずいた。

 

「機械人形がいたって聞いてたけど、ここまで読まれてるとはな……あはは、痛ッ!」

 

「もうバカ! じっとしてなさい!」

 

手当てをしているあの女の声、聞き覚えがある。


"殺すな"

ナナシムにそうハンドサインを出し、俺達は襲いかかった。

 

鞘から素早く刀を抜く。

ヴィクトリアさんとは違う、輝きはしない刀、母の使っていた刀とナナシムから聞いたが本当の所を俺はしらない。


この刀は恐ろしい程脆い。

切る対象に対して垂直に、まっすぐじゃないと刃が折れてしまう。

だが、垂直に入ればこの刀で切れない物なんて無い。

 

俺は刀の先端を折り、手負いの奴に向かって投げつける。

足に突き刺さったらしく、男は声を上げた。

折れても数秒で元に戻るこの刀だからこそ、飛び道具みたいな使い方もできる。

 

「ッ! 小僧!」

 

「相手はこの私ですッ!」

 

戦争時代の人の戦いを初めて見るが、驚いた。

俺よりも早く男の懐に入り込み、剣を男の胸に突き刺し、上に切り上げて頭を真っ二つにした。

早い、それでいて確実に急所のみを狙う剣の技術……すげぇ。


しまった、感心してる場合じゃないじゃん!

ナナシムにはハンドサインで殺すなと指示を出したが、ヴィクトリアさんには言っていなかった。

 

「ガーロフ……あがっ……」

 

「捉えました」

 

ナナシムは最後の一人を羽交い締めにし、拘束している。

足を使い、抵抗しようとしているが、人間がナナシムに勝てる訳が無い。


「離して! 離してよ!」

 

「メイド服が汚れます、動かないで下さい」

 

ナナシムの警告も意味なく、腕の中でジタバタしている。

流石にイライラしたのか、ナナシムが片腕を掴み、力を込めた。

鈍い、いやな音がした。

 

「仮面を外せ」

 

ナナシムが仮面を取り外すと、声から察していたあの人の顔が現れた。

苦痛に歪む顔。

それでも情報を与えないようにする為か、無言を貫いている。


「説明してもらいましょうか、ウィナさん」

 

俺の問いかけにも、ヴィクトリアさんの呼びかけにも答えない。

 

「自白を待っていてはきりがありませんし信頼できません。ここは私がやりましょう」

 

ナナシムがウィナさんを連れ、奥の部屋に入って行った。

おそらく脳スキャンで情報を取り込むつもりだろう。

中からスキャンの音とは違う、人を痛めつける音もするが、自業自得だろう。

 

「ナナシムさんは何しに行ったのですか?」

 

返り血を拭いているヴィクトリアさんが不思議そうな顔をしている。


「えっと……拷問じゃないかな、ナナシムはそういうの得意だから」

 

成程と納得するヴィクトリアさん。

それにしても……。

 

「ヴィクトリアさんって強いんですね」

「ナナシムさんって強いですね!」

 

発言が被り、お互いに笑った。


「あの速さで背後を取るなんて、私の知り合いでもできる人は限られてますよ!」

 

「知り合いにナナシムと同じ動きが出来る人が……どんな人ですか?」

 

「んっとね、んっとね……確か……」

 

ヴィクトリアさんの顔から笑顔が消えた。

 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る